ファイロファックス
外に出て左。道路から見れば右隣の建物が工場兼倉庫である。と言っても別々の建物ではなく、ひとつの建物が壁で区切られている。そうして別々に貸し出されていたものを、買い取って使っているのである。事務所の上は比野宅。工場の上は第二倉庫になっていて、軽いものと動きの悪い在庫品の置き場所だ。
表の小さな扉から伝票をぶらぶら持ちながら工場に入ると、中は意外と静かだった。
入ってすぐ目の前にビニールシートで区切られた四畳半くらいのスペースがあり、事務用のスペースとなっていた。同様のスペースが奥のほうにもあり、社員たちの休憩スペースだった。社員たちと言っても工場長の竹山を含めて 3人しかいないのだが。
竹山は事務スペースにいなかった。かまわず「出庫」と書かれた箱に伝票を放り込んだ。
裏手の搬入口のシャッターが開いていて、フォークリフトが荷下ろしをしていた。
ボールペン軸。以前は内製していたが、今は外に頼んでいる。1C/Sは5kg、1本が10gとして、5kgは約500本。パレットに8C/S積まれてるから4000本だ。実際にはもうちょっと入っている。重量で量られて納品されるのに入庫は4000本と記載される。よけいに入っている分は得をしたわけではなくて、破損や汚損を除くとだいたいぴったりの数になる。
作業場では社員が生産されたノートの箱詰めと検品をしていた。A4ノート細罫。さっきの伝票にも書いてあった売れ筋である。汚れや裁断のずれなどを目視でさっと確認して専用の段ボールに詰める。詰めたものを電子秤で計量する。こちらは1C/Sに20冊入ることになっている。わざわざ数えずに計量するのはボールペン軸と同じ。秤さえ正確なら数量もかなり正確だろう。秤の正確さはどう保っているのか気になる。なんとなく気持ち悪さも感じるが、合理的だとも思う。人間にはこんな形の合理性があるのだ。
竹山は手帳を持って、運転手と話し込んでいた。
先代社長と同年代の50代半ばの彼は、システム手帳ブームの洗礼を受けている。情報を集約して持ち歩くのがデキるビジネスマンと信じる彼は、他社製品の手帳を手放さない。おかげで工場の壁にシフト表や工程表が見苦しく貼ってあることもない。情報集約は好ましい思想である。正しい情報はそこにだけある。それを外に共有できたらもっといいのにな。
Filofax は今世紀前半にイギリスで生まれたバインダー式の、いわゆるシステム手帳と呼ばれるものだ。目的ごとの様々な種類のルーズリーフを自由に組み合わせたり、並べ替えたりすることができる。これは大ヒットして世界中で模倣品が作られた。竹山はオリジナルに敬意を持っていた。
今は話すことはない。ここにいると製品や資材の管理について、何か言いたくなってしまう。だが先にやることがあるので、工場のほうはうまくやっといてくれと視線で伝える。竹山は小さく黙礼した。伝わったのだろうか。




