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ファイルメーカー

日曜日。全員が休日出勤した。今日は Excel に代わる新しいシステムの稼働テストだ。仮のデータを入力したりしてみんなで試す。社長は全員の意見を聞くといった。ひとりでも反対したら明日からも Excel で仕事をする。今日の代休は順番に与えるとも言った。


FileMaker Pro 3.0J は昨年発売されたデータベースソフトだ。海外ではもっと早く発売されていたので、社長はその評判や問題点をインターネットで調べていた。

受注管理部だけで入出力をするなら大丈夫だろうというのが社長の結論だった。


壁の前に置かれたままの PC-9821V200/M7 はすでに起動しており、スクリーンセーバーのトースターが飛んでいた。


「それではオフィス・オートメーションの革新を開始します」


示された FileMaker の受注入力画面は Excel にそっくりだった。


「ここは見た目を似せるのにかなり苦労した。真子ちゃんの違和感チェックを受けて何度も直した」


新しい受注番号がすでに表示されている。ここを書き換えることはできない。試してみる。できなかった。

受注番号の下には受注日が YYYYMMDD で表示。ここは書き換えが可能だ。しかし存在しない日付にしたり桁が足りなかった場合は元に戻ってしまう。システムがチェックしてるのね。それくらいはわかるようになった。


次に顧客番号を打ち込んでみる。メモ用紙を伝票に見立てた仮伝票だ。


「伝票に書かずに、電話を受けた人が入力したほうが早いと思うだろう。私もそう思うけど、それは次の段階でやる」


顧客番号から検索された名前、郵便番号、住所1、住所2、住所3、電話番号、メールアドレス、販路、特記事項が表示された。


「顧客番号には数字しか入らない。それから機能アップした点は、電話番号やメールアドレスからもマスターデータを呼び出せるということ。電話番号のところに入力すればそれ以外の情報が出る。メールアドレスも同様だが完全一致でないと出ない。ネット販売が爆発的に増えたときは使える機能だと思う」


真子ちゃんの顔がすこし引き締まった。


「顧客情報が表示されたら、そこから過去の受注履歴も調べられるようにする。今回は間に合わなかった。次の段階でやる」

「新規顧客の場合はどうなりますか」

「顧客情報が出てこなければ新規として入力することになる。その場合は顧客番号を空欄のままにして、他の情報を入力する。以前と同様に電話番号は数字しか入力できないし、メールアドレスは英数字と記号しか入らない。住所の項目では全角の英数字などが混入する可能性が残っているが、それは気にしなくていい。入力した顧客情報がそのまま顧客マスターに登録されることはない。顧客番号が空欄の受注レコードを検索して、顧客マスターに登録するのは管理者つまり私の仕事です。登録時にチェックできます」


受注入力画面の次の項目は担当者名、受注経路、支払方法、出荷方法。


「出庫区分から出荷方法に表示を変えた。表示だけでデータ自体は前のデータと互換だ。それらの項目はすべて別々にマスター管理されているので、増やすことが前より簡単にできる。支払い区分も支払方法に表示を変えた。支払方法で代引きを選ぶと出荷方法が宅配便になるよう連動させることも考えてる。それで問題がないかどうか、結論が出たらそうする。入力画面の説明はここまで。質問はありますか」

「はい。担当者が増えたときはわかるんですが、減ったときはどうなりますか。いない人が出てきたら混乱すると思います」


裕太がぎょっとした顔をした。


「いない人はここには出てこないようになりますが、マスターには残ります。フラグという出すか出さないかの印を付けて管理するんです」

「出荷方法が配達、定形外郵便、郵便小包、国際郵便、宅配便、大型輸送、引取になってます。ここも増えますか。送料の計算はどうなりますか」

「送料の話はあとでしようと思ってたけど、結論から言うと、配達と引取と定形外郵便以外は送料が出ない。定形外郵便は送料マスターに固定値が入ってる。引取は取りに来るやつだから送料は発生しないです。自社配達はサービス。定形外郵便の顧客はほぼ個人だから、直売すると利益率が大きい。取りすぎないようにすれば多少はこちらがかぶってもかまわないという経営判断がある。郵便小包と宅配便は卸売でも使うので同じ手が使えない。直売のときだけ固定で取るという手もあるが。ちょっと情報が足りなくて最適な判断ができない状況だ。必要なことはわかるので、これも次の段階で対応したい」


次に注文の入力。商品番号を入力すると、商品名、属性1、属性2、JANコード、ここで改行されて特記事項、価格、在庫と展開される。その右に数量の入力欄。


「商品番号のない商品はどうしますか。名前でも検索できますか」

「それは商品ではないです。商品番号のない商品というものは存在しません。だからここでは商品番号以外のキーはないです。他の会社では例外商品という名前の登録を使ってるところもあります。あるけどそれは良くないと思うんだ。なしでやりたい。JANから引けるようにしたらいいという意見もあるので、検討はいろいろしてます。それに今までみたいに Excel で探すことはできます。不完全でも未完成でも、以前より不便にはなってないと思うんです。ところで、この価格の表示ですが、顧客が直売の場合は小売価格が表示されて、それ以外では卸価格が表示されます。ここは単純に掛け率50%つまり上代半掛けの数値が出ています。メーカーがこの基準から外れると小売店が困りますので。商品マスターでは小売価格と卸価格は別々に持っているので、細かく調整することは本当は可能です」


裕太と山下さんの目を見てこう続けた。


「取引先ごとの掛け率の違いというのは、今はないのでこれでいいです。大口にはバックすることで帳尻を合わせてますし。しかし仕入値交渉の要請は何度も来ます。もしかしたら将来は、顧客マスターに掛け率を持たせるかもしれません。設計上の想定はしています。システムが現実に影響を与えることもあれば、現実がシステムを脅かすこともある。私はそれは政治だと思っています。オオミヤさんの政治力は思った以上です」


いつもより早口なのは話すことがたくさんあるからだろう。そしてこちらが置いてけぼりになっていないか、気にはしている様子だ。


「在庫という項目は前はなかったでしょう。倉庫に在庫がある時はここには何も表示されません。もし在庫がゼロの時は赤字で欠品と表示されます。それから右上の詳細というボタン。これを押すと在庫欄に在庫の理論値が表示されますので、実際にどれくらいあるかを確認できます」

「今までできなかったところですね」

「はい。今ここに入っている理論在庫値はたんなるダミーではありません。昨日の夕方の段階での竹山在庫です。ああ、すいません。竹山在庫というのはですね、竹山式在庫ノートつまり工場のパソコンで毎日計算している在庫数量のことです。これを昨夜移植しました。実在庫との乖離率は5%以下です。使える数字だと思います」


工場で Excel を使っていることは知っていたけど、そんな名前があったとは。


「それでですね、受注入力をするとこの理論在庫が引き落とされて減るんです。減ってなくなった状態で受注すると仮受注というフラグが立って、受注管理画面というところでもそれがわかるんです。この場合、理論在庫値はマイナスを許容します。在庫がなくても注文を受けることはできるんですね。その場合は担当の営業やネット通販担当に顧客対応をしてもらいます」

「ネット通販担当は真子ちゃんですか」

「いいえ。真子ちゃんはウェブマスター。ネット通販担当は美智子さんにお願いするつもりです。まだ本人に言ってなかったですね。美智子さん、そういうわけで注文を受けた品物がない時はお客様にメールでお知らせして、お待ちいただくかキャンセルかのご判断をお願いしなければなりません。そういうことはたぶんないと思いますけど、お願いします」

「わかりました。でもそういうことは起きないんでしょう」

「ええ、たぶん。ここまでで何か質問はありますか」


比野文具株式会社の登場人物

比野真二 社長 PC-9821Ls150/S14

島田 OAアシスタント Gateway 2000 P5-100 PC-9801NS/T(自宅)

山下 商品企画部係長 IBM ThinkPad 530CS CASIO QV-10A ホンダ・トゥデイ

裕太 営業部主任 IBM ThinkPad 530CS

山根 営業 IBM ThinkPad 700C

金山 営業 IBM ThinkPad 700C

斉藤さん 経理 PC-9801BA

美香 受注管理部 PC-9821V10

美智子さん(斉藤美智子) 受注管理部 PC-9821V10

竹山 工場長 Filofax Winchester PC-9821V10

今川 工場 Gateway 4SX-33(自宅)

林 工場

鈴木 工場

修(竹山修) 工場

真子ちゃん(坂上真子) クリエイティブ担当 Macintosh Performa 588 EPSON GT-5000 ART

共用 EPSON LP-1500

お蔵入り PC-PR101/T101 PC-9821Ae

テスト中 PC-9821V200/M7


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