銀河鉄道 1/3
営業部の裕太君と山根さん、商品企画部の山下さんがドトールコーヒーで休憩していた。彼らは文具流通大手のオオミヤを訪問した帰りだ。近代的な倉庫と清潔なオフィスに圧倒されていた。裕太君だけがアイス。ふたりはホット。
「まずJANコード。国際的にはEANとして運用されていて、日本ではJANと呼ばれている。SKUとJANは基本対応するけど、包装単位で別になるから一対一とは限らない。そもそも管理方法の思想が異なる。単品、ケース、パレットなど包装単位ごとに別のJANを付けることもある」
裕太君はストローで氷の向きを変えながらつぶやいた。
「つまりうちの商品番号みたいなのの世界版ですか。うちのはケースに別番号とかないですけど」
「会社によるけど、まあだいたいそんな感じ。それでオオミヤさんの言ってたのは、うちの商品にはJANがないから扱いにくいということ」
「それを付けたら取引してもらえるんですね」
山下さんが重そうな合皮の鞄から分厚いオオミヤのカタログを取り出して開いて見せた。最初のほうには誰でも知っている大手メーカーの商品が並び、だんだんと小さなメーカーや業務用の商品や素材に移っていく。どれにもバーコードが付いていて店舗では直接スキャンして注文書を作るのだ。ここに当社の商品は含まれていない。
「大手流通だとその番号がないと商品登録ができない。だから実質的に取引が難しくなることが多い。今はどんどんPOSが普及し始めてるからなおさらだ」
「つまり今までみたいに、俺が自分でお客さんのところに持って行くならJANはなくてもいいけど、オオミヤさんに扱ってもらおうと思ったらJANが必要ということか」
「誰が運ぶかではなくて、誰が管理するかという話。オオミヤさんに管理をお願いするにはオオミヤさんの管理方法に合わせないといけないわけです」
山根さんがベイクドチーズケーキをフォークで突きながら質問した。
「でもうちの現行商品の全部に新たに付番して、それだけじゃなくて現物の商品に印刷したりもするんでしょう。難しいんじゃないですか」
「いきなり全部の商品に付ける必要はない。今回はオオミヤさんと取引したい商品に付いてれば問題ない。たとえば今日の話だと、メモ帳のシリーズに興味を持ってくれてただろう。そこから始めるのがいい」
「取引したい商品を選ばなきゃならないんですね。その基準はなんだろう。相手が欲しがってる商品をそのまま出せばいいのか」
「その基準を商品戦略と言います。社長は先方の話を聞いてみてから考えるって言ってたけど、どうするつもりなんだろう」
流通システム開発センターに資料請求をしたら、すぐにバーコードガイドが送られてきた。その中の申請書に会社の情報やJANコードの使用目的などを記入する。郵便振替で費用を支払い、書類を郵送。追加で確認をされることもあるが、審査を通れば企業コードが貸与される。
JANコードの構造は、先頭の49が日本を表す。次の企業コードは5桁、商品アイテムコードも5桁。最後のチェックディジットはモジュラス10/ウェイト3の計算式で求められる検査用の数字。全部で13桁。
```
=A2&MOD(10-MOD((MID(A2,1,1)+MID(A2,3,1)+MID(A2,5,1)+MID(A2,7,1)+MID(A2,9,1)+MID(A2,11,1))+(MID(A2,2,1)+MID(A2,4,1)+MID(A2,6,1)+MID(A2,8,1)+MID(A2,10,1)+MID(A2,12,1))*3,10),10)
```
「手続きはしましたので審査待ちです。JANをどうするかそろそろ決めましょう」
「どうせただの連番だから必要なところからどんどん付与していこう。Excelで計算すれば簡単です。ただし別SKUに同一JANは付けない。注意するのはそれだけです」
山下さんに比べると社長は気軽そうだった。営業のふたりもそれぞれ意見を述べてみた。
「だけど番号だけ付けたって、商品にするのは時間がかかると思います」
「メモ帳は6つしかSKUがないです。他に売れ筋をお勧めしてみたらどうでしょう」
「受注伝票の電子化が今年からで情報は多くないです。斉藤さんに売上順と利益順で単純に出してもらったけど、まずはそれで考えてみようか」
ここまで黙って聞いていた工場長が挙手と同時に発言する。どうやら話すタイミングを計っていたようだ。
「ちょっと待ってください。メモ帳だけでも工場でどう対応できるかどうかわからない。台紙に外注先で印刷してもらうんですよね。社名の下あたりに。でもそれが読めるかわからない。あの紙はにじみますよ。それとも手でラベル貼りしますか。工数が増えます。これも外注です」
「読めるかどうかはやってみないとわからないでしょう。仮のバーコードを印刷してもらってみてください。印刷屋さんならJIS標準のテストコードを持っているはずです。オオミヤさんからハンディターミナルを借りてきて読めるかどうか試しましょう。それからバーコードラベラーの機種も調査します」
```
ピピッ 4912345678904
ピピッ 4912345678904
ピーッ ERR
```
「エラーです。読み取りは50回中48回成功」
「これは微妙な結果が出たな。どうする」
テストの結果、既存商品では裏表紙がコートボール紙のメモ帳と便箋がすんなりと合格。手帳やノートはおおむね合格で読み込み失敗がたまに発生。スケッチブックはエラー頻発で全滅判定だ。筆記具はメーカーにJAN導入を働きかけているが反応は芳しくない。セット商品はうちのだから、パッケージにラベルを貼る方向で検討している。機械を入れるかどうかも未定だ。
「フレキソではダメか。ロゴとバーコードでは必要な精度が思っていた以上に違うようだ」
「オフセットにしてインクの粘度を工夫すれば改善できそうです」
「インクと言えば、この業者はDICじゃダメなんだって」
「ええ、印刷屋によって基準が違うんですよ。PANTONEで指定しないと合わせられないと言われました」
「工場長にも相談してみてよ」
そんな感じで準備のできたものから順番にオオミヤに見本を持っていく。
「メモ帳と便箋から始めます。残りは紙かインクを調整します。仕様が変わるから新商品として登録することになりますね。旧商品の在庫がなくなるまでバーコード付きの新商品はオオミヤさん専用、そのあとは全面切り替えです」
「売れ筋から順番に進めるしかないですね。新商品なら紙質だけでなくデザインも変更したらどうでしょう」
「コスト次第かな」




