9ー5 やべえ。バレた。
やがてマルローネがカシオ様の様子を見にいくと言って、食器を片づけながら去っていく。
リコッタ嬢は退屈しのぎに、来客者たちを観察することにした。
お誕生日祝いといっても正式な式典は別にあり、今回のお茶会は公務とは別のカジュアルな催しらしい。
会場にいる連中も着飾ってこそいるものの、その表情はずいぶんと和やかだ。
王族ご自慢の庭園は多種多様な草花で彩られ、天上の世界にいるかのごとき錯覚に陥ってしまう。
とくに見応えがあるのは人工オアシスだ。
広々とした湖面は砂漠の太陽から日差しを浴びてキラキラと輝いている。
遠巻きにこちらを見ながらヒソヒソと小声で囁いている貴族もいないわけではなかったが、景色が美しいおかげでさほど気にならない。
とはいえ、近づいてくるやつは別だ。
燕尾服のおじさまが、あくびを噛み殺している我に話しかけてくる。
「君が噂のリコッタ嬢か」
「どちら様なのです」
「失礼。私はロークランド伯爵オクスタイン・スタンリー。可愛い甥っ子が見染めたお嬢さんがどんな子か興味があって、話しかけてしまった」
立場的にはかぎりなく目上の相手。
なので立ちあがってご挨拶するべきなのだが、お腹いっぱいで眠くて億劫だったので軽く会釈するだけで済ませる。どこいった、礼儀作法。
しかしオクスタインは気を悪くした様子を見せず、温和な笑みを浮かべたまま握手を求めてくる。
仕方なく応じると、一瞬だけ違和感を覚えた。
向こうも「おや?」と感じたようだ。
「この感じ、さては人間じゃないな。魔族、いや――それ以上の」
「か、観葉植物なのです……!」
やべえ。バレた。あっさりと。
意表を突かれたリコッタ嬢は、まじまじと相手を見つめてしまう。
「ロークランド領。西の砂漠を越えた先にある、植民自治区でしたっけ」
「先住民族であるエルフやドヴォルクの反乱。北部平原から侵略にやってくるゴブリンやトロル。毎日が戦争のエキサイティングで賑やかなところだよ。興味があるならぜひ遊びにいらっしゃい」
「そんな領地で揉まれたおかげでとんでもねえ手練れになったわけですか。ジークが可愛く思えるレベルで」
「ハハハ。彼だってあと五十年もすれば、私のようになる」
「つーことはおっさんは今、七十かそこらなのです? まったくそんなふうには見えませんが」
「若作りの秘訣は【不老】の天賦だな。おかげであと二十年は現役でいられる」
うーむ、聞けば聞くほどやべえやつだ。
アダマン級が最上位だから我が家の筆頭騎士様が最強かと思いきや――ロークランド領の辺境伯なんて強キャラがぽっと現れるのだから、エルカザードもなかなか侮れない。
ともあれ平然と会話を続けていることからして、我の正体を察したからといってどうこうするつもりはなさそうだ。本当に『興味があった』だけ。
びっくりさせやがって。
おかげで一気に眠気が覚めたわ。
しかし話はそれで終わらなかった。
リコッタ嬢がぎこちない愛想笑いをオクスタインに向けているところに、マルローネが慌ただしく駆け寄ってくる。
騎士団の長とは思えない弱々しい足取りでテーブルに身を預けたあと、ぜえぜえと肩で息をしながらひとこと。
「大変です……っ! カシオ殿下が、行方不明です……っ!」




