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SOKOBAN

「それで在庫のお話なのですが」

「はい」

「昨夜のデータに問題がなかったのでしたら、こちらでの練習は終了となりますか」

「資材の在庫管理はそのまま続けてくれたら良いと思う。工場の生産には役立ってるんでしょう」

「わかりました。では資材の管理は継続します」


資材のことは事務所のみんなには言ってなかったかもしれないな。斉藤さんは知ってるから問題はないか。



「今ある物を計数して基礎とし、生産したら加算、出庫したら減算。そうすれば理論在庫ができる。物が動くときにずれると言いましたが、より正確には加減する際の手続きのミスが蓄積して差異が拡大するのです。ミスを防止する方法は工場長の手帳にも書いてあったんですよね」

「ダブル・チェックです。緊張感が薄れると効果が下がるので、人員配置をときどき入れ替えるのがコツです。ペアの作業なら役割を交換するだけでミスが減ります」


「それでもなぜか理論在庫と実在庫は乖離する。その理由がわからないなら前提とするしかない。だから数えるのです。現実は理論に優越する。加算と減算の反復のどこかで計数を行う。工場は生産を担当しているので、生産工程の末尾に計数処理を追加するのがシンプルだと話し合って決めました」

「その頻度が大事です。いつもそれをやると負荷が大きいです。たまになら自然に工程の一部にすることができます。棚卸しでリセットして、あとは年3回くらい生産後在庫確認をやったらあんまり誤差が大きくならないということが、社長と工場の実験でわかりました。頻度設計のノウハウを得ました」


ここで社長がExcelファイルを開く。年月日、商品番号、商品名、数量、担当者、備考欄。備考欄には倉庫整理を先に行うとか、資材入荷次第とか書いてある。ここに計数と書かれているものがあった。終わったら数えるという意味だ。その数はとても少ない。


「それが乖離率5%以下という運用実績です。理論在庫というのはね、合っているかどうかではなく確率や可能性で表現される在庫なのです。そうでなければ、無理なく実行可能で実用的という判断はくだせない。半年前からずっとこの運用をしてきてもらってて、それを竹山在庫と呼んでいました。年末棚卸しからまだ一月しか経っていない今は数字がフレッシュです。それで数値だけもらって新システムの在庫マスターに移植しました。今後は数字作りも事務所で行います。やり方がわかったので」


社長がふらっと倉庫に行く理由がこれだった。今日のシステム稼働のために、自分で倉庫で実在庫を数えたり、工場組と話しあったりするのを一年くらい前からやってたことになる。でもFileMakerの導入はわりと最近決まったことだと聞いた。やり方が決まってから入れ物を買いに行ったのだ。



「数字の受け渡しは今までと同じなんですね」

「そう。年明けからもらっていたのと同じCSVで。だけどね、それを読み込むところの検証が十分でないから、しばらくは私の手入力があります。人力オートメーションです。それで、向こうで計算した理論在庫をこっちに戻す方法なんですけど、メールじゃなくて共有フォルダにしようかと思いました。見やすいように商品名も入れて戻します。在庫より多くの注文を受けてマイナスで表示されることがあるかもしれません。倉庫にある商品がすべて売約済みならないのと同じ、マイナスにもなるんです」

「それで問題ありません」

「そうすれば他の人も見られるしね」


その後はExcelのファイルを見せてもらったり、機械や倉庫の見学をしているあいだにお昼になった。社長と工場長は生産管理と安全在庫がどうとか、島田便のチキン南蛮弁当を食べながら、ずっと話していた。午後からまた事務所で説明の続きと、入力と印刷の練習をすると言われた。


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