バーコードブック 1/2
主要な商品へのバーコード対応はだいたい終わった。すくなくともオオミヤがP-NET経由で注文してくるものはできた。対応方法は基本的に本体へのバーコード印刷である。ノートやメモ帳の裏表紙、日記帳の外箱はもともと外注部品なので仕様変更だけで外部におまかせ。でも試験には付き合うので楽ではなかった。
スケッチブックは紙質の問題で工夫してもエラーなしにならなかった。もともと大量に出るものではないのでこれくらいは工場でラベルを貼って対応しようということになった。将来のリニューアル時にまた考えよう。ラベル印刷はSATOのBarlabeを本命と考えていた。それからいろいろな印刷機やソフトウェアを調べてみた。だが調べれば調べるほど、どれもうちでは使いにくそうだった。
「エプソンが純正バーコードラベルシートを用意しているわけだから、これを使ったらいいんじゃないのか。事務所のLP-1500で印刷して工場に持ってきたらいい」
「手間はともかく純正ラベルは高いんじゃないですか」
「ラベラーを買うのと比べたら高くない。それにこれなら消耗品になる」
そういうわけでレーザープリンターで試験的に印刷していたのを本仕様とすることになった。ちなみに他社製品の安いラベルも使ってみたら借りてきたハンディターミナルは読み込みエラーをたくさん出した。どう違うのだろうか。
年末に社長が IBM ThinkPad 220 とスキャナー本体とケーブルを抱えて工場に現れた。
「今年はこれでやってみようか。もう手書きは飽きただろう」
「機材を借りるんじゃなかったんですか」
「借りばかり作るのは嫌だったし本格的なPOT端末は30万円くらいする。でも店頭で5万円でこれを見つけました」
今川君が偉そうに意見する。でも社長は自信満々だ。
「それって使えるかどうか試してないんじゃないですか」
「これから試すんです。今日中になんとかすれば明日の棚卸しに使えます」
そう考えていたのだけれど。
「あれ、これじゃ接続できない」
CCDスキャナーのケーブル先端はミニDIN 8ピンの98用だ。6ピンのThinkPadには適合しない。
「まいったな。ノートが使えないとなるとVALUESTARを抱えて歩くしかないか」
鈴木君が不安そうな顔をしてる。それなら手書きでいいですとでも言いたそうだ。
「待て待て、あきらめるのはまだ早い。専門家に聞いてみる」
そう言って社長は工場を飛び出して秋葉原へと徒歩で向かった。前途多難だと工場組は内心で思った。
スキャナーを購入したあきばお〜には担当の店員がいなかった。店頭で何か使えそうなものを探してみたがわからない。しょうがないから別の専門家に聞こう。
「すいません。ここで購入したこのスキャナーなんですが、PS/2への変換アダプターはないですか」
「そんなのないですよ。DOS/V用の周辺機器をPC-98で使うアダプターならいくらでもありますけど。逆はないですよ」
それは困った。若松通商、九十九電機、ラオックス、階段の上の名もないジャンク屋、路地裏のあやしげな売人。どこでも同じことを言われた。
答えを教えてくれたのは、ぷらっとホームの専門家だった。
「それなら純正のPS/2用ケーブルがありますよ。1万円です」
助かった。けれど想定外の福沢諭吉。買うしかないのか。
「差し替えるだけで接続できます。用途はJANコードですか」
「あ、はい。棚卸し用です」
「それなら設定もこのままで大丈夫です。説明書は読んだほうがいいですよ。ケーブルのことも書いてあるはずです」
「ありがとう」
すばらしい助言にこころよく代金を支払い、ケーブルと領収書を握りしめて工場に取って返した。寒空に夕焼けがすでに赤い。
定時を過ぎて工場に残っているのは工場長だけだった。Excel入門書を開いてPC-9821V10に向かっている。彼はちょっとこちらを見て、おかえりなさいと言った。せっかく集中して勉強しているなら邪魔はできない。あらためて説明してやればいいのだ。完璧な棚卸しのやり方を。
パッケージを開けてケーブルを取り出す。端子以外は前のとそっくりなんだよな。スキャナー本体側のD-sub端子を抜いて交換。新しいケーブルは IBM ThinkPad 220 の背面にすんなりと差し込まれた。ThinkPadを開くとサスペンドから復帰。メモ帳が開きっぱなし。さてと。
そっとキーボードを叩いてみる。外部に入力装置を取り付けてもこちらが無効になるわけではないようだ。それから机の上のB5ノートの見本を手に取りひっくり返す。裏面には菱形のロゴマークとバーコード。これが問題だ。スキャナーをバーコードに向けて慎重にトリガーを引いてみた。
ピッ
メモ帳に13桁の数字 49*****000453 が表示された。成功か。
ピッピッピッ
あれ。
「うまくいってますか」
「ああ、いやまだだ。これから設定するところ」
数字がつながってる。
49*****00045349*****00045349*****000453
説明書はどこだっけ。
わら半紙のような説明書は表が英語で裏が日本語。内容は同じようだがどっちも読みにくい。5極ディップスイッチでサフィックス変更。4番をONでタブ文字を挿入、5番がMS-DOS改行コード。両方をONにするとタブが先に入力される。改行はWindowsでも同じはずだったな。Excelを想定しているのでここは4番だ。
「工場長、ピンセットかなにかありませんかね」
「はい」
目の前に極細の千枚通しが突き出された。怖い。
「ありがとう。これでもできそうです」
裏面のシールをそっと剥がすとディップスイッチが見えた。慎重に変更して、よしこれでいいはず。
ピッピッピッ
49*****00045349*****00045349*****000453
「できたぞ」
「よかったですね」
思わず声を出していた。




