1ー4 騎士団最弱の男
別キャラ視点の話になります。
タクヤ・サワダは、黒騎士団最弱の男である。
生まれは遠い海の向こう、東のちっぽけな島国。優秀な人材を探して世界各地を飛びまわっている騎士団のスカウトに声をかけられ、はるばるエルカザードまでやってきた。
寒さの険しい山村で農夫の長男として糊口を凌いでたころを思えば、騎士としての生活は天国のようなものだ。
しかし先輩や同僚からあからさまにお荷物として扱われている現状は心がつらい。
唯一期待をかけてくれているジーク殿にも申し訳ないと思っている。
今日だって外でみんなが訓練している中、お前は武具の手入れをしてこいだ。
こんなふうにハブられて団の統率を乱すくらいなら、いっそ郷里に帰ってしまおうか。
しかし家族は今や自分の仕送りをあてにしている。
弟や妹たちに、もっと楽な暮らしをさせてやりたい。
泣くな、タクヤ。お前はもう二十じゃないか。
自分とたいして歳が変わらないジーク殿は筆頭騎士としてアリシア団長とともに騎士団を率いているのに、仲間外れにされたくらいでめそめそしていたらそれこそ負け犬だ。
はあ……と肩を落としながら、武具が保管されている備品庫に向かう。
すると、薄い紫髪の幼女が壁にかかった剣を取ろうとしているところだった。
「い、いけやせん! 剣なんて持ったら危ないっすよ!」
「知ったこっちゃありませんわ。我を誰だと思っているのです」
きっぱりと返されて戸惑う。
咎められているのに、信じられないくらい偉そうな態度。
それにとんでもない美少女だ。
獣人の血を引いているのだろうか、頭の両側に二本の角が伸びている。
そういえば、闇オークションで売られていた子どもを保護したと聞いた覚えがある。
「自らの幸運に感謝なさい。ぼさっとした髪の見るからに気が弱そうな若者よ。妾はこの剣に宿った精霊。名前はええと――」
「リコッタ・パンケーキ嬢っすよね?」
「ふっ。バレてしまっては仕方ありません。そのお命、頂戴いたします」
「な、なんで!?」
紫髪の少女はちらっと壁のほうを見た。
窓枠がごっそり外されて、人ひとりぶんくらい通れそうな穴が空いている。
鍵がかかっていたのにどうやって侵入したのかと思ったら……。
騎士団の建物も老朽化しているし、子どもの力でも崩せるくらい壁が脆くなっていたのか。
「ジークにバレたらものすごく叱られそうな気がするのです。だから今ここであなたをぶちのめして、我の罪をすべて背負っていただきます。よろしいですか?」
「い、嫌っす! おらだって立場厳しいんす! みんなのお荷物で――」
「あなたが? であればエルカザードの騎士団は優秀なのでしょうね」
タクヤはため息を吐いた。
優秀も優秀。だからみんなにまったく歯が立たなくて、自分は最弱の身分に甘んじている。
訓練をハブられたことを思いだしてしょげていると、リコッタ嬢が言った。
「なにかお悩みのようですわね、若者。胸襟を開いてくだされば、力になれることがあるかもしれません。――妾は剣の精霊、迷える騎士を導くことこそが定め」
「その設定、まだ続けるんすね……」
◇
「若い連中を集めてふたり一組のチームを作って、トーナメント形式の実戦訓練をやってるんすよ。でもおら毎回仲間の足を引っ張っちまうから、今日は誰も組んでくれなくって。強い騎士に憧れてはるばるエルカザードまで来たってのに、なにやってるんだろうって」
「それで、むしゃくしゃして壁を殴ったと」
「しれっと罪をなすりつけないでほしいっす……」
タクヤの話を少女はふむふむと相槌を打ちながら聞いていた。
リコッタ嬢は見かけよりずっと大人びていて、まだ七歳(自称)なのに王族のような気品と貫禄が感じられた。だからかつい、相手が子どもだというのも忘れて相談してしまったのだ。
頭に生えた角や、喋るときに口元から覗く牙の影響もあるだろう。
砂漠に住む獣人たちは野生的だが、彼女は神秘的とか幻想的という言葉がよく似合う。
剣の精霊か。
本当にいたら案外こんな感じなのかもしれない。
ぼんやり眺めていると、顔をあげた少女と目があった。
血のように赤く、瞳孔は肉食動物のように縦に細長い。
吸いこまれそうな美しさに、ぎょっと身がすくむ。
このまなざしを向けられて「死んでください」と言われたら、喜んでそうしてしまいそうだ。
どんなお願いでも逆らうことは許されない。
そういう怖さがあった。
「では、皆さんのところに参りましょうか。今からでも訓練に参加するのです」
「でも……どうやって? おらと組んでくれる人、誰もいないのに」
リコッタ嬢はクスクスと笑った。
とんでもなく綺麗なのに、ものすごく邪悪そうに見える。
「目の前にいるでしょう? フルーツとスイーツをたらふく食べたあとですから、いっぱい動いてカロリーを消化しなくては」
次からストックが切れるまで毎日更新(夕方17時〜18時頃)になります。
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