7ー2 リコッタちゃんのモテ期
マルローネ視点→リコッタ視点になります。
ところが、話はそこで終わらない。
同時刻。またしてもハングーレ宮殿、その三階の一室にて。
黄騎士団団長マルローネは、ひとりの少年を相手に教鞭を取っていた。
カシオ・スタンリー。王位継承権第七位。
九歳になったばかりのあどけない顔だちではあるものの、将来はきっと美青年になると思わせる、金髪と琥珀色の瞳を持った王子だ。
スタンリー家もまた三大王家の一角。
マルローネは彼の母親と、従姉妹の関係にある。
その縁もあって、時々こうして魔法の手ほどきをしているのであった。
「カシオ様。聞いていますか?」
「ああ、ごめん。君だって忙しい中で、無理を言って教えを乞うているのに」
「さきほどから物憂げにため息ばかりついて……お悩みごとがあるならおっしゃってください」
「僕がたびたび、王宮を抜けだしていることは知っているね」
マルローネはうなずく。
カシオ様は『神童』と呼ぶべき御方だ。それだけに周囲の期待も大きく、まだ九歳だというのに、一日のほとんどを勉強に費やしている。
だからたまには、息抜きだって必要だろう。
密かに護衛がつけられているようだし、心配すべきことはなにもない。
「普通の子と混じって遊んでいると、自分じゃないような気になってさ。ついつい言葉遣いが荒くなってしまうんだよ。オレ強いんだぜとか、まあそんな感じ」
やっば。なにそれ。超可愛くない?
と思ったが言わなかった。
口元が緩みそうになるのを歯を食いしばって耐える。
「ある日教会に行ったら、すっごい綺麗な子がいて。でもなんていうのかな、一緒に遊ぼうとか面と向かって誘うのが急に恥ずかしくなって。でも話しかけたくはあって。そうしていたら自分でもおかしいなって思うんだけど、ひどい悪口を言っちゃったわけ」
「あらま。ちなみになんと?」
「角がキモいって」
……角? 獣人の子なのかしらん。
カシオ様も三大王家の血筋だからなあ。
悪いところが出ちゃったかあ。
とはいえ、アインゼルのクソみたいに歪まなければいいだけだ。話を聞いるかぎりでは今のところ、微笑ましい初恋の雰囲気ではあるし。
「ひとまず、謝っておくべきかと」
「許してもらえるかなあ。花束とか用意したほうがいい?」
「私なら喜びますけど、カシオ様と同じくらいの年頃のお嬢さんだと、どうでしょうかねえ」
◇
「カシオ殿下から謝罪の手紙と花束!? どこで会ったんだ君は!」
「角のこと馬鹿にしてごめんって……ほう、あんときのクソガキか」
まあ許さんけどな。
次に会ったら顔面に一発お見舞いしてやろう。
しかしまあ、本当は綺麗だと思ったんだけど素直になれなくてとかなんとか書いてあるし、子どもの言ったことをネチネチ気にしていた我のほうも大人げなかったかもしれない。
つうか、もしかしなくてもモテ期じゃない? これって。
来たか。
ようやく、リコッタちゃんの時代が。




