第十話 『パンツ』は禁句
脱出後、初めての遭遇者は結構な年寄りの爺さんであった。ダンジョンから脱出してきたこと、森を抜け、ここまで来たことを伝えると滅茶苦茶驚かれた。そもそもダンジョンは普通の人が入ると死に至るものらしく、冒険者でも一定の魔力が無いと出入りすら難しいとかなんとか。初めて爺さんと話した際、冒険者であるかと言われたぐらいである。
その日は爺さんの好意で家に泊めて貰えることとなった。村の住人は30人程しか居ないとのことである。農奴というわけでは無さそうだが、自給自足であり、食糧事情も厳しいらしく、衣類は1~2年に一度位しか変えることが出来ないらしい。思っていた以上にヘヴィーな環境だ。
事情が厳しいことは重々理解していたが、なんとか意を決して遂にソレを告げる。
「パンツを売ってくれないだろうか?」
なんか爺さんがすげぇドン引きしているのだが……。この村にとってはパンツの確保も難しいのだろうか?
「実は……というわけで、俺は素っ裸なんだ。なんとかパンツを売って欲しいのだが……」
俺は少しマントを捲る。状況をアピールしつつ、パンツを売って欲しいことを説明する。さらに爺さんとの距離が空く。なんだろう、明らかに意思疎通が出来ていない状況である。悪化する一方であり、終いには朝には村を出てけとか、パンツが欲しいなら物好きな貴族が居る街に行けばとか言われる始末。
翌朝、状況が悪化してしまったとはいえ、十分に礼を告げた後、爺さんの居た村を後にする。
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他の村人達と爺が、物々しい雰囲気で集まる。
「冒険者だったんべ?」
「冒険者ではないらしい……あの男が言うにはダンジョンから脱出してきたらしいぞ」
「冒険者じゃないのにダンジョン入るなんて、な゛んていのぢしらずなんだぁ」
「あの男、ワシにパンツを売れと言いおった」
「「「はぁ???」」」
爺さんの一言に村人達が驚愕する。
「ワシみたいな男の老骨にパンツを売れとか、頭がイカれちまったとしか思えんわい」
「冒険者じゃないのに、ダンジョン入ってまったからか?」
「ワカラン。もしかしたら魔族に捕まって、頭をオカシクされたのかもしれんわい」
「あ゛んなわがいのに、がわいぞうにな」
「がどいって、オラ達の村に頭のおがしい変態が居ても困るべ」
「ンダンダ」
可哀想と思う反面、身の危険に恐怖する男衆であった。
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村を出て数時間、爺さんとの接触について思い返す。パンツ云々を話したあたりから関係が険悪になった気がする。この世界の【パンツ】というワードは何か別のものを意味している気がする。次の村や街では円滑に進める為、【パンツ】というワードを封印する。そもそもなんでパンツ一つでこんなに四苦八苦しないといけないのか、全く出鱈目設定は理不尽である。とにかく衣類や服が欲しいと伝えるようにしよう。
街道を黙々と進む。街道といっても緑が若干禿げたぐらいの踏み固められた道であり、森と偶にある木々の景色が延々と続く道程である。休憩の度、村を出る際に貰えた食糧を少しずつ口にする。色々世話になった爺さんの誤解が解けなかったことを心苦しく思う。魔王達に魔人として蘇らされたとか言い、致命的な状況になる関係を予想すると、事情を一つ伝えるのにも一苦労であった。
そうこうしていると、後ろから何やら騒がしい物音が徐々に聞こえ始めた。先頭には馬が2頭繋がれ、後ろに荷車らしきものを牽引しているようである。初めて目の当たりにする馬車は、思っていた以上に結構五月蠅い。これだけ出鱈目設定に慣らされてしまうと、馬車の一つ二つでは大した驚きが無かった。
俺の目の前の少し先で馬車が止まる。休憩した腰を上げ馬車に歩み寄る。馬車に乗っていた50頃の男が顔を覗かせる。
「もしかして冒険者さんですかい?」
「いえ、俺は冒険者じゃないです」
「では傭兵さんで?」
初めて違う単語が現れたことに少々驚く。傭兵てあの傭兵だよな……と頭の中で自問自答。
「多分傭兵でもないです」
「こんな道、一人で危ないぜ。良かったら乗って行くかい?」
すげぇラッキーな展開が起きている気がする。男の申し出に、飛びつくようお願いした。
「乗ってから言うのもなんだが、文無しで本当に大丈夫ですか?」
「問題ねーよ。冒険者か傭兵だったら、金で護衛してもらおうかと思っていたけどな。あそこでサッサと行ってしまったら、気になって今晩ゆっくり寝れねーよ」
男とそんな会話をしつつ、ちょっとした自分の事情を伝える。生誕と呼ばれるダンジョンから脱出してきたこと。着の身着のままである、なんとか衣類や服を調達したいこと。勿論【パンツ】というワードは封印した。なにせこの状況で放置されるのはなんとも回避したいからである。
「お前さんも大変だったんだな。俺はモンスターに村を襲われてな。村から逃げて街の商人の家に厄介になってるんだ」
そんな互いの身の上話や世間話をしつつ街道を進む。頭の中にある知識の一つを掘り出す。
「街に入るのに金があると聞いていたが、どれ位必要か分かりますか?」
このまま街に行っても、別の問題が発生することに気づく。
「普通は銀貨2枚だな」
銀貨2枚というと日本円で20000円から16000円位だろうか。街に入るだけにしては金が掛かり過ぎだろうと思うが、関税も兼ねていると考えれば、この世界の常識なのかもしれない。由々しき問題としては銅貨1枚すら持っていないわけで……。
「そうだな……、普通は何か持っていればな。衛兵を通せば買い取ってくれることもあるが、お前さんのその状態じゃあな」
商人が俺に視線を投げると苦笑いをする。
「取り敢えず街に着いたら、衛兵に一旦相談するのがいいさ。流石にいきなり殺すとか、野蛮なことはしないと思うぜ」
「ありがとう、そうしてみるよ」
「お前さんダンジョンから脱出できるぐらいだし、冒険者にでもなるんか?」
「いや、冒険者にはならないよ。脱出できたのも偶然が重なってのことだし、あんな場所は命が幾つ合っても足りない」
「それはそうだな。しかし魔力が有るのに勿体無いな」
やはりそうだ。ダンジョン出入り可能=冒険者=魔力持ち。どうもこの相関図が世界の常識らしい。生誕では魔力無しと見られていたが、本当は何かしらの方法で魔力が充電できているのだろうか。一度改めて調べてみたいがどうすればいいのか……。商人に魔力を調べる方法を相談してみる。
「んー、普通は冒険者ギルドでの診断が大半だな。もしくは案内妖精に魔力有無を診てもらえる」
突然湧いてきた案内妖精というファンタジー要素。詳しく聞いてみる。冒険者になると、一対のナビゲートピクシーと契約する。このナビゲートピクシーの有無で、冒険者であるかどうかを判断しているらしい。
試しにギルドカードみたいな物が無いか聞いてみたところ、不思議そうな感じでそれは何だと逆に聞かれてしまった。証書みたいなものといったところで内容がようやく伝わるも、冒険者の数はそれなりに居るらしく、毎回書き換えていたらとんでも無い作業だと笑われた。そりゃそうだ。ゲームや本では当たり前のようにあったギルドカードではあるが、そんな都合の良いアイテムがゴロゴロしている筈がない。妙なところで現実感を感じてしまう。
その代わりにナビゲートピクシーという妖精がいるらしいが、うーん出鱈目設定だ。この妖精が居ると光源を得られる他、進むべき方向など様々な恩恵があるらしい。進むべき方向というのは方角……だよな? 方位磁針と地図で進む冒険者スタイルを想像していたが、どうも違うっぽい。
気になっていた傭兵について聞いてみたところ、腕は立つが何かしらの事情でナビゲートピクシーが使えない者達が集まる組合。魔力が無い者は勿論、犯罪等に手を染める者は妖精に嫌われやすい傾向があり、魔力があっても契約ができないことがあるらしい。妖精との契約については曖昧らしく、犯罪に手を染めていないものが何故か契約できないこともあるらしい。泣く泣く傭兵ギルドに登録する者がいるとかなんとか。
生誕に居る時、妖精らしい妖精が居なかった為、聖なる生き物的な何かと勝手に想像。
そうして商人から為になる情報を貰いつつ、代わりにダンジョンで出会ったモンスターの話やトラップについて話をする。
次第に石壁に囲まれた大きな街が見えてきた。街の名は『ファルファシオン』と教えてくれた。
次回はまだテレサ、幼女魔王は欠席。パンツの話やらテレサや幼女魔王の再登場はもう少し後ろの話になります。
脱出後~街中の話は閑話的要素が多い為、話がマッタリ進みます。
冒頭は気になる箇所はルビを振りましたが、使用済みの単語はルビ無し行きたいと思います。
気になる点があれば感想等頂けると幸いです。




