バーコードブック 2/2
翌日の午前中はいつものように大掃除だ。そわそわしながらエアコンのフィルターや窓枠やキーボードやマウスを掃除する。昼食は出前のラーメンと決まっている。
「社長、棚卸しはどうなってるんですか」
「準備はできてるよ。今年は二手に分かれてやる。私とあとひとりでJANコードのある商品を計数する。それ以外を工場長チームが担当する。商品番号と数量のCSVをそれぞれ作って斉藤さんにフロッピーで提出する。すぐに終わるよ」
今回は事務所からも営業からも応援を呼んでいない。彼らは車両の清掃をしているはずだ。
台車の上に木箱を乗せて、その上に IBM ThinkPad 220 を配置。箱の中にはACアダプター。念のためにクリップボードと紙と筆記用具。ドラム型の延長コードを引きながら台車が進む。押しているのは志願した鈴木君だ。
Excel 95 の棚卸し表はすでに起動している。1列目は数式でVLOOKUPでJANコードから商品番号を引いてくる。2列目にはスキャンしたJANコードが入力される。3列目に数量を書き込んでEnterで次の行に移動する。
「まずはここからだな」
ノート類のラック。1段目の空いているケースからバラを取り出し、ひっくり返してバーコードをスキャン。数を数えて入力してEnterを押下する。
```
NT00101 49*****000262 1251
NT00102 49*****000279 988
NT00103 49*****000286 1100
```
「ちゃんと入力されていますね。でもこれって商品名は出せないんですか」
「出そうと思えば出るけど。必要だったかな」
「それはあったほうが確認できるじゃないですか。誰もそう言わなかったんですか」
誰にも相談してなかったから、失敗した。来年は商品名も出そう。
「今日のところはこのままやりましょう。次はメモ帳です」
```
MM00101 49*****000071 320
MM00102 49*****000088 401
```
「これはケースしかないからスキャンできないな」
「箱を開けてもかまわないと思います。どうせバラで注文が来たら開けるんですから」
「そうか。じゃあそうしよう」
箱を開けて取り出してスキャン。
```
MM00108 49*****000149 500
```
箱を開けずにやる方法も考えたほうがいいな。箱に印刷したら流通が混乱するし、ラックかパレットに貼り付けたらいいんじゃないか。
「鈴木君はどう思う」
「そうですね。バーコード付きのタグを下げておいたらいいんじゃないでしょうか。貼り付けたら移動しにくいでしょう」
「たしかに。オオミヤさんの倉庫はそうしていた。メモするからちょっと待ってて」
倉庫をひとまわりして事務スペースに戻ると工場長がPC-9821V10に向かっていた。
「そっちも終わってたんですか。こっちが早いと思ってたのに」
「数えるのは終わりました。CSVにするのはこれからです。やはり最新の機械は便利ですね」
ここで入力するのはけっこう大変そうだ。これももっと楽にできるんじゃないか。V10にもスキャナーは付けられるのだから。
年が明けてしばらくした頃、また社長が何かを持って工場に現れた。
「バーコードをこれに集めました。パソコンの横でスキャンしたら数字を打ち込まなくてもすむようになります」
社長はV10のミニDIN 8ピン接続のキーボードを取り外してスキャナーから伸びているケーブルを代わりに差し込んだ。ケーブルは分岐した端子があり、そこにケーブルを接続する。
「キーボードウェッジです。パソコンからはスキャナーがキーボードに見えます。もちろん通常のキーボードもそのまま使えます」
「そのノートのバーコードをスキャンするんですか。バーコードは純正ラベルですね」
「そうです。事務所で印刷したやつです。ちょっと説明しておきましょうか」
レーザープリンターでのバーコード印刷にはEAN-13のTrueTypeフォントを用いる。雑誌の付録に入っていたフリーウェアだ。
「13桁の番号にガイド用の記号を挿入してExcelで変換するのです。変換方法はフォントの仕様によって変わるのでフォントのreadmeに従います。今回はこんな数式です。変換した文字列を印刷するとバーコードになります」
```
="[" & MID(A2,2,6) & "|" & RIGHT(A2,6) & "]"
```
「それは前に説明を受けました。しかしこのノートを見ると、JANコードのない商品にもバーコードがあるようです」
「それはね、CODE39のTrueTypeフォントも見つけたんです。CODE39にはアルファベットも入るので商品番号をバーコード化できるんです。商品番号をアスタリスクで挟んでフォントを指定してラベル印刷するだけです。JANコードより簡単です」
「スキャナーは対応してるんですか」
「それも説明書に書いてありました。ディップスイッチの1番をONにすると、JANおよびCODE39を自動識別というモードになります。サフィックスのタブ文字は解除してありますが、こちらの判断でONにしてもいいです」
A4ルーズリーフには商品番号、JANコード、商品名、属性、入数が印刷されていて、その横にラベルが2枚貼られていた。明るい緑色のバインダーの表にはバーコードブックとテプラが貼られていた。
「JANのない商品は商品番号のバーコードだけです。どちらも同じようにスキャンできます。年末だけノートPCに接続し直せばいいでしょう」
ピッピと試し打ちしていた工場長はすぐ慣れたようだ。
「なるほど。これなら他にも使えそうです。なにしろ入力するだけの機械です」
「すこしずつ楽にしていきましょう」
IBM ThinkPad 220 は工場の共用機として工場長の管理下に置かれることになった。だがその出番は次の年末までない。




