プランC
工場の生産データには問題があった。担当者当番制の弊害で、全角英数字で商品番号や生産数を書き込んでしまう人がいる。それもわかっていての、ついうっかりだ。CSVで FileMaker Pro 3.0 にデータを渡しても、確認なしで読み込ませることは怖くてできない。Excel 5.0 で厳密な入力規制は無理なのか、美香の時はすんなり行けたのに。どこかにバリデーション処理を入れるのが正解か。それとも Excel 以外でCSVを作らせるべきか。頭を悩ませる。
近い将来に予定していた、工場への FileMaker 導入を前倒しする。それもひとつの方法だ。導入しても事務所の FileMaker とは無関係の孤立運用になる。入力のためだけの装置。しかしいずれはちゃんとした形で使用するつもりなので無駄とは言えない。工場への FileMaker 導入は決定事項ではない。有力な将来計画にすぎない。それを今、決定していいのだろうか。こんなことで。とにかくこれをプランAとする。
このままというのも考えられる。過渡期を人力で乗り越えるというのは、工場だけの話ではない。いつものことではないか。ただ自分以外の誰かにまかせたい。誰でもいいわけではない。たとえば工場長に送信前のチェックをお願いするとする。それは当番制を押し付けた自分の目的と方針に反する。では事務所の者は。こんな雑用は誰の職域にも当てはまらない。だから自分でやっている。あ、雑用係がいたか。でもあれを頼りにして大丈夫かなあ。とにかく人力でどうにかする。これがプランBだ。
そしてプランCが採用された。
「そういうわけでテンプレートを作りましたので、これを使って生産データの作成をお願いします」
社長が工場の PC-9821V10 を操作して自分のパソコンから取り寄せたのは、工場で使っている生産データ入力用の Excel ファイルと同じもの。
「すこしだけ修正しまして、書式を作ったんです」
記入用のシートはフォントが「MS ゴシック」でサイズもやや大きめに設定されていた。
「これに記入してデータを作ってください。このフォントは全角の見た目がぜんぜん違うのでわかります。誰にチェックしてもらうか考えてみたんですけど、自分で気付けばいいじゃないかと思ったんです。これならミスが減りますよ」
ミスが減るなら受け入れないわけにはいかない。作業量が増えるわけでもないのだから。
その後も社長は工場のCSVを信用したわけでなく、毎日じろじろと眺めてからインポートしていた。しかし半月後には、ちらっと見ただけで FileMaker Pro 3.0 に取り込ませるようになった。




