7ー3 冒険者ギルドへ
ジーク視点になります。
「冒険者ギルドに出向ですか? なんでまた急に」
「向こうも人手が足りないってことくらい、あなたが一番よくわかっているでしょう。アダマン級」
アリシア団長に言われて、ジークは苦い顔をする。
エルカザードの探索事業は【第二局面】に移行した。
枯渇しかけていた迷宮資源が再配置され、王都の経済や魔法技術の発展が盛り返す一方、冒険者の死亡率はじわじわと上昇している。
迷宮の変動によって未知の魔物と遭遇するケースも増えているのだから、当然だ。
「王都の治安も昔より安定してきているからね。怪我で休んでいたサワダ君も復帰したし、日々の雑務はいったん彼らに任せて、ギルドの内情を見てきてほしいのよ。共同で探索しているだけじゃわからないことだって多いでしょう? 彼らは重要なパートナーなんだし」
「わかりました。気は重いですけど」
「熱烈なスカウトを蹴って騎士団に入ったのだものね。あなたがそうした理由は心得ているし、だから『あのときなにがあったのか』については引き続き調べておくから」
「よろしくお願いします」
「私だって知りたいもの。当時その場にいなかった騎士として」
ジークは深々と頭をさげる。
三大王家。ハングーレ宮殿。リコッタ嬢を利用しているようで気は進まないが、王子たちが彼女に興味を示したのは、エルカザードの上流階級に近づくまたとないチャンスだ。
両親はなにを見て、なぜ〝殺されなければ〟ならなかったのか。
それを知るために――俺は騎士になったのだから。
◇
ともあれ今は、目の前にある仕事だ。
さっそく冒険者ギルド本部に足を運ぶと、幹部の男にこう告げられた。
「新人の育成、スカウト。復帰を望む元冒険者の中途採用。それから休業している連中のところに行って、もう一度頑張ってみませんかと説得しにいく。今はとにかく人手が足りないから、君のような成功者が旗印になって、ギルド全体を盛りあげてほしいのさ」
「つまり立て直せってことですか? 部外者の俺が」
「それとも迷宮を駆けまわって、死ぬ寸前の冒険者を救助する仕事のほうがいいかい。俺たちとしてはそっちのほうが嬉しいのだが、黒騎士団の団長様から却下されている。君の天賦は消耗が激しいから、むやみに使うと寿命が縮まるそうだな」
「今の時点で長生きできないことは確定済みですからね」
もっとも寿命を迎える前に、魔物にやられるか迷宮で遭難するかして命を落とす可能性のほうが高いのが冒険者だ。
騎士であっても、その辺の事情は大差ない。
提案されたのはどちらも貧乏くじ、
であれば、命を削るリスクがないほうがいいに決まっている。
ギルドの立て直しか。
新人の育成で真っ先に浮かんだのは、我が家のお嬢さん。
それからサリナ。
名簿を渡されたので確認してみると、中堅以上の冒険者が半数以上、赤線が引かれている。
ギルドの土台を支えるベテランが死ぬか辞めるかしているとなると、新人の教育もままならない。
結果としてむやみに突っこんで命を落とす未熟者が増え、死亡率がさらに上がるわけだ。
ミスリル級もかなり層が薄くなっている。
とくに新鋭のルーン・ククルカンが、相棒のフィガロとともに王都を離れているのが痛い。
修行のためにオアシスに帰郷したとあるから、いずれは戻ってくるだろう。
だとしても二ヶ月以上、下手すれば数年は戦力に穴が空く。
残るはアダマン級。
自慢じゃないが、この領域に達する冒険者は数十年にひとり。
ジークはもっとも若輩なので、残るメンバーは『歴史に残るレベル』の凄腕だ。
「シグムンドの旦那が休業中? アダマン級といっても高齢ですし、怪我でもしましたか」
「いや、心の病」
「冗談ですよね? あの、崖から突き落としてもピンピンしてそうなおっさんが?」
「無理をしていたんじゃないか。お前みたいな若くて才能があるやつの前じゃ、誰だってそうなる」
信じられなかった。
死んだとか、衰えを感じて潔く引退したとかなら、まだわかる。
俺は、あんたの背中を追いかけて。
一度は冒険者に憧れて、今があるっていうのに。
心の病だって?
「納得できねえなら行ってこい。相当しょぼくれてたし、それがトドメにならなきゃいいけどな」




