銀河鉄道
4月になり、新入社員が入社してきた。工場に文学青年風の鈴木君。営業部に女性の山根さん。私と同じく、ちょっと内に巻いたセミロング。ゆったりめの薄いグレーのスーツ。属性の一致が多い。互換機というより新型機。
商品企画部というのができて、山下さんはそちらに配属になった。裕太の ThinkPad を彼も使ってたので、慣れてるならそれでいいと、同じパソコンが与えられた。
週休二日で土日休みになり、斉藤姉妹はフルタイムになった。
それから私も、来月から主任とこっそり言われた。
「まずJANコード。国際的にはEANとして運用されていて、日本ではJANと呼ばれている。SKUとJANは基本対応するけど、包装単位で別になるから一対一とは限らない。そもそも管理方法の思想が異なる。単品、ケース、パレットなど包装単位ごとに別のJANを付けることもある」
営業部の裕太と山根、商品企画部の山下がドトールコーヒーで休憩していた。
「つまりうちの商品番号みたいなのの世界版ですか。うちのはケースに別番号とかないですけど」
「会社によるけど、まあだいたいそんな感じ。それでオオミヤさんの言ってたのは、うちの商品にはJANがないから扱いにくいということ」
「それを付けたら取引してもらえるんですね」
「大手流通だとその番号がないと商品登録ができないから、実質的に取引が難しくなることが多い。今はどんどんPOSが普及し始めてるからなおさらだ」
「つまり今までみたいに、俺が自分でお客さんのところに持って行くならJANはなくてもいいけど、オオミヤさんに扱ってもらおうと思ったらJANが必要ということか」
「オオミヤさんが例外処理を認めなければそうなる。それから誰が運ぶかではなくて、誰が管理するかという話。オオミヤさんに管理をお願いするには、オオミヤさんの管理方法に合わせないといけない」
山根がベイクドチーズケーキをフォークで突きながら質問した。
「でもうちの現行商品の全部に新たに付番して、それだけじゃなくて現物の商品に印刷したりもするんでしょう。難しいんじゃないですか」
「いきなり全部の商品に付ける必要はない。今回はオオミヤさんと取引したい商品に付いてれば問題ない。たとえば今日の話だと、メモ帳のシリーズに興味を持ってくれてただろう。そこから始めるのがいい」
「取引したい商品を選ばなきゃならないんですね。その基準はなんだろう。相手が欲しがってる商品をそのまま出せばいいのか」
「その基準を商品戦略と言う。社長は先方の話を聞いてみてから考えるって言ってたけど」
流通システム開発センターに資料請求をしたらバーコードガイドが送られてきた。その中の申請書に会社の情報やJANコードの使用目的などを記入する。郵便振替で費用を支払い、書類を郵送。追加で確認をされることもあるが、審査を通れば企業コードが貸与される。
JANコードの構造は、先頭の「45/49」が日本を表す。次の企業コードは可変長。扱える商品数に応じて桁数が変わる。企業コードは今回は7桁で申請が通った。そうすると商品アイテムコードは3桁。最後がチェックデジット。全部で13桁。
「手続きはしたから審査待ちだ。JANをどうするか、そろそろ決めよう」
「100番号でも足りそうです。だけど番号だけ付けたって、商品にするのは時間がかかりますよ」
「持ってる商品を全部出せってオオミヤさんに言われたら100で足りなくなるかもしれないよ。どうせただの連番だから、必要なところから付与する。もし使い切っても追加は可能。番号がいっぱいだから新商品を出せないってことにはならない」
「手帳は6つしかSKUがないです。他に売れ筋をお勧めしてみたら」
「受注伝票の電子化が2月からで情報は多くない。斉藤さんに売り上げ順と利益順で単純に出してもらったけど。それで考えてみるか」
「ちょっと待ってください。手帳だけでも工場でどう対応できるかどうかわからない。メモ帳の台紙に外注先で印刷してもらうんですよね。社名の下あたりに。でもそれが読めるかわからない。あの紙はにじみますよ。それとも手でラベル貼りしますか。工数が増えます。これも外注です」
「読めるかどうかはやってみないとわからないでしょう。仮のバーコードを作って印刷してもらってみてください。オオミヤさんからハンディターミナルを借りてきて、読めるかどうか試しましょう。それからバーコードラベラーの機種も調査する」
テストの結果、既存商品では手帳と便箋が合格。ノート類はおおむね合格で、読み込み失敗はたまに発生。スケッチブックはエラー頻発で全滅判定だ。
「手帳と便箋から始めるのが安全。残りは改良するか」
「必要ならもちろん進めます。売れ筋優先で考えてよろしいですね」
「それは営業部とも相談してくれ。それと商品マスターへのJAN追記は事前に報告してくれ」
4ヶ月後にはオオミヤさんとの契約にたどり着いた。実際に商品が動き出すのはその10日後だった。売り上げは2割増と裕太が言っていた。Excel への入力は一件の受注につき5種類の商品までと決められていたので、初回に全商品の発注が来た際には2件に分けて入力した。でもそれだけ。大口なので私の仕事はあまり増えなかった。
バーコードなしの古い在庫は間違えないよう、手帳を持った工場長がにらんでいた。やっぱり人に頼るのかと社長が苦笑いしていた。その気持ちはすこしわかるようになった。
比野文具株式会社の登場人物
比野真二 社長
山下 商品企画部 IBM ThinkPad 700C
裕太 営業部主任 IBM ThinkPad 700C
山根 営業
斉藤さん 経理 PC-9801BA
美香 事務 PC-9821Ae
美智子さん(斉藤美智子) 事務
竹山 工場長 Filofax Winchester
今川 工場
林 工場
鈴木 工場
共用 EPSON LP-1500
お蔵入り PC-PR101/T101




