7ー6 スカウトに行こう!
リコッタ視点になります。
翌日。リコッタ嬢はひさしぶりに外へ出かけた。
目的地は冒険者ギルドの本部でもカフェでも雑貨屋でもなく、ジークの姉が経営するブティックである。
アインゼルとカシオの両王子に見初められたことから、社交界の場に招待される可能性が高くなったため、パーティー用のドレスを用意しておこうというのが、ひとつ。
そして、かつては腕利きの冒険者であった彼女なら、顧客の中に将来有望な才能が眠っていないかと聞いてみるというのが、ふたつめの理由だ。
つまり、ルーンにサリナを紹介してもらったときと同じ手口である。
正当防衛だったとはいえ、アダマン級のおっさんをひとり潰してしまったことの埋め合わせくらいはやっておこう。
リコッタ嬢なりに、ギルドの将来を考えての行動である。
でなければ、わざわざブティックをたずねたりはしない。
なにせジークの姉カトレアは、最強の存在として生まれたゲスジゴクの魂をも震えさせる恐るべき存在なのだから。
「しばらくぶりね。リコッタちゃん」
「今日はドレスを頼みにきた――って、抱きつくのはやめいっ!」
「だってだってぇ、舐めちゃいたいくらい可愛いんだもん!」
「三十路すぎで『もん』とか言ってて恥ずかしくないのです?」
「年齢の話はするな」
「すまん」
ドスの効いた声で言われてつい謝ってしまった。
我が知るかぎり、もっとも手強そうな人間。
単純な強さというよりは貫禄?
逆らってはいけないと感じさせるオーラがあるのだ。
実際、かなり〝やる〟のだろう。
冒険者を引退して長いらしいのに、たいしたものである。
それはさておき。
カトレアが経営するブティックは基本的に貴族の淑女ないし一流の女冒険者しか相手にしていない高級店である。
生地とデザインを選んだあと、寸法を図ってお洋服を仕立てるオートクチュール。
ちなみに費用はジークが出してくれた。さすがは筆頭騎士。
「リコッタちゃんは浅葱色が似合うかしら。それとも白がいい?」
「ピンク。エヴァちゃんのステージ衣装みたいにしてほしい」
「なるほど、推し色の概念。ならお姫様っぽいフリルもいるか」
「親の仇ぐらいつけてくれ」
「踊るときに邪魔にならない程度にね」
ああ、社交界の場だとそういうこともあるのか。
しかし踊りとかわからんな。そもそも礼儀作法すら怪しい。
その辺は追々お勉強するとして。
ついでにもうひとつの目的を果たすとしよう。
シグムンドをしばき倒した件は省略しつつ、姉に事情を説明する。
「ひとり、面白い子がいるよ。変人だけど」
「元死刑囚で殺人鬼でポーション中毒の女をスカウトしたことがあるので、大丈夫なのです」
「さすがあ。あの弟が手を焼く女児だけはあるわ」
◇
そんなわけで冒険者勧誘、第二弾。
お相手の居場所はサリナのときと比べるとだいぶマシで、王都の西部にある職人街だ。
鍛冶屋、魔法道具屋、雑貨屋。あとは古文書やアンティークを扱う骨董店。
名前のとおり住んでいるのはほとんどが職人であり、今回のターゲットもその例に漏れない。
いや、芸術家と呼ぶべきか。
リコッタ嬢の目の前にあるのは、石壁造りの工房。
入り口にはカラフルな幾何学模様が描かれた看板が掲げられ、エルカザードの文字で『ハナエのアトリエ』と記されている。
中に入ると思いのほか天井が高く広々としていて、室内の中央にお洒落な感じの螺旋階段がある。
リコッタ嬢が視線を上に向けると、人の気配に気づいた家主が降りてくるところだった。
「おや、ずいぶんと可愛らしいお客さんですね」
「我はお客ではありません。お姉さんを勧誘に来たのです」
「ぼくをどこに連れていく気なんだい」
「迷宮」
アトリエの主は露骨に嫌そうな顔をする。
短く切り揃えた白銀の髪に青を基調とした乗馬服、その上から白いエプロンをつけている。
顔や身体のあちこちに絵の具が飛び散っていて、いかにも絵描きといった風体。
しかし職人というよりは、貴人めいた上品な雰囲気を漂わせている。
全体的に細く華奢で、動きやすさ重視のパンツルックのせいか少年のように見えなくもない。
長い手足は引き締まっており、武芸の心得がある者特有の直立した姿勢を保っている。
ジークが騎士になり、王都の剣闘大会に出場しなくなって以降。
毎年優勝しているのが、このハナエ・スカーレットなのである。
本日は2回更新です。




