お前を消す方法
余裕がない。誰もミスを犯さなければ問題は起きない。最少人数でデータを守りきる。そんな前提が成り立つものか。
野球チームのように、ミスが起きた時は能動的に役割や配置が調整される。そういう連携プレーがなければ本当は機能しない。
本当は人や役職者を増やしてからやるつもりだったんだ。
本当に余裕がない。わかってるんだ。
導入スケジュールが早まった。そしてそれは衝動を抑えきれなかったからだ。
なぜだ。美しいシステムを早く手に入れたかった。不完全でも前より良くなっていると感じられる。これは快楽だ。
営業の端末から FileMaker に受注入力したいと要望が出てくるに違いない。当然だ。いつまで手書き伝票やメールで「これ受注です」と言わねばならないのか。
それで今後は未確定の受注という形を考えていた。営業部が入力したのを、受注管理部が確認して確定すればいいんだ。そういう形にするつもりだった。販促のための持ち出しにはそのためのルールを作った。同様にしたらいいんだ。
商品情報のテキストや画像もデータベースで管理させるつもりだった。iMacにも FileMaker を入れればいいのか。いや制作用のマシンにそんな重そうなことをやらせるわけにはいかない。まだまだ先の話になるのだろうなあ。データベースからウェブサイトをそのまま出せたらいいのに。他社はどうしてるのだろう。
経理も問題だ。マシンの問題じゃない。仕事が問題だ。
いつの間にか売り上げの分析とかやっていて、そんなのは経理の役目じゃないと言えなかったから。他にやれる人がいなかったんだもの。
私が悪いのだ。
私は技術者でなく社長だ。どうして自分で難しいことを引き受けているだろう。
誰に頼めばいいかわからなかったからだ。コンピューターの専門の会社に頼めば良かったか。大会社ならそうしただろうな。
いったい何が正しいのだろう。
自分自身が担っていた機能。
何が正しくて、何が正しくないかを決める判断機能。
そして例外処理機能。未知の問題に対処する機能。
それが社長の機能だ。
今のシステムは例外処理をすべて私が引き受ける構造になっている。
私がボトルネックだ。
経営判断が人に属する機能であるなら、これも外に出すべきでないか。
私よりシステムのほうがよほど信頼できるというものだ。
だがしかし。
いったいどこまでをシステムに移植するのだ。全部を渡したら何が残るのだ。
外部化しきれない機能とはなんだ。
私はいったいなんなのだ。
「社長、楽々市場の件はどうするおつもりですか」
「興味はある。これからはああいうのがどんどん伸びると思う。でも今は難しいな。出店するなら、そこを学びの場にしなければならない。でも今はその余裕を使い切ってる」
「じゃあ見送りですか」
「決めてない。ショッピングモールも買い物カゴにも関心がある。今はまず人を増やす。それから工場も広げる。そうしたら商品の量だけでなく幅も広がる。工場の上を有効活用しよう。事務所の上の私が住んでいるところを明け渡して、受注センターにするのもいい。どうせ家には帰ってないから」
2台の受注用パソコンを中心にして、使用制限をきつめにしたが。
わかってるんだ。だがここを乗り切れば、きっと地球文明は。
責任の分散はひとりひとりの責任を軽くはしない。
境界が摩擦熱を発するのだ。
FileMaker はもっとサーバー的に使うのがいいと感じた。
中心は一台でいいのではないか。
相談できる専門家はどこかにいないか。
宇宙標準言語 (CQL) は曖昧さをゆるさない。
いずれ FileMaker には限界がくる。延命のためには在庫管理は別のデータベースにするとか。
地球文明が宇宙のネットワークに参加した場合、文法違反が頻発するだろう。
そうか2台のどちらかを在庫管理担当に当てれば。
構造化への衝動を喚起して影響を観察。
バックアップはどうしようか。
そうすれば、FileMaker はただのインターフェースになるかもしれない。
相談できる専門家はどこかにいないか。
停電対策は。
「やめろ」
「文明の互換性が確認されれば宇宙文明への参加を」
「お前は誰だ。これ以上の口出しをするな」
やがてはデータベースを社外に置けるようになるだろう
「やめろ。勝手に俺に、俺の会社にアクセスするな。俺が root だ」
計算機能そのものを社外に出すことも、またそれを貸し出すことも
「黙れ。どうすれば静かにできる。お前を消す方法を言え。答えろ」
・・・トランザクション未完了
「おはよう。来年は楽々に出店するつもりだ。きっと面白いことがたくさんあるぞ」
忘年会の日にひどく酔っ払った社長は、すがすがしい顔で出社した。それから権限をすこし緩くするべきだとか、営業部の受注についてどう思うかとか、そんなことをぽつぽつ話した。
「FileMaker は大切に扱って壊さないようにしよう。それからみんなで助け合う会社にしよう」
そんなことは言われるまでもないですが。それから社長は工場長と巨人軍のプレイについてずっと話し続けていたけれど、野球の話はよくわからなかった。
比野文具株式会社の登場人物
比野真二 社長 PC-9821Ls150/S14
島田 OAアシスタント Gateway 2000 P5-100 PC-9801NS/T(自宅)
山下 商品企画部係長 IBM ThinkPad 560X CASIO QV-10A ホンダ・トゥデイ
裕太 営業部主任 IBM ThinkPad 560X
山根 営業 IBM ThinkPad 600
金山 営業 IBM ThinkPad 600
斉藤さん 経理 PC-9821V200/S7(NT 4.0) PC-9801BA
美香 受注管理部主任 PC-9821V200/M7(NT 4.0)
美智子さん(斉藤美智子) 受注管理部 PC98 VALUESTAR NX(NT 4.0) PC-9821V10(印刷システム)
竹山 工場長 Filofax Winchester PC-9821V10(2台)
今川 工場 Gateway 4SX-33(自宅)
林 工場 小口発送担当 PC-9821Ae(印刷専用DOS機)
鈴木 工場
修(竹山修) 工場
真子ちゃん(坂上真子) クリエイティブ担当 iMac + Macintosh Performa 588 EPSON GT-5000 ART
共用 EPSON LP-8300 EPSON PM-770C
予備機 IBM ThinkPad 530CS(2台)
お蔵入り PC-PR101/T101 EPSON LP-1500 ThinkPad 700C(2台)




