第二十四話 決意
更新が遅れてしまい、申し訳ありません。
テスト、部活、スランプが重なり、遅れてしまいました。でも、ここからは土曜更新を続けていきます。
それでは、続きをどうぞ。
「味方なのか敵なのかわからない、か……」
部屋のベッドに寝転がり、天井を見ながらぽつりと呟く。確かにそうだ。助けたいと思っているのに、助けられない。そんな事情を知らないソラちゃん達には、私がこの状況を見て見ぬふりをしているように見えるのかもしれない。
私は子供達を支えるためにここにいて、孤児園の園長をしているのに、子供達を不安にさせてしまっている。何とかしなければならない。でも、私のこの力はもうあまり残っていない。あと数回使えば、元いた場所に戻されてしまうだろう。それだけは避けなければ。
力を使えば、シン君は止められるけどここにいることが出来なくなる。力を使わないでいると、子供達がシン君に襲われてしまうかもしれない。そんな状況の中、私が出来ることと言えば……力を使わずに子供達を導き、シン君を止めてもらうように動かすことだろう。誰をどこに導き、どういう風に解決してもらうか。これは、時間がかかりそうだ。その間、シン君には静かにしてもらわないと。
起き上がり、手のひらを見つめる。うん、このくらいの力だったら使っても大丈夫だろう。
千里眼を使い、シン君の様子を見る。ぐっすり眠っているようだ。本来ならしてはいけないことなのだが、こればかりは仕方がない。暴れ回った事への天罰だとでも思ってもらおう。
「魔封じ」
呟くと、私とシン君の身体が一瞬だけ光に包まれた。
これで、シン君は魔法が使えなくなった。魔法が使えなければ、刃物を自由に出すことはできないだろう。瞬間移動や攻撃魔法も使えないから、とりあえず周りの人が襲われる可能性は低くなった。まあ、魔法を使わず、武力を使ってしまったら意味ないんだけど。その場合も考えておかないといけないかな。今のところ、シン君が狙う可能性がある子はシン君のことを一番よく知っているスター君、ルーク君だろう。七年前、シン君は二人の親を殺した。その時、私はシン君を危険人物だと判断した。だけど、それ以降、シン君は何もしなかった。いや、もしかしたら私の知らないところで血に手を染めていたのかもしれない。どちらにせよ、私はシン君を勘違いしたと思った。でも、そうではなかった。まさか、ここに来てまた殺しを行うとはね。しかも、スター君とルーク君のまえで……。
シン君について調べたところ、シン君には複雑な過去があった。そのせいで、あんなことをしているのだろうが……多分、当初の目的は失ってしまっている。殺しを始める前の自分を思い出してくれさえすれば、シン君は自分の過ちに気づく。シン君の心を動かせる誰かが現れてくれればどうにか出来るんだけど……あいにく、私にはシン君の心を動かすことは出来ない。シン君が反応する相手を探し出して、その子を導くことが私のやるべき事だ。今のところ、候補は一人。あの子が、シン君の中の良心を引き出してくれればいいが……。
そこまで考えたところで目を開けた。頭痛と共に身体が重くなる。やはり、力が足りていないか。シン君の問題が解決したら、少し時間を作ってあの場所に戻ろう。このままでは倒れてしまう。
とりあえず今は休息を取ろうと、私は再びベッドに横になった。
* * *
早いもので、もう夏休みが終わってしまった。今日は九月一日。学校に行く準備をしながらため息をつく。やっぱり、夏休みが終わると憂鬱になるのはいつもと変わらないなぁ。孤児園の雰囲気は去年と全然違うけど。憂鬱になる原因の一つは、それもあるのかもしれない。
工場の爆発と、ハートちゃんの死があった日以来、ぼく達の口数は少なくなっていた。無理もない。あんな事があったのに元気でいる方がおかしいよ。
それと……みんな、警戒しているのかもしれない。爆発を起こし、ハートちゃんを殺した犯人を。特に、スター、ロイ君、ルミちゃんが。もちろん、ぼくも。だって、犯人――シン君は……ぼくたちと一緒に暮らしているんだもん。
ハートちゃんが殺された日の夜、ぼくは園長先生に犯人がシン君だって事を話した。でも、先生はシン君に何もしていない。いつも通りだ。何も心配いらないからそうしているって考えると安心するけど、ぼくの言葉を信じていないって考えると不安が襲ってくる。
「はぁ……」
今日何度目かのため息をついた時、後ろからギシッという音がした。振り向くと、スターが身を起こしたところだった。
スターはぼくに背を向けて着替え始める。ぼくも視線を戻し、筆箱をランドセルに入れた。
……沈黙。すごく気まずい。スターも、あの日から冗談を言ったり悪戯な笑みを浮かべることが少なくなった。
うー、リビング行こうかな……。今は、六時半。まだ朝食は出来てないか。起きるの早かったかな。
――チャリン。
時計から目を離した時、そんな音が聞こえてきた。何か落ちた?
目を向けると、そこには緑色の鈴がついたネックレスが落ちていた。
「これ、スターの?」
「うん。お母さん形見」
「スターのお母さんの形見……初めて見た。持ってたんだ?」
「ううん。誕生日にシンからもらったんだよ」
シン君から? スターのお母さんの形見を、シン君が持ってたって事?
訊くと、誕生日の日の夜、シン君がスターにこの形見を誕生日プレゼントって言って渡してきたみたい。その時のシン君の嫌な笑みが脳裏に浮かぶ。死んだお母さんの私物を渡すなんて、絶対嫌がらせだよ。しかも、スターのお母さんを殺したのはシン君。スターの笑みが消えるのもわかる。
こんなことをするシン君に改めて怒りが沸いてきた。でも、ぼくは何も出来ない。前に戦ったけど、傷一つ与えることさえ出来なかったし。すごく、悔しい。
机に立てかけてある剣を見る。これがぼくのお母さんの形見で、シン君と戦った武器。そういえば、シン君と戦った時、彼はぼくを殺さなかった。ハートちゃんのことは殺したのに……何が目的なの……。
考え事をしている間に七時になった。
ぼく達はランドセルを持って一階に向かった。前を歩くスターのランドセルにぶら下がっている青色の石は、ぼくがスターの誕生日にあげた物。お店で買って、自分の手でキーホルダーにしたんだ。この青色の石は、守りの石。持っている人を守ってくれる効果があるらしい。スターを守ってくるといいな。
リビングについてから数分後、全員がリビングに集まった。椅子に座り、先生が作ってくれた目玉焼きを口に運ぶ。やっぱり、会話は少ない。しゃべっているのはカイ君とルーク、ピクちゃんぐらいだ。
ぼくは視線をロイ君に移動させた。ロイ君の横には、ピクちゃんが座っている。いつもはルミちゃんが座っている場所だ。ロイ君はあの日からルミちゃんと並んでいない。話してもいないし、目を合わせることもなかった。まだ、仲直りしてないんだ。
ルミちゃんの方を向くと、ルミちゃんは黙々とご飯を食べていた。一見、普通にしているように見えるけど、少し耳が垂れ下がっている。多分、ロイ君のことをずっと気にしているんだ。誰とでも話しかけにいけるルミちゃんだけど、さすがに今のロイ君のところには行けないみたい……。
二人の中を戻したいけど……どうすればいいんだろ……。
その方法が思い浮かぶ前に、時間が来てしまい、ぼくはスターと一緒に学校に向かった。
学校では授業はなくて、一時間目が始業式、二時間目が学活だけで下校になった。
帰り道、ぼくはルミちゃんとロイ君が気になって、中学校に着てみた。やっぱり、中学生も今日は早く終わったみたいで、制服を着た人たちが門を出て行くのが見えた。少し離れたところで、ルミちゃんとロイ君の姿を捜す。だけど、なかなか見つからない。もう帰っちゃったのかな。
その時、門に向かって走っていく小さな子が目に入った。垂れた兎の耳……アト君?
アト君が門を出てきたばかりの人に話しかける。って、シン君!? アト君、何でシン君に……そういえば、前にハートちゃんが殺された時もアト君はシン君を庇ってたっけ。あの二人、仲いいのかな? でも、アト君は人見知りの上にすごく恐がりだ。シン君みたいな人には話しかけられないと思うんだけど……アト君、笑顔を向けている。
何話しているんだろ、と聞き耳立てても、周りの中学生の話し声のせいで聞こえなかった。
少し話したあと、アト君はシン君に何か渡してから別れた。ぼくはシン君に見つからないよう、アト君に近づく。
「アト君!」
「あ、ソラちゃん」
アト君は振り向いてぼくの姿を確認すると、ちょこんと首を傾げた。
「どうしたの?」
「あ、えっと、シン君と話してたから気になって……何話してたの?」
「夏休みの宿題を手伝ってもらったから、お礼をしに来たの」
シン君が、夏休みの宿題を手伝った?
シン君にいろいろな酷いことをされたから、すぐには信じられなかった。だから、ぼくは思わず聞き返してしまった。
「シン君が宿題手伝ったって、ほんと?」
「うん。ちょっとめんどくさそうだったけど……わからない問題の解き方訊いたら、教えてくれたよ」
アト君はぼくの目を見てはっきりそう言った。ちょっと睨んでいるように見えて、ぼくは慌てて謝る。
「ごめん。疑っちゃって」
「……なんで、ソラちゃんはシン君を疑うの?」
「だって……アト君、シン君に殺されそうになったでしょ? それにぼく達、シン君にいろいろ酷いことされているし……」
酷いことの内容は詳しく話さなかった。あんなこと、アト君には話せない。
アト君は少し間をおいた後、ぼくを見上げた。
「ぼくにナイフを向けた時はびっくりしたけど……シンさん、あの時すごく悲しそうな顔をしてたんだ」
「悲しそうな顔……?」
「うん。ぼくと宿題やってた時も、時々遠くを見てるの」
シン君が……? そんな表情、見たことない。いつも不気味な笑みを浮かべていて、悲しさだとか寂しさという感情は出したことはなかった。シン君にも、何か辛い過去があるのかな。何か理由があって、人を殺している……? もしそうだったら、シン君が抱えている悩みを解決しなくちゃ。これ以上、誰かが死んで欲しくはないし、シン君に誰かを殺して欲しくはない。アト君だって悲しむ。もし、それでシン君が殺しをやめても、ぼく達がシン君を許せるかはわからない。それでも、これからも殺しを続けるよりはマシだ!
「アト君、教えてくれてありがとう。ぼく、シン君に人にナイフを向けるようなことをしないように言ってくる!」
「あ、うん」
アト君はこくんと頷くと、嬉しそうに笑った。
踵を返して孤児園に走り出したぼくは、孤児園に着く前にシン君に追いつくことができた。シン君は、ロケットペンダントを眺めながら歩いていた。あれが、アト君があげた物かな。
「シン君!」
「……?」
シン君が無言で振り返る。ぼくを見ると、ペンダントをポケットにしまってにやりと笑った。
「誰かの視線を感じると思ったら、お前か」
う、気づかれてた……。それよりも、今は!
「ねえ、シン君が人を殺したり傷つけたりするのには、何か理由があるの? シン君にも、誰にも話せない辛い過去とかあるんじゃないの? ぼく、何も出来ないかもしれないけど、話だけなら……」
「理由? そんなもんねぇよ。楽しいからやってるだけだ」
「楽しい……!? で、でも、アト君が時々悲しそうな顔してるって……」
「気のせいだろ。それにな」
シン君はぼくの方を見て更に口角をあげる。その時、思いもしなかった言葉がぼくに浴びせられた。
「アトと友達ごっこしてるのはあいつを利用するためだ」
「な……!」
何を言われたか、最初はわからなかった。だけど、だんだんと理解していき、それと共に悲しみと怒りが沸いてきた。アト君と仲良くしてたのは利用するため? 酷い……最低だ! アト君はあんなにシン君を信じているのに。あんな純粋に、シン君を見ているのに……!
ぼくはシン君を押しのけて走った。孤児園に入り、上がった息を整える。
シン君をこのままにしておいちゃいけない。そのためには、みんなと協力してシン君を止めないと。今、孤児園のメンバーは不安が募っていてばらばらの状態だ。危険だからこそ、結束しないといけない。
窓の外、こっちに向かって歩いてくるルミちゃんを見ながら、ぼくはそう思ったのだった。




