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ロールバック

最初は事務所のプリンターが問題視された。EPSON LP-1500 は印刷量が飛躍的に多くなり、またサポート切れが近付いていた。まだ使える。快調なくらい。しかし壊れても直せない機械をここに置いておくわけにいかなかった。悲しいけどお役御免だ。代わりに LP-8300 とインクジェットの PM-770C が来た。

細長い机に2台のプリンターと美智子さんの PC-9821V10 が並んで繋がっている。

PC-9821V10 はメモリを 128MB まで強化されていたけど、ネット通販担当機がプリンターの面倒まで見るのは、不安に感じられた。


次は姉の斉藤さん。扱う情報量と処理量が古い PC-9801BA の限界を超えた。何しろ経理の仕事だけでなく、最近は分析みたいなこともしていたし、受注や在庫をひんぱんに見たりしていたので。社長に談判したら、重々しくうなづいて見積書とパンフレットを引き出しから取り出したのだった。


土日に社長と島田君が作業をしていた。島田君ははじめ拒否しようとした。しかし、Gateway 2000 P5-100 に自分の好きなパーツやソフトを入れてかまわない。ただし返すときに現状回復すること。交換条件に納得したらしく、彼は出勤に同意した。


OSも変わると言われた。今度はどう変わるのだろう。


こうなった。


受注管理部主機は PC-9821V200/M7 で Windows NT 4.0 を搭載。そして FileMaker もバージョンアップされた。これが会社の中心だそうだ。


美智子さんの担当は PC98-NXシリーズ VALUESTAR NX (Windows NT 4.0, FileMaker 4.0)。ネット通販の入力は主にこれでやることになる。PC-9821V10 は印刷システムと呼ばれて、そのままそこにいることになった。これも美智子さんの担当とされた。


斉藤さんのところは PC-9821V200/S7 (Windows NT 4.0, FileMaker 4.0) が入った。


「受注管理部の2台はどちらもこの会社の中心になります。美香機がホストで美智子さん機がクライアントです。FileMaker 4.0 は同じものが入っているので、美智子さん機は予備機でもあるんです。バックアップはフロッピーをやめてMOにしたいです。ホストだけです。それと最近は無停電電源装置(UPS)というのがあるみたいで、秋葉原の専門家に聞いてみようと思ってます」

「仕事はこれまでと同じなんですか」

「仕事は同じです。ただこれまでは端末ごとにできることが違いましたよね。それは変えます。ログインパスワードをふたつ用意してあって、それによってアクセス権を変えるんです。この3人は上位の権限でマスター群まで更新可能です。営業部のマスター管理者も同じパスワードを使ってもらいます。それ以外の社員とそれから今後入ってくるだろうアルバイトにはマスターに触れない下位のパスワードで利用してもらうつもりです。それと斉藤さん」

「はい」

「斉藤さんの端末ではこれまで受注入力はできなかったですが、今後はパスワードで分けるのでできます。ただ職域外ではあるので、いざという時くらいに思っててください。職域外と言えば、最近は売り上げの分析とかもされてますよね。それも本当は経理の仕事とは言えない。でも会社にとっては有用なことなので、またこれについては話しましょう」

「はい。わかりました」


「NT にするのはこれだけで、他のパソコンは Windows 98 にしていきます。FileMaker もいくつかに入れることになります。どの端末であっても、パスワードが違ったらできることが違う。私の PC-9821Ls150/S14 は Windows 98 にして FileMaker 4.0 も入れます。これも同様です。私も上位権限のパスワードを使うことになりますね」


山下さんと裕太はまたおそろいの IBM ThinkPad 560X (Windows 98, FileMaker 4.0) になった。山下さんは商品マスターの管理責任者。裕太は顧客マスターの管理責任者。そして社長がそれ以外のマスターを管理することになった。

ふたりの IBM ThinkPad 530CS は2台ともそのまま予備機として事務所内に置かれることになった。それなりの愛着はあったみたい。


営業部のあとふたりもおそろいで、IBM ThinkPad 600 (Windows 98) にさせられた。FileMaker はない。最近は受注情報はメールで送るようになっていて、まだしばらくはそれでいいということになった。

山根さんも金山君もどうでも良さそうにしていたのに、使ってみたら前との違いに驚いた顔をしていた。IBM ThinkPad 700C は2台ともお蔵入りになった。工場の上の片隅で次の出番を待つのだろう。


真子ちゃんは iMac という透き通った不思議な新 Mac を与えられた。ボンダイブルーという海の色の機械。ウェブマスターと呼ばれたり、カタログ屋と呼ばれたり、人によって呼び名の変わる彼女の名刺に印刷されているのはクリエイティブ担当だ。Macintosh Performa 588 をそのまま使いたいと主張して、2台持ちになった。どちらも Mac OS 8.1 を搭載。Adobe Illustrator を覚えたいと最近言っている。それはまだインストールされていない。

写真やテキストなどの素材もデータベースにしたらという話を社長と真子ちゃんでしていた。どうも写真は難しいみたいで、それならこのままで良いということになった。ふたりして、将来はデータベースからウェブページを書き出せたらいいねと言っていた。


さて、工場である。メモリを強化された PC-9821V10 (128MB) にも Windows 98 と FileMaker 4.0 が導入された。壁紙だけが変わらずにミケコである。


生産データ入力画面。左から商品番号、生産数、計数値の項目は以前の Excel テンプレートとまったく変わっていない。しかし内容はかなり変わった。まずこの画面は数字以外の一切の入力を受け付けない。記号も入力禁止なのでマイナス値は入れられない。

左側に商品番号を入れると、商品名が下段に表示される。わかりやすいほうがミスをせずにすむと鈴木君が主張したから。そして右側に有効在庫も出てくる。有効在庫とは、これだけあるはずだという想像上の在庫のこと。理論在庫に受注残を加えて計算される。

中央の列が生産数。その日、工場で作った商品の数を入力する項目になっている。今まで社長に提出されてきたデータがこれ。ここから入力できるようになったら、あとは日報メールを送るだけでいいよと言われていた。


生産数が入るとそれが有効在庫に加算されて数字が変化する。これが本当に計算された、この工場や倉庫にあるはずの在庫ということになる。工場では定期的に現物を数える。もし有効在庫と実在庫に差異があるなら、ここを書き換えることができる。

画面のいちばん下には「更新」というボタンがある。これを押すと、有効在庫から逆算した理論在庫が即座に FileMaker に戻される。もし更新ボタンを押さなかったら、その時はこの画面に何を入力していようと、FileMaker の中のデータは影響を受けないという安全設計。


「裏技として生産数を 0 とすれば在庫修正だけができます。工場長と相談しながら使用してください。それとこれは先の話になるのですが、ハンディターミナルでJANを読んでCSVを作ることを考えています。うまく行ったらこの画面はその取り込みにも使えるはずです。棚卸しが楽になりますよ」


工場の予備機である、もう一台の PC-9821V10 もメモリ強化と Windows 98 化をされた。林さんのなつかしい PC-9821Ae はまったく変わらずそこにある。停止したドットインパクト・プリンターは楽器のように見える。


忘年会にて。


「野球チームのように、ミスが起きた時は能動的に役割や配置が調整される。そういう連携プレーがうちの強みなんだ。人が増えたらもっと良くなると思う。ボトルネックを作らないようにしよう。私は技術者でなく社長だからね、どうしても至らない部分はあると思う。みんなにも助けてもらいたいし、外部の専門家たちともつながりを作っていきたい」

「社長、楽々市場の件はどうするおつもりですか」

「興味はある。これからはああいうのがどんどん伸びると思う。おもしろそうじゃないか」

「じゃあ出店するんですね」

「決めてない。やれると思うか」

「やれますよ。営業さんもやれるって言ってましたから」

「専門家がそう言うんじゃやるしかないなあ。それなら来年は楽々市場に行こう。きっと面白いことがたくさんあるぞ」


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