数え日 2/2
工場長が紙を手に立っている。
「それはB5の白紙ですね」
「はい。これに書き込んで経理に渡します。戻ってきたら半分に折って断裁してパンチします」
「バイブルサイズですね」
それは棚卸しの一次資料じゃないのか。本来なら保存対象になるものだ。だがそれは後でいい。
「始めてもよろしいですか」
「ちょっと待って。今回はこの表を使います」
「それはなんですか」
「新しく作った商品の一覧表です。A4で40枚あります。ここには廃番も他社製品も含まれていますが、定番品は印を付けておいたので探せるはずです」
工場長は印刷した紙を受け取らなかった。
「ここから探すのは大変そうです。終わってからそちらの表に転記するのはどうでしょうか」
「それならこうしましょう。竹山さんはその紙に記録する。私が横で転記する」
「それなら大丈夫です」
パイプ椅子を持ってきて工場長の横に座った。紙の束が厚いのでクリップボードは要らない。
「B5、ノート、シロ」
工場長が何も見ないで簡略な品名を告げると今川君が走り出した。言われたものを数えに行く。これが工場長のやり方だ。
「36C/Sです」
「211 B5ノート 細罫 白 720」
「NT01001 ノート B5 細罫 白 720 ですね」
「その番号はなんですか」
「これは新しい番号です。全部の商品に付け直したんです」
旧番号の由来は誰も知らない。工場長も先代社長も知らず、おそらく流通の中で自然に定着した番号なのだろう。
「A4、ノート、オレンジ」
「13C/Sです」
ふだんは座ったままの美香さんが走って息を切らしている。
「A4ノート 細罫 橙 260」
「NT00003 ノート A4 細罫 橙 260 と。これは旧番号がないんですね」
「まだ20年の新しい商品ですから」
「定番はそろそろ終わります」
「あとは手帳類と画材です。それから廃番品と特注品もあります」
「やっぱり廃番と特注の在庫が残ってるのか。まあいいや、あとで見せてもらいます」
社員を使役して数えたあとは記録用紙を持って倉庫を歩く。
「工場長、人を走らせなくても、こうやって歩きながら数えたほうが簡単だったのではないですか」
「歩きながら数えると見落としが発生します。絶対に忘れてはいけないものを先に計数したのです」
社長が疑問をぶつけると、工場長はなんでもないように答えた。
「これはまだ数えてないですね。他社製品です」
「バイカラー色鉛筆セット 240」
「ちょっと待ってください。たぶんこれだ。Z00H785 コーリン色鉛筆6本紙箱 ロゴなし別注 240」
「ロゴは入ってないですね。これはかなり前からあるやつです。イベント用に作ってもらった残りだと思います」
「なんとかしないとな」
「こっちのは破損品です。ノートや便箋などのレインダメージが10C/Sくらいあります」
「なんで処分されないで残ってるんですか」
「わかりません」
「どうするのが適切だろう。これは去年の棚卸しには載っていますか」
「いいえ、見つけたのは春以降です」
「帳簿にないなら会計上は終わってます。でもこれもう売れないのかな。売れたら雑収入になります」
「どうしますか」
「捨てる場合も記録は必要です。内容と状態、それから写真もあったほうがいいです。事務所に写ルンですがあります」
「わかりました」
「特注品の残りがこんなに何種類もあったなんて。前の棚卸しには載ってますか」
「計上してます。ご覧になってないんですか」
「見た気もするけど気にしなかった。どうしてだろう。とにかく契約書を探します。特注の契約には全量買取があるはずなので、相手に聞かないとどうにもなりません。買い取ってくれなかったら処分の同意をもらいます。ともかくこれは営業と相談します」
「倒産した相手もおりますよ」
「それなら処分して損金にします。いちばん簡単です」
商品マスターには商品しか載っていない。そして工場と倉庫にある商品は、廃番品も特注品も含めてすべて載っていることが確認できた。現状で実用に耐えると判断する。受注や営業に使ってもらう際には廃番まで載せる必要はないだろう。そうすれば紙の厚さは半分以下になるはずだ。定番だけならさらにその半分以下。
「棚卸しは終わったのですか」
「まだ資材を数えるのが残っていますが、現場にまかせてきました」
「そうですか。さっき裕太さんから電話がありました。仕事が終わったので帰りにビールとオードブルを受け取ってくるそうです」
だいたいの製造原価は斉藤さんが電卓で計算したものがある。紙やインクや糊やラベルは仕入れた分を使用量として計算、出来高は製造日報から計算、労務費と経費はぜんぶでいくら。
「ねえ、斉藤さん。原価計算が簡単にできるようになったら便利だと思いませんか」
「そんなことができるのですか」
「そうなればいいなって話です。商品も資材ももっときちんと管理できるようになってからです」
「鬼が笑いますよ」
斉藤さんの笑顔をひさしぶりに見た気がした。




