ガベージコレクション
平日の午後、工場の上の整頓をすることになった。
縞鋼板の階段を上ると同じく鋼板張りの床がある。2階の高さがあるのに面積は半分以下。建築のことは知らないが、鋼材が縦横にたくさん走っているので仮設のような弱いものではない。だが階段横のダムウェーターは150kgしか載せられない。カゴ台車も載らない。中途半端な倉庫空間だった。
ここを整理して消耗品や軽い材料、他社製品の筆記具などを置こうということになった。窓がないがこの気温なら問題ない。蛍光灯が薄暗い。
メンバーは工場から今川君と林君と鈴木君、経理の斉藤さんと事務の美智子さん。入社予定の内田君も半日バイトで呼ぼうとしたが連絡が付かなかった。
「美智子さんはなんでいるの、有給でしょ」
「家で退屈だったので」
「来てしまったものは仕方がない。事務所で打刻してバケツと雑巾を持ってきてください。有給の残り半分は取り直してください」
「はーい」
カンカンと階段を降りていくのを見送る。
「それでは説明を。ここに何があるかは誰も把握していません。ですので調べながら不用品を降ろします。下の工場は午後は休みで工場長がひとりで整頓してます。工場組はここで手が空くようなら下を手伝ってもかまいません。夕方5時に産廃業者の2トン車がゴミを引き取りに来ます。わかりましたか」
作業開始。まずは木製のカルテキャビネット、これは壊れてるので廃棄。林君と鈴木君とで階段から降ろす。
ぶらさがり健康器、これも廃棄。今川君にまかせる。
次は野球道具一式。
「これは要らないよな」
「キャッチャーミットはありますか」
「わからない。探してみて欲しいのがあれば持ってっていい。残りは廃棄」
事務机がふたつ、使えるので横に置いておく。パイプ椅子もあった。
「美智子さんはこれ拭いといて」
「はーい」
熱転写プリンターPC-PR101TLは保管品。使い道はたぶんもうない。
「これどうしようか」
「償却は終わってます。消すなら手続きしますよ」
「でも使えるんだよ。インクリボンもすこし残ってる。もうしばらく置いておくか。保留」
手動断裁機。工場長に聞かないとわからない。これも現役ではないよな。
「今川君、工場長に確認してきて。手動断裁機、推定重量50kg、サビが多い」
「はい」
プレートのようなもの。比野文具株式会社創業20周年記念。不要だ。
「それ捨てるんですか。昭和43年って書いてあります」
「捨てます」
壊れた靴箱、倒産した会社のカタログ、未開封の水飲み鳥。廃棄。
変色した色見本、年代不明の神保町書店ガイド、回転式名刺ホルダー。廃棄。
ヒマワリ柄ファンシーケース、由来不明の紙見本、ガリ版一式。廃棄。
「ファンシーケース欲しいです」
「どうぞ」
「手動断裁機は除却済みだそうですー」
「じゃあ降ろしといて。鈴木君は手伝ってあげて」
「はい」
「机の引き出しから日記帳が出てきました。英国訪問記って書いてあります」
「それは私から持ち主に返しておきます」
日経新聞の束は廃棄。
業界紙「旬刊ステイショナー」ファンシー文具特集、売り場訪問。興味ないな。
A判でもB判でもない試作品のノートも廃棄。
古雑誌「室内」「月刊漫画ガロ」「グラフィックデザイン」も廃棄。
「よくわからない試作メモ、製造記録、郵便物、契約書の写しは保留。あらためて調べる」
「古い伝票や帳簿は10年分残してください」
「20年分くらいあるよ。半分捨てていいってことか」
「私が見ます。捨てていいのは降ろしておきます」
「降ろすのは林君にやってもらったらいいよ。斉藤さんにまかせます」
重い段ボールが下から出てきた。箱には281と番号が書いてある。これは廃番商品のライトノートだ。
「B5 36枚。現行商品より重いです。どうしてライトなんですか」
「なんでいるの」
「さっき紙屋から戻ったところです。缶コーヒーの差し入れに来ました。他の人にはもう配ってます」
山下さんが熱の残るBOSSコーヒーを手渡してきた。
「100枚のノートと36枚のライトノートと32枚の高品質ノートがあった。100枚のはA4化して今の特厚ノートになった。32枚のはそのまま現行商品。ライトノートは消えた」
「それはどうされますか」
「見本として残すのが妥当かな。仕事の役に立つなら持っていってもいいよ」
「それなら何冊か事務所に置いておきます」
「ともかく今日は掃除して終わりにしよう。これだけのスペースがあれば十分です」




