10ー3 サリナちゃんパワーアップ計画(3)
リコッタ嬢に防御用の強化魔法をかけてもらったあとでいざ向きあうと、気弱な青年に抱いていた印象は一瞬にして覆ってしまった。
構えに隙がない。
気迫や殺気も感じない。
なのに対峙しているだけで、額から嫌な汗が滲みでてくる。
相手はサリナが仕掛けてくるのを待っているようなのだが、いつになっても足を踏みだすことができなかった。
数秒ほど距離を取ったまま、攻撃の糸口を探していると――。
「がっ!」
持っていた剣を弾き飛ばされてしまった。
くるくると回転し、切先が地べたに勢いよく突き刺さる。
タクヤの構えはまったく変わっていない。動いたはずなのに、動いたところを視界に捉えることができなかったのだ。
「さすがなのです。通り魔にしばき倒されたと聞いたときは『なにやっとんねんあいつ』と思いましたが、その後に反省してさらに修練を積んだようですね。今のサワダ様ならクソみたいな連勤で憔悴しきったところを呪物で不意打ちされても、なんなく捌くことができるでしょう」
「トラウマを思いださせるのはやめてほしいっす……」
リコッタ嬢は地べたに突き刺さった剣を抜き、呆然としているサリナの足もとに投げてくる。
するとタクヤもへらへら笑いをやめて、剣を構え直した。
無言の圧力。
こいつらは敗北感に打ちひしがれる時間すら、与えてくれない。
「とりあえず反応できるようになるまで、やるっすよ」
「くそっ……いえ、よろしくお願いします。サワダさん」
タクヤは想像していた以上に厳しかった。
そのまま日が暮れるまで稽古を続け、ようやく一度だけ相手の剣を受け流すことができた。
しかし流れるように脇腹めがけて連撃が繰りだされ、サリナは激痛のあまり失神してしまった。
最後に聞いたのはリコッタ嬢のケラケラ笑い。
退屈なんて吹っ飛んでしまった。
強くならなければ、笑われるだけ。
まんまと乗せられているようで癪だが、あの角ガキをぎゃふんと言わせてやらなければ。
◇
「起きたみたいですよ、サリナちゃん」
「そうか。でも疲れているだろうし、このまま家まで背負っていこう」
「ひゃあっ!? ジークさん!? ええええ? いつのまに!?」
「稽古の途中から。てっきり気づいているのかと思っていたが」
「それだけ集中していたということなのです。えらいえらい」
リコッタ嬢は相変わらず、からかうようにケラケラと笑っている。
それはさておき、目を覚ましてみればとんでもない状況だ。
みんなの憧れである筆頭騎士様が、サリナをおんぶしているのだから。
「は、恥ずかしいので下ろしてください……」
「気にしないでいい。俺はもう何度もリコッタ嬢をおんぶして帰っている」
「サリナちゃんは幼女というより乙女ですから、お姫様だっこのほうが嬉しいらしいです」
「それは俺もまだちょっと恥ずかしいな」
「やめ、やめて! お願いだから、これ以上はむ、無理……」
というわけで自分の足で歩くことにした。
もったいなかったような気もするが、羞恥心のほうが強かった。
「しかしタクヤの『無拍子』を受けるとは驚いたな。君は射撃がメインで、しかも最近はずっと勉学に励んでいたのだろう? そうそう出来るもんじゃない」
「でも、反応するだけで精一杯でした。実戦だったら結局やられちゃいます」
「課題が見つかったのであれば、それをカバーする方法を考えればいいだけなのです。そもそもそれを確認することが稽古の目的ですから」
「どんな武器を作るか決まったの」
「今はまだ。ですが参考になりそうなデータは取れましたよ」
「ん? 芸術の次は鍛治でもはじめるつもりなのか」
「聞いてくださいジークさん。こいつ、イン――痛っ! なんで急にビンタ!?」
「虫がいたので」
そう言ったあと、リコッタ嬢が目で訴えかけてくる。
……禁呪古文書をパクったことは内緒なわけね、了解。
「今日は疲れただろうし、うちに泊まっていくといい。夕食はなにがいいかな」
「ハンバーグかステーキなのです」
「なんでリコが先に答えるんだよ」
ところが家に到着すると、和気藹々とした空気は一変してしまった。
リビングのテーブルにどんと、身覚えのある物が積んである。
大量の、禁呪古文書。
「夕食の前に、説明してもらおうか」
「ちゃ、ちゃうねん……」
「鞄の中も見せなさい」
エロ本を隠しているのがバレた男子学生みたいだな、マジで。
お尻ぺんぺんされるリコッタ嬢を眺めながら、サリナはざまあみろと思った。




