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軌道投入

美香さんは何度目かのお見合いのため有給休暇。休暇に理由は必要ないが教えてくれたから胸に留めた。寿退社すると言いだしたらどうやって引き留めようとお見合いのたびに悩んでいたが、何度も繰り返すうちに、悩んでも仕方がないと思うようになった。そのときにはきっと相談してくれるだろう。


斉藤さんも今日は予定通りの休みの日だ。商学部を出て入社したときはフルタイムの社員だったが、家庭の事情でパートタイムを希望した。問題が解決したら元の勤務に戻してくれるはずなのだが、状況はどうなのだろう。


どちらも私的な事情に踏み込むことはできない。注文の電話は午前に何件かあったが午後はぴたりと止まってしまった。おかげで考え事がはかどる。

ひとりの事務所でパソコンに向かっていると入り口に人が立つ気配があった。時間ちょうどに面接の応募者が来たのだ。



ハローワークの紹介状を携えてやってきたその男はすらすらと、だが抑揚のない口調で志望理由を述べた。


「これまでの経験を活かしながら、長く腰を据えて働ける環境を求めております。御社の製品や業務内容を拝見し、これまで培ってきた商品を見る目や取引先との調整力を活かせるのではないかと考え、志望いたしました」


本当の理由は家から近いからだろうなあと感じられた。何しろすぐそこの高級アパートだ。

就職用にしては明るすぎる青のスーツ、グレーのレジメンタルタイ、新品の靴。履歴書に記載された年齢よりすこしだけ若く見えたのは、バブルの余韻を感じさせるその服装のせいだ。履歴書に書いてあることをあえて聞いて反応を試してみよう。


「山下さん。前職は百貨店のバイヤーということですが、どんな売り場を担当されていましたか」

「文房具です。日用品に近いのでユーザー目線で考えることが重要でした」

「なるほど。対面での接客もありましたか」

「はい。お客様の顔を覚えることも仕事の一部でした。ワープロで顧客管理も行っておりました」


もっともらしいレスポンスがすぐに返ってくる。準備してきたのだろうな。ここでワープロの機種を聞いても意味はない。文豪でもOASYSでも同じだ。


「百貨店からメーカーというのは珍しい転職ですね。何かきっかけがあったんですか」

「売り場で完結する仕事から、ものづくりの側に関わってみたいと考えるようになりまして」


山下さんの属性は把握した。それでは最後の質問。


「昨今は景気がたいへん厳しいです。百貨店ではどうでしたか」

「ジャンルに関わらず高級品の総崩れの状態です。これからは御社の商品のような本当に価値のあるものだけが残るでしょう」


百貨店の状況は日経新聞で読んだ通り。そしてお世辞を聞くのは時間の無駄だ。セッション終了。


「採用です。いつから出社できますか」



彼は営業部に配属される。営業部でも工場と同じく交代で日報を書いてもらうつもりだ。担当者、訪問先、目的、気付いたこと。外部を観察する目が欲しい。営業日報の書式は工場と同じでいいだろうか。とりあえずは書いてもらえればなんでもいいから、書く習慣を付けてもらおう。


せっかくの買い手市場を利用しない手はない。来年の新卒はふたり採りたい。ひとりは工場の補充。ひとりは営業部。山下さんは様子を見て異動させる。異動先は新設の商品企画部。商品の開発や管理の担当になってもらい、いずれは商品マスターの管理担当者としたい。

そして裕太は主任に上げる頃合いだ。


もともとは社長、工場、営業の合議で新商品開発をしていた。ひとり営業になってしまってから新商品は出せていない。新規顧客の開拓は遅れがちで、ほとんど既存客の御用聞きで裕太は日を過ごしている。これではダメだ。

本来の体制に戻すだけでは戦えない。商品を担当する専任者を作らなければいけない。ちょうどいい人材が手に入ったのだから。



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製造日報

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年月日:1993/10/25

担当者:竹山

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■作業実績

午前 今川 A4ノート白細 1000冊

午後 竹山・今川 A4ノート青細 1000冊

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■課題・要望・ヒヤリハット

特になし

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営業日報

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年月日:1993/10/25

担当者:近藤

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■営業実績

午前 近藤・山下 納品書番号 123-456

午前 近藤・山下 納品書番号 123-789

午後 近藤・山下 納品書番号 123-123

午後 近藤・山下 商談 マルユー様

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■課題・要望・ヒヤリハット

同行3日目

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