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フラグメント

午後。家探しでもするように、PC-9821Aeをファイルマネージャであちこち開いたり、のぞいたりしていた社長は背伸びをしてから自分の机に戻った。パソコンは電源を入れたままだ。


起動しなくなったPC-9801EXは何かが漏れていて修理困難と判定された。新品を購入すれば無料で引き取ってくれる。秋葉原の業者に Windows 3.1 プリインストールで Excel 4.0 と Word 5.0 がバンドルされた最新モデルを勧められた社長はそれでいいとあっさり決めてしまった。

筆まめVer.3はDOS版をそのまま使うのがいいですよ、一太郎Ver.4はこの際だからVer.5にアップグレードしましょう、こちらもDOS版ですと提案され、インストールや設定をしてもらった。ついでにパソコン雑誌も何冊かくれた。これ全部で予算内と言っていたが、予算内とは有料という意味だ。請求書の手数料と技術料の区別がよくわからず、斉藤さんが電話で業者に確認をしていた。

新しいソフトウェアは何度か試された。雑誌は読んだかどうかわからないが、今は小さなプリンターといっしょに棚の中だ。



社長は朝読んだ新聞をまた読み始めた。しばらくすると机の引き出しを引き抜いてひっくり返したり、その引き出しの奥を覗き込んだりした。そしてまた立ち上がって、棚の資料を一冊ずつ取り出して眺め始めた。そろそろ声をかけたほうがいいだろうか。


「何かお探しですか」


振り向いた社長は言葉を探しているようだった。


「うん、フラグメント」

「はあ」


資料棚の端のボールペンや鉛筆のストックをひっくり返す。これは商品でなく事務で使う消耗品。FAXの感熱ロール紙やインクリボンも取り出して奥を調べる。3.5インチフロッピーの箱からラベルに書き込みのあるものだけを引っ張り出しては眺める。それから思い直して全部を取り出し、並び替えて箱に戻す。フロッピーの爪もチェックしていた。



社長は何枚かをパソコンの前に持ち帰りラベルを眺めていた。それから背伸びをして、給湯室でいつものコーヒーを作ってきた。ようやく目が覚めたようなすっきりした様子だ。風邪ではなかったようで安心した。


「この住所録って年賀状用だよね」

「今年使うのはまだ先ですよ。そうですね、春のDMも裕太がそれで印刷してました。前のパソコンが壊れる前です」


ワープロにしか使っていなかったPC-9801EXを見た誰かに、年賀状の宛名印刷に使えるのにもったいないですよと言われて筆まめを購入した。決めたのは就任したばかりの今の社長。名簿から生きている名前を選んで登録したのは美香さんだった。


「そうなんだ。じゃあここにない名簿を裕太君が別に持っていたりはしないね」

「それはないです。そのフロッピーで印刷してましたから」

「わかりました。それと住所録には最近の新しい顧客はまだ入ってないでしょう」

「新規ノートは私が持っています。師走にまとめて打ち込むつもりです。もしかして何か使うんですか」


机や棚をひっくり返して探していたものってこれなのか。聞いてくれれば良かったのに。


「使うかもしれない。そのノートはあとで見せてもらうと思う。ありがとう」



筆まめの住所録と手書きノートを入手した。また別のフロッピーに謎のファイル CATA1989.JSW が見つかった。タイムスタンプが 90/05/10 ということは、おそらく一昨年に退職した営業部の森係長が残した一太郎Ver.4のファイルだろう。一太郎Ver.5で開いてみたら旧カタログの原稿や新旧の商品一覧が出てきた。ただのテキストに見えるがレイアウト情報がなくなっているのだろうか。文字化けはなさそうだ。


まずは受注管理の仕組みを作ろう。在庫管理を合わせるのはまだ無理だ。それは基礎を作らずに屋根をかけるようなもの。まずはちゃんとした受注票をパソコンで作って、マスターと紐づける。そこから納品書と出庫指示書の印刷ができて、納品済み、集金済みがわかればいい。そこから始めよう。


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