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スピンオフ・坂上真子の物語 2/7

月末の土曜日。松屋銀座の前で待ち合わせ。呼びかけ人のMANABUさんは目印にインターネットマガジンを持っているはずだった。


「今日はよろしくお願いします。makochanです」

「あ、こんにちは。すぐわかりましたか」


そりゃわかるよ。頭の上に雑誌を掲げてる人は他にいないもの。


「他の人はまだみたいですね」

「30分前ですから。早く来すぎちゃいました」

「名刺交換しますか」

「すいません。ぼくはまだ学生なので名刺は持っていないんですよ」

「そうですか、では私だけ。こちらになります」

「坂上真子さん。文具メーカーのクリエイティブ担当ですか。カタログとか作られるんですか」

「そういう仕事もありますよ」


MANABUさんの正体は医学生だった。そんな人もスターバックスに行きたいんだ。なんだかおもしろい。


「こんにちは」

「はじめまして。今日はよろしくお願いします」


時間までに集まってきたのは私を含めて5人。自己紹介は後まわしということでハンドルだけを伝えあう。オフ会の始まりです。



ガラス張りの建物にグリーンのひさし。白抜き文字で STARBUCK COFFEE と書かれている。2階の窓のその上に丸い人魚と緑色の店名。


「ずいぶん人が入ってますね。でもそんなに並ばなくても大丈夫そうです」

「みんなラテでいいんですか」

「カプチーノにします」

「私はエスプレッソを試してみたいです」


じゃあ私からと言って前に出たカナさんはカプチーノのショートを頼んだ。本当にショートって言うんだ。次のヤマトタケル(本名)さんはラテのトール。MANABUさんも同じ。私はエスプレッソのソロ。最後の北上さんはやっぱりラテのトール。

席に向かいながら顔を上げると、北上さんがこちらをじっと見ていた。エスプレッソが欲しかったのだろうか。


「カナさんのカプチーノってラテとどう違うんですか」

「ラテはコーヒー牛乳でカプチーノはコーヒーと牛乳。そんな感じ」

「フォームドミルクが乗ってるんですよね」


そういう私はエスプレッソをもう飲み終えていた。


「もう飲んじゃったの」

「だってそうするものだって個人サイトで見たから」


そうなのだ。ヨーロッパでエスプレッソを飲んだ人の体験記を事前に読んできて真似をしたのだ。デミタスカップに砂糖をスプーン数杯入れてかきまぜて、くいっと飲み干すというのをやってみたかった。


「おいしかったよ」

「その残った砂糖はどうするの」

「これも食べちゃうつもり。あ、おいしい」

「来月には御茶ノ水に新店舗ができるんですよね」

「そうなんですか。学校の近くだからそれはうれしい。調べてみます」


そのあとの予定は決まっていなかったけれど、北上さんが別系統の有名店が近くにあると言い出して、みんなで歩いて行ってみることになった。オレンジ色の看板に珈琲だけの店と書いてある。ここも名前だけ知っていたお店のひとつだ。



注文はカナさんがブレンド。ヤマトタケル(本名)さんとMANABUさんが濃いブレンド。北上さんがオールドビーンズのマンデリンで私は前から気になっていた琥珀の女王。全体的にお値段が高いです。


カウンターの女性が豆を計量して粉砕している。コーヒー好きの集まりなので自然と黙ってその様子を見つめてしまう。小さなネルドリッパーに粉を入れて、先をつぶしたホーローポットからお湯を静かに乗せる。泡や膨張の具合を見ながらすこしずつお湯を継ぎ足すと、やがてポタポタとコーヒーが落ちてきた。


「ポットだけじゃなくてドリッパーも動かすんですね」

「あのやり方をするお店はいくつもあるけど、ここが元祖なんだって」

「あのドリッパーも売ってるのとすこし形が違うみたいです」


注文品がテーブルに並ぶと品評会が始まる。


「飲みやすくて味が複雑です。焙煎後ちょうどいいタイミングで提供してるんですね」

「あの焙煎機って何キロだろう。最近の機械ともすこし違うな」

「オールドビーンズってどんな意味があるんでしょう。お米でもなんでも新しいほうが価値が高いじゃないですか」

「品種改良前のストックって雑誌で見たけどよくわからないな」

「その琥珀の女王はどう」


これは冷たいコーヒーに練乳を乗せたメニューだ。


「香りと苦味が強くてミルクに負けてません」

「水出しではないんだよね」

「違うと思います。水出しではこんなコクは出せません」


こんな話で盛り上がれるなんて。ああ、楽しい。


「坂上さんってもしかして」


だけど静かにマンデリンを味わっていた北上さんが話しかけてきて風が止んだ。


「同じ高校の人じゃない。美術コースにいたでしょう」



北上拓也君。同郷で同じ高校で彼は普通科。体育の合同授業で何度も会っている。バドミントンでチームも組んだ。ごめん、私のほうはぜんぜん覚えていないや。


「文房具って坂上さんに似合う気がする。だってデザインの道具だから。色を考えたりもするんでしょう」

「商品のデザインには関わってないよ。私がデザインしているのは」


なんだろう。私は何をデザインしているのだろう。答えに窮する。そして出てきたのはこんな言葉だった。


「仕事そのものかな」



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Subject: [coffee-ml:2458] Re: Starbucks


本日のオフ会にご参加いただいた皆様

ありがとうございました。


新しいコーヒー文化に触れることができて

とても有意義でした!


2軒目のお店もたいへん興味深く

こちらはあらためてレポートを投稿します。


またお会いしましょう。


MANABU


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