第2話 女官見習いになったヨム・ソユン
――その日の深夜。
ヨム・ソユンの寝ている傍でソユンの寝顔を見ていた大商人ハルは、おもむろに部屋の入口の方を見ると、そこに控えている黒ずくめの忍びの者に声をかけた。
「それで⋯⋯死因は分かりましたか?」
「はい、ハル様。ヨム右議政様のお屋敷に共に忍び込んだ元王宮の内医院で働いていた腕利きの医官の見立てでは、ヨム右議政様ご夫婦の死因は『確証は持てないが、おそらく心筋梗塞ではなくドラゴグラスの毒ではないか』と言うことでした」
「ドラゴグラス? でも、そんな希少な猛毒の植物は、この辺りには生えてはいないでしょう?」
「はい、それは医官も申しておりました。あるとすれば王宮の典医監だけだと」
「典医監とは医官の教育と、薬剤薬草の保管管理をしている部署だったわね」
「はい」
「そう⋯⋯やっぱり⋯⋯ご苦労さまでした、もう下がりなさい」
「はっ」
次の瞬間、黒ずくめの忍びの者は、その場から消えた。
◇
数日後、元気になったソユンは大商人ハルに身なりを整えてもらい王宮で行われる女官見習い選考の場に赴いた。
ソユンは緊張しながらも数多くの希望者の中でも特に経歴や知識、所作などが抜きん出ていたため見事女官見習いとして受かり王宮に上がることになった。
◇
さらに数日後、女官見習いは王宮の一つの部屋に集められ二人一組に分けられた。
王宮での心得の説明のあと、その二人一組で、それぞれの部屋に移動し荷物を下ろす。
ソユンも部屋に移動し荷物を下ろすと相部屋になった、人あたりの良さそうな柔らかい雰囲気の少女がソユンに近づき手を差し出した。
「私、ミョン・ウンソ、よろしくね」
ソユンはすぐにウンソの手を握り口角を上げた。
「私はヨム・ソユン、よろしく⋯⋯」
ソユンは久しぶりに同い年の子と話せて嬉しさが込み上げてくるのを感じた。
それからしばらくの間、ソユンがウンソと、とりとめのない話をしていると、突然入口の引き戸が開いた。
見ると大商人ハルが着ていたのと似た上等な薄い緑色の宮廷民族衣装を着た女性が立っていた。おそらく薄い赤色の宮廷民族衣装を着た女官と違い女官の上の立場である尚宮だと思われた。
ソユンとウンソはすぐに立ち上がったが部屋に入ってきたその女性は両手を少し上げると言葉を発した。
「ああ、そのままそのまま、私堅苦しいのは嫌いなの」
そうは言われたが、ソユンとウンソはすぐにその女性に対し礼を尽くした。それを見てその女性は笑顔になる。
「あなたたち、いい子ね。私は水刺間の尚宮で、あなたたちの教育係なの。これからはハン尚宮と呼んでちょうだい」
「「はい、ハン尚宮様、よろしくお願いいたします」」
次の日から、まだ9歳の二人にとって厳しい女官見習いの修行が始まった。
早朝に起床し薄いピンク色の宮廷民族衣装を着て午前中は水汲み、掃除、洗濯、薪運び、その他いろいろな雑用をこなしていく。
午後からは女官見習いが、一つの部屋に集められ王宮における礼儀作法、読み書き、宗教などを勉強し、その後は王妃を頂点とする女官長率いる7つの女官の部署を回り手伝いをするのが日課だった。
そんなある日、いつものようにソユンが水刺間の女官の手伝いをしていると不意に背後から声がしたのだった⋯⋯。




