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勇者がいないファンタジー世界で俺は……  作者: アルねこ
第1章 生誕編
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第十一話 これを すてるなんて とんでもない!

 ファルファシオンに到着後、衛兵に事情を伝える。俺は馬車に相乗りさせてもらった商人に礼を告げると、早速詰所に連れて行かれることとなる。詰所は小さいテーブルと椅子が4つほどで、人が数人入れば一杯になるほどのスペース。待つ間に一緒に居た衛兵の人にあることを聞いてみる。


「『勇者』なんだそりゃ? 食べ物か何かなのか?」


 知名度どころの問題ではない。完全に何であるかも全くご存知でない様子だ。魔王がポコポコ居るぐらいだし、勇者の一人や二人は余裕だろと思っていたが、完全に希望的観測になっていたようである。勇者ついでに魔王の存在について聞いてみたところ、畏怖(いふ)の象徴として知っているらしい。勇者の知名度が相当低いのか、もしくは勇者自体が存在しないのか。


 そして今後の俺の処遇について聞く。いきなりバッサリ切られたり、奴隷とされることは無いらしいから、一安心はしていいとのこと。事情を考慮し、上の裁量で今後の扱いを決めるらしい。


 暫くし、偉いっぽい髭を生やした衛兵が入ってくる。


「君が生誕(ダンジョン)からの帰還者かね?」

「はい、一応そうなっております。帰還者というか逃げてきたというか」

「命あっての物種だ。今は素直に喜ぶといい」

「はい、そうですね」


 思ったより物腰が柔らかい人で助かる。で、俺の処遇となると……。


「取り敢えず、今回は銀貨を免除という形にて、街へ入っていいと許可が降りた」

「ありがとうございます」


 失礼の無いよう、早めに礼を告げておく。少し話をするとこの街の簡単な俯瞰図(ふかんず)が見えてくる。


 まず俺がいる詰所は地図の下にあたる場所に位置する。他に店、宿、工房等が立ち並ぶ街並みらしい。反対側地図上は貴族の屋敷や平民の住居が立ち並ぶ場所とのことだ。街を治めている方がファルファシオン伯爵。街の名前と一緒である為、覚えやすくて楽だ。


 街に出て再度入る際は、次回しっかり銀貨を徴収する為、注意するようにと言われる。いかんせん金が無い為、いい仕事がないか聞いてみる……。


「そうだな……。ダンジョンから出てこれるというぐらいだから、お前さん魔力あるだろ。冒険者はどうだ?」

「実はですね。俺腕っ節はからっきしで、命からがら逃げてきたものですから。できれば今後もうダンジョンの世話にはなりたくないと……」

「そうか……。ところで気になっていたが、あんな宝も何も無い所に何故潜ったのだ?」


 どうやら生誕の貧乏事情は人族にも知れているらしく、入っても何も得することが無いという認識のようである。


「気づいたらダンジョンの中に放り込まれておりまして、HAHAHAHAHA」

「そうか魔族に連れ去られたのか。前はどこの街に住んでいたのだ?」


 いい具合に誤魔化せたことにちょっとホッとする。


「実は以前の記憶も曖昧でして……」

「そうか悪いことを聞いたな。だが安心するといいこの街はお前を歓迎する…………そう、今のところはな」

「さらっと怖い事言わないで下さい」

「すまんすまん。まぁ悪いことをしなければ、歓迎するというのは本当だ」

「話を戻してすみませんが、実は金の当てが全く無くてですね、着るものも無いような状況でございまして」

「お、おう……」


 凄い気の毒そうに俺の様子を見る衛兵のお偉いさん。衛兵の人からボロボロになった上下を1着頂けることとなった。下は『下衣(ボトム)』というものであり、日本でいうところのステテコを少々長くしたような簡易着であった。


 パンツやズボンと尋ねてきたが、下に着る服とかいえば通じたのかもしれない。それにしても『パンツ』とは何を意味しているのか、ますます気になってきた……いかんいかん、それは禁句であったと戒める。


 いずれにせよ、ボトムを手に入れたことは、俺にとって非常に大きな収獲である。


 それから詰所を開放されたのは日が沈みそうな頃合いであり、これからどうしようと、途方に暮れてしまう。所持金が一切無い為、住む場所どころか食糧自体が無いのだ。背に腹は変えられない。一度、冒険者ギルドとやらに向かってみる。


 途中で道を訪ねつつ、冒険者ギルドに辿り着いた頃、空は既に真っ暗であった。


「こんばんわ」

「はい、どうしましたか?」


 受付の若いお姉さんに声を掛ける。金無しでこの街に辿り着いてしまい、職を探していることを説明する。生誕(ダンジョン)から脱出してきたということも添えておいた。


「一度、魔力を測りましょうか。冒険者の素質があれば、支度金をお貸しすることもできるので」


 文無しの俺に取ってはこの上ない朗報である。そして用意されるのは生誕でも用意されていたゴツゴツした水晶玉。駄目だこれ、嫌な予感しかしないわ……。


 そして以前あったアレをリプレイするかの如く、水晶球に片手を当てて、両手を当てることを試す……。


「お兄さん、本当に生誕(ダンジョン)入ったの?」


 凄いジト目で睨まれる。入っていたのはマジで事実ですからね。ただどうして魔力が感知できないか、一切不明なのである。必至にダンジョンに入れたことをアピール。


「しょうが無いですね。少し待っていて下さい」


 その場で待つこと数分。ヒソヒソと嘲笑交じりの話し声が聞こえてくる。アーアー聞こえない。聞かないようにする。聞いてしまえば心が砕けそうだ。


「お待たせしました」

「こちらが?」


 先程の受付のお姉さんと一緒に来られた方は、凹凸の少ない体型にシンプルなワンピースを着こなす、気品ある女性であった。貴族とは若干ベクトルが違う綺麗な女性。この世界の女貴族見たこと無いけど。


 一緒にやって来た女性が俺の前に立つと、俺の額に手を添える。隠された力が開放されるとか、そんなフラグであろうか。いや待て、これを考えると駄目フラグに転換……


「全く魔力が感じられませんね」


 既に手遅れでした、はい。


「貴方、生誕(ダンジョン)から来たとのことですが、本当ですか?」


 なんかジット目を見つめられる。照れるとか以前に何かを見透かされているような真剣さである。


「間違いありません。正直実力は全然ありませんが、ダンジョンから逃げてきたことには嘘はありません」

「嘘は付いていないようですね」


 女性が手を口に当て、何かを考える仕草を見せる。


「どういった方法でダンジョンに入ったかは知りません。しかし実力も無く、逃げるだけの人を冒険者として認めるわけにはいきません。案内妖精(ナビゲートピクシー)の恩恵にあやかろうとする()れ者が未だ居ることを悲しく思います」


 溜息をついてその女性がそのまま何処かへ行ってしまわれた……。まぁ仮に俺が責任者でも同じ扱いをするだろうと思う。全く持ってぐうの音も出ない。


 結局笑いものにされて、冒険者ギルドを追い出される形となった。ココに辿り着いた時と同じく、一面は既に真っ暗であり、建物の灯りが哀愁を激しく呼び覚ます。


(まじで今日どうしよう)


 決して大食いな方ではないが、先日から何も口にしていない。空腹で本格的にマズイことになっていた。じっとしていても腹が満たせる訳でも無い為、野良犬のように街を彷徨い出した。取り敢えず世話になった詰所に事情を説明し、何とかしてもらおうと考える。


 トボトボと力の無い足取りで詰所を目指していると、鼻から口に何かを焼く香ばしい匂いが食欲を刺激する。遠目から臭いの場所を見つけ、酒場らしき場所であると理解した。邪魔にならないよう隅に行くと一度腰を降ろす。


 今更ながらかなり無謀な脱出だったと、自身を笑ってしまう。あの無駄な気力は何処から湧いてきたのであろうか。脱出する際のことは勿論、脱出後の計画が全くもってノープランであった。少なくともあの生誕(ダンジョン)に居れば食事は出来た為、ダンジョンを出てきてしまったことを少なからず後悔している自分に気づいた。


 結局、飲み食いするには相応の対価が必要であり、あの生誕(ダンジョン)で必要とされた対価が人を殺すことであった。自分がその覚悟を受け入れられず逃げてきた。あの時の俺は人を殺すぐらいなら、逃げた方がマシだと(・・・・)思っていた。しかし、いざ飯も食えないとなると、あっさりと自分の価値観を壊し始めている。


 空腹で苦しむぐらいならば、逃げなければ良かった。人を殺せば良かったかもしれないと、割と本気で思い始めている。最低で(いや)しい思考に心が偏り、地べたに寝転ぶ。


 ふと、これまでの人達の顔を思い浮かぶ。ちょっとした仲違いをしたが寝床と飯をくれた爺さん。馬車に乗せてくれた商人。街に来た時に良くしてくれた衛兵達。その人達のことを考えると、自分の卑賎(ひせん)な思考を必至に振り払う。良くしてくれた人にせめて顔向け出来るように生きたいと思いつつも……、空腹がその良心を容赦なく蝕む。


 酒場の外に置いてある樽を見る。心臓の鼓動が耳に届く位、激しく鳴り響く。境界線がここにあるとわかっているが、その境界線を越えてしまう。


 樽の蓋を開けると中身は残飯や生ゴミであることに気づく。その時、後悔、残念がっている自分が存在していたが、そんな自分を見ない振りした。


 そして生ゴミ位ならいいだろうという考えで、樽の中身に手を伸ばす──。


「お前、何をしている?」


 後ろから声が掛かり、心臓が跳ね上がる位ビクつく。その声の主に対して頭を下げる。空腹、後悔、悪いことが見つかったこと、何に対してかは判らない。もしかしたら全部かもしれないが涙する。


「ずみません」


 自分の中でそれが悪いと知っていた。だから謝るしかなかった。


「こっちに入って来い」


 声の主に言われるがまま行くしか無かった。入れられた先の椅子に座らされ、水を一杯出される。


「あんなもの口にしたら腹壊すぞ」


 椅子に座らせる俺の目の前に、湯気の立つ食事が置かれる。


「これ食っていいから、それから事情話してみろ」


 出された食事を噛み締めながら味わって食べる。


 結局、目の前の人には隠していた事も含め、大体のことを言ってしまった。生誕(ダンジョン)から来たことや、人を殺せと言われて逃げてきたこと、着の身着のまま、金無し、冒険者ギルドも追い出されてきたことなど、結構大事なことまで全部吐いてしまった。


「どうだタリサ?」

「私はこの男が嘘を付いてるとは思えないね。確かに信じられないようなことばかりだけど」


 恰幅のいいおばさんが、カウンターから顔を覗かせていた。


「お前さん、行く宛無いんだろ? 給料が無くてもいいならココで働きな。まぁ代わりに飯と寝床は出してやるからさ」

「うちのカミさんが言ってるんだ。お前はどうする?」

「……宜しくお願いします」


 深く頭を下げる。その日は店の2階の空き部屋に案内され、寝床に入ることとなる。


 


 俺はその日『衣食住』を手に入れた。多分レア武器なんかよりも、重要な何かである。

少しペースを挙げてうpする予定のため、言い回しや誤字があるかもしれません。何かあればお知らせ下さい。次回は引き続き7/4うp予定

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