8ー1 アカデミーからの推薦状
リコッタ嬢視点になります。
早いものでエルカザードに来てから一年が経った。
我、八歳児である。
ジークに誕生日を聞かれたことがあったものの、残念ながら大雑把な我は正確な日付を把握していなかった。
邪悪な儀式によって目覚めさせられ、生贄だった女の胎児と融合したタイミングをそう設定すべきではあるのだが……いかんせん洞窟の奥深くにいたので、エルカザードの暦で何月何日だったか、覚えてはいられなかったわけである。
この家に来た日でいいのでは?
と言ったらそのまま決まり、ふたりでケーキを食べた。
プレゼントにぬいぐるみも貰った。今でも枕元に鎮座している。
王都に来てそれなりの時間が経つと、色々なことに変化がある。
たとえばある日。
「君宛に手紙が届いている」
「ファンレター? それともラブレター?」
「推薦状。王都のアカデミーから」
はて。なんで急にまた。
首を傾げて見つめ返すと、筆頭騎士様は呆れ笑いを浮かべて続ける。
「歴代最年少の迷宮探索許可証取得記録保持者。アインゼル、スタンリー両殿下のお気に入り。極めつけは、迷宮百景の企画立案ならびにハナエ・スカーレットのプロデュース。君はこのエルカザードで今もっとも注目を浴びている八歳児だ」
「おお。それは……」
「君は現在騎士団の保護管轄下にあるが、俺とアリシア団長あたりの推薦状を併せて提出すれば、簡単なテストを受けるだけで入学できる。ちなみに寮もあるぞ。さすがにいつまでも俺が世話するわけにもいかないし、この機会に自分の将来について真面目に考えてみるのはどうだ」
いきなりの話に顔面蒼白である。
「冗談じゃないです! 我、まだ八歳児ですよ!?」
「君の才能からすると遅いくらいだな。最初は小学部からになるが、飛び級制度もあるからトントンと大学部まで進むこともできる。騎士団に入るとなると年齢制限はあるが、それまで国の援助を受けながら魔法でも他の学問でもお勉強していられる。まさに夢のような環境だよ」
「い・や・だ! 学校なんて行きたくない! 働きたくもない!」
「じゃあどうするつもりだ」
「このままジークに養われて、お家でだらだら過ごすのです」
「だめだ。サリナ君を見習え」
「ぐえええええっ! せめて……せめて寮だけは許して……。同い年くらいのガキと一日中同じ空間で暮らすなんて、想像するだけで吐きそう。たぶん何人かうっかりミンチにする」
ジークは露骨に引いたような顔をする。絵面が想像できたらしい。
「ヘイヘイあんた生意気ねえ上履きに画鋲入れちゃろ。お? なんだてめえぶっ殺してやるのです! バアン! 大量殺戮! ほら!」
「わかったわかった。意地悪を言ってすまなかった。俺としても、君のような無害で慎ましいお嬢さんを閉塞的で陰湿な乙女の園にぶちこむような、愚かな真似をするつもりはない」
「あ、やっぱりそういう感じなんですね。女子寮」
「知らん。俺だってイメージで語っているだけだからな。まあ……最初から無理筋だろうとは思っていたが、週の何日かはお嬢さんの皮を被って学校に通ってみるのも悪くないんじゃないか。ただでさえ君は世間ずれしているし、何度も言うがいつまでも俺が世話をするというのは」
「いやいやいや! ジークと暮らすぅ! 死ぬまで面倒見てぇ!」
すっごい暴れた。泣いた。
情に訴えるなら今しかなかった。
こんな面倒見がよくて金があってチョロい男はそう簡単に見つかるものではない。
たかだか一年で、理想的な環境を手放してなるものか。
結局、王都のアカデミーに入学するべく手続きをすることとなった。
ジークの家に居候している間は、週に何度かは制服を着て清楚で愛らしい小学部のお嬢さんをやれという交換条件である。
ついこの前サリナも中学部の編入試験に合格したので、ちゃちゃっと飛び級して同級生になってしまうのがいいかもしれない。
まったく……だから嫌だったのだ。目立つのは。
なまじ優秀すぎると、面倒なことばかり増えてしまう。




