6ー12 剣聖(2)
前半リコッタ、後半フィガロ視点になります。
ざっくりやられた。
縦に一撃。
さきほどと同じ位置に赤い線が刻まれ、胸もとに十字が描かれる。
見ればルーンの右足は、巨大なひと振りの太刀に変化していた。
なるほど、これがふたつめの天賦か。
肉体の一部を〝刃〟とする能力――怪しげに光る刀身を警戒し、それ以外を武器として認識しなかったのは、戦闘勘が鈍っている証拠である。
紋章が浮かびあがり、死を覚悟する。
しかし後悔はなかった。
二回当てれば殺せる強力無比な天賦を軸にして、戦闘スタイルがよく練られている。彼女は生まれ持った才能に慢心することなく試行錯誤し、血の滲むような努力を重ね、若くしてこの境地に達したのだ。
相手が魔族や神々であったなら、我とてこうもあっさり不覚を取らなかったはずだ。長きにわたり最強であったがゆえに敵を侮り、舐めてかかったがゆえの敗北。
ふはは。弱くなったなあ、我。
いや、ここは敵を賞賛するべきか。
実に天晴であった、ルーン・ククルカン。
だが――。
「なんで……死なないの! 筆頭騎士っ!」
「おかしいですね。もしかすると【無効化】しちゃったのかも」
「ど、どうやって……。魂に直接ダメージを与えたはずなのに!」
「そういう原理なのですか。だとしたら、生まれつきの体質?」
ルーンはあきらかに狼狽していた。
無理もない。
我としてもいささか気まずいところではある。
彼女の【二撃必殺】はつまり、魔族が使ってくるような即死系の効果に近いらしい。
ソウルクラッシュ。あるいはソウルドレイン。
アークデーモンなら上位個体が稀に、魔公爵なら攻撃手段のひとつとして。魔王ともなれば通常攻撃に付随する追加効果でしかない程度の、ごく平凡な呪詛にすぎない。
自信満々で「二回当たったら死ぬ」と言われたから素直に信じてしまったものの、そもそも我は魔族を滅ぼすために作りだされた存在だ。連中が使ってくるような攻撃には、だいたい耐性を備えている。
しかもルーンは特化型スタイルゆえに、決め技がまったく通じない相手に対しての対抗手段を、まったく持ちあわせていないようだった。
さて、どうしたものか。
清々しいほど敗北しているにもかかわらず、生まれもった体質だけでひっくり返してしまうのはバツが悪い。
ひとつの道をとことん極めているやつをぼこぼこにするのが気持ちいいのは、あくまで実力のみで凌駕してこそである。
これだとなんだか、自分だけ別のルールで遊んでいる感じになる。
反則して勝ったところで面白くない。むしろ、疎外感が増してしまう。
やれやれ。最強なんてうんざりだ。
「公平性を期すために、我も手の内を明かすのです。ひとつ、身体強化しなくてもこの威力」
「ぐあっ! 防御、したのに――」
「ふたつ、羽を生やして飛べます。尻尾も生やせます。ルーンちゃんみたいに身体を刃にはできませんけど、爪を生やせばなんでも簡単に寸断することができちゃいます」
「ひ、ひえっ」
「あとご存知のとおり、火を吹けます。でもそれやると殺しちゃうので」
倒れこんでいるところに一発。
ジークの姿で女の子のお腹を蹴り飛ばすの、絵面的にかなりやばいな。
でも容赦はしない。
彼女にもっと努力してほしいからだ。
「大変よくできました。花丸をあげるのです」
「ふざけんなっ……! 殺せ、アタシを……」
「もったいないからしません。今度こそ我を、殺してくださいね」
頭をつかむと、ぼろぼろに涙をこぼしながらも、睨みつけてくる。
見上げた根性。ますます気に入った。
眉間にデコピンをお見舞いすると、ルーン・ククルカンは白目を剥いて失神した。
◇
すべてが終わったあと。フィガロが路地に現れる。
気配を感じたのか、ボロ屑のように横たわっていたルーンが目を開く。
「負けたな。完膚なきまでに」
「嬉しそうね。クソ生意気なお嬢様が心をへし折られてご満足?」
「減らず口を叩けるほど元気なら、お前は大丈夫だ」
「どうしたらいいの。どうしたら――あいつに勝てるの」
「オレだったらそもそも再戦しようとは考えないな。離れたところで見ていたが、あの男はまだまだ本気じゃなかった。アダマン級、想像していた以上の実力だ」
「ジークフリード・ジフレッド……! 許さない! あいつは、剣士の誇りを汚した……」
フィガロは笑う。
彼女に足りなかったもの。それは敗北だ。
屈辱的で、絶望的で、圧倒的であればあるほどいい。
感謝するぞ、筆頭騎士。お前は今日ここで、ルーン・ククルカンを殺さなかったことを後悔するだろう。
計画は順調だ。
まずは、王都を奪還するために必要な手札を揃える。
すなわち――ゲスジゴクを。
古の邪竜の名を冠するに相応しい『化け物』を、作りだすことだ。




