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流星マスター  作者: TSUJIMO


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コーカサスの山頂

鳥が舞う山で考えた。


最少人数でデータを守りきる。端末ごとのアクセス制限。端末によってできることが違う。それぞれが役割を果たすなら、たとえミスが起きても、責任の所在ははっきりしているではないか。それに自分の仕事に熟練すればミスは減るはずだ。

本当にそれで良かったのだろうか。


営業の端末からFileMakerに受注入力したいと要望が出てくるに違いない。当然だ。いつまで手書き伝票やメールで、これ受注ですと言わねばならないのか。

だがそれを認めたらどうなる。そのために FileMaker Server 3.0J を導入した。それはそうだが、クラッシュを防ぐことと、在庫の数字を守ることは別だ。在庫引き当てのタイミングで数字がずれることは避けられない。その責任を誰が取るのだ。


経理も問題だ。マシンの問題じゃない。仕事が問題だ。

いつの間にか売上の分析とかやっていて、そんなのは経理の役目じゃないと言えなかったから。他にやれる人がいなかったんだもの。

私が悪いのだ。


私は技術者でなく社長だ。

どうして自分で難しいことを引き受けているのだろう。誰に頼めばいいかわからなかったからだ。コンピューターの専門の会社に頼めば良かったか。大会社ならそうしただろう。

いったい何が正しいのだろう。


バックアップはどうしようか。停電対策はどうする。相談できる専門家はどこかにいないか。


自分自身が担っていた機能。何が正しいかを決める判断機能。そして未知の問題に対処する機能。それが社長の機能だ。

今のシステムは例外処理をすべて私が引き受ける構造になっている。助け合うことを禁止したのだから当然だ。


「私がボトルネックだ」

「そうだな」


隣に立つ戦士が返事をした。



「経営判断が人に属する機能であるならば、これも外に出すべきでないのか。私よりシステムのほうがよほど信頼できるというものだ」

「そうしたら何が残る」

「わからない。外部化しきれない機能とはなんだ。いったいどこまでをシステムに移植するのか。全部を渡したら何が残るのだ」

「どうかな。全部を渡したつもりでも何かが残る。そうしたら再生するんじゃないか。その肝臓のように」

「私はいったいなんなのだ」

「社長だ。社長を辞めることはできない。その役職に付随する責任を切り離すことはできない」


責任の分散はひとりひとりの責任を軽くはしない。境界が摩擦熱を発するのだ。傷口が焼けるように熱い。


「例外商品は認めないと言ったな」

「どんな商品も受け入れる。受け入れたらそれは標準だ」

「廃番なのに在庫が残っている商品は例外でないのか」

「例外ではないな。すでに分類され定義されているなら例外ではない。運用上のエラーだ」

「顧客はどうだ」

「同じだ。例外顧客はいない」

「グリュック日用品店」

「あれは契約書を確認することができた。在庫特約があるだけだった」

「在庫特約は例外ではないのか」

「在庫特約はその存在を確認することで標準の一部になった。グリュックはただの顧客だ」

「そんなふうに標準を拡張して行ったら複雑になりすぎるのではないか。疎なデータは別テーブルに逃せば良い。契約を別管理する構想は当初から持っていたはずだ」

「現実は理論に優越する。だがデータベースには理論しか入らない。入りきらない過剰な意味は圧縮されるか、切り捨てられるか、あるいは標準のほうが拡張される。複雑化はする。だがそれが問題とは思わない。より優れた上部構造を生み出す力になるからだ」

「すべての意味を奪われて残る実存を不安に思わないか」

「それは商品でも顧客でもないゴーストだよ。倉庫の隅に眠らせておけばいい」

「そううまくいくかな」

「さあね。私はコンピューターと未来を信じているけど」

「在庫がずれていたらどうする」

「もちろん補正する」

「なぜ組織や役職は同じようにできない」


雷光が影を作り出す。


「もちろん同じようにする。失敗したら修正する。続ければ本当にミスはなくなる」

「それは無理だ」

「どうして」

「すべての例外処理が社長に集中するとき、社長の役割はドーナツの穴のようなもの。見えないものは修正できない」

「ドーナツの穴か」

「社長の機能をシステムに移植する。それで穴が埋まると思うならやってみればいい。だが穴は残る。トポロジー的には何も変わらない。それにもし穴のないドーナツができたとしたら」

「そうしたらどうなる」

「そのとき社長は社長でないという論理矛盾が生じる。それが自己言及の結末だ。もう助からない」


流れる血が熱い。手足を縛る鎖がぎりぎりと軋む。尖った岩が皮膚を切り裂く。冷たい鎖が首に巻きついている。



「その鎖はもう外したらいいんじゃないか。飽きただろう」

「これは罰だから外せない」

「自分の夢なら好きにしたらいいだろうに」


戦士の弓が大鷲を狙う。


「何をしている」


暗い宇宙を雷光が横切り、胸を射抜かれた大鷲が墜落する。


「鎖があろうとなかろうと戦いは終わらない。解放されたら自由を守るために戦うことになる」

「お前は誰だ」

「知らないで話してたのか。ここにはお前しかいないよ」



…トランザクション未完了。


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