第二宇宙速度
インターネットで海外のお客様に商品が売れたという経験は真子ちゃんに自信を持たせた。そして新しいホームページの制作に取り組み始めた。
「もうすこしきれいな写真を使えたらいいと思うんです。カタログをそのままネットで公開できたらきっと売れます」
「これで悪くないと思うけどな。たまに売れてるんだし」
古いお客さんはたくさん来てるけど、新規はアメリカのミラーさんを含めて3人だけ。社長はまだ可能性の段階だから十分と言ってくれた。でももっと売れたらいいに決まってる。
「商品をたくさん掲載するとしたらメニューが使いにくいかもしれません。もっと工夫します」
「うん、よろしく」
そして島田君や工場の鈴木君にも見てもらって、改善方法や画像の見やすさについての意見を聞いて考えた。
だいたいこれでいいかなとまとまった頃に、発表の機会が訪れた。
OCNエコノミーが始まってすぐ、ここに変えようと社長が申し込んでしまった。常時のインターネット接続。誰かが電話中に接続するのは気が引けるとか、時間を気にするとかがなくなるということ。春にISDNを引いたばかりなのに即決でびっくり。
年明けすぐに128kbpsのデジタル専用線とルーターの設置工事の予定。ISDNのダイヤルアップルーターとDSUはそのまま残される。LANケーブルを抜いて電話とFAX用に使用するなら、別にもうひとつ契約してるアナログ回線は不要になる。そのほうがお得なんだって。
ウェブサイトとメールにはレンタルサーバーiSLEを利用する。独自ドメインはJPNICに直接申し込むのは面倒だから、iSLEに代行取得を頼んで、hinobungu.co.jp を取ることになった。社員全員のメールアドレスを作って名刺に印刷しよう。いつもより元気な社長がそう言った。
海外でホームページのことをウェブサイトと呼ぶ人がいるのは知っている。
「ホームページをやめてウェブサイトを作るんですか」
「言葉の意味は同じようなものだね。新しく作るのはその通り。準備はいいですか」
「やり方は決まりました。あとは形にするだけです」
「なら完成したらホームページのほうは契約ごと消します。ファイルは記録として保存しておきます」
翌週の朝、すでにインターネットに接続された状態になっていた。業者さんに設定を委託したはずだけど、全部のパソコンの設定はしてくれなかったようだ。だから土曜日に出勤した島田君と社長とで終わらせた。工場のPC-9821V10も壁の穴を通じてLANに接続されていた。
「メールの設定も終わってます。各パソコンのところに置いてある紙を見るように」
Performa 588 のキーボードの上にはA4紙を折りたたんだ通知書が置いてあった。
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管理者の島田より設定通知書
メールアドレス: makochan@hinobungu.co.jp
POP3 (受信) サーバー 設定済みです
SMTP (送信) サーバー 設定済みです
POPアカウント名 設定済みです
パスワード 設定済みです
設定の詳細は紙で手渡しする予定です。送受信のテストをしてみてください (^_^)/
Windows 95 の人は Internet Mail をご使用ください。
Macintosh の人は Eudora-J 1.3.8.5 をご使用ください。
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ウェブサイトのための容量は追加契約で20MBになった。リムネットの5MBに比べたら4倍。たまたま聞いていた修君がフロッピーで何枚分ですかと聞いたので、工場長が14枚分だと暗算で即答した。それでもさすがにカタログ全部は入らない。
掲載する商品はカタログで説明文を付けた40SKUにすることを提案した。営業部と商品企画部が了承して社長もOKと言った。
ウェブサイトのレイアウトやデザインの基本部分は変えないはずだった。下にメールフォームで上が商品紹介。だけどせっかくだからもっと試行錯誤してみてと指示を受けて作り直しになった。
違うレイアウトを試すこと。上下に分割していたフレームを左右にする。右側に送信フォームを配置する。小さな変更だろうか。そうは思わない。フォームとスクロールバーが右手のほうに集まるので使い勝手がかなり変わる。
ダイヤルアップ接続の人が見ても重く感じないように注意すること。画像のサイズを見直して何枚かを調整した。商品画像40枚がフロッピーに収まれば、社内で確認するのに便利だと山下さんに言われたので、じゃあそれを目安にしましょうと提案して決まった。
今回からは会社案内のページも付けた。アクセスカウンターはもういいと社長が言うので外した。
そして新しい技術を使ってみること。海外のサイトで見た階層的に表示するやり方を真似した。全部のページに付けるのも確認するのも大変で、社内の人にたくさん見てもらっておかしいところを指摘してもらった。この時はその名前も意味もよくわからず、ただ便利だなと思った。
トップページ > お買い物 > 手帳 > 赤
困ったのはメールフォーム。リムネットではそのまま使えばすんだのに、新しいサーバーにはそんなのが用意されてない。だからフリーCGI配布サイトから使えそうなのを拾ってきて組み込んだ。
会社のメールアドレスを書き込んでから /cgi-bin/ にアップするというのはわかった。でもperlのパスもsendmailのパスもよくわからない。readme.txt とFAQをひっくり返してようやく設定したら、最後は chmod 755 がなんのことかわからない。これも解決して最後にメールが飛んできたときは泣きそうになった。
Netscape Navigator 3.0 のウインドウにはそっけなく送信完了と表示されている。
$thanks にURLを設定すると送信後に遷移させます。記入しなければ簡易なメッセージを表示します。readme.txt にはそう書かれていた。
そんなふうにしてウェブサイトは完成した。すでに公開はされているけど、様子を見ながら手直しをするのでまだ宣伝はしないでとお願いしておいた。社長のOKが出たら、前のホームページには引越しましたと書いておいて、リダイレクトもさせる。そこは年度内で閉鎖される予定。




