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5ー8 呪物

ルーン視点になります。

 同時刻。

 すこし離れた高台から、ふたりの狩りを眺めている影があった。

 剣聖ルーン。剛腕のフィガロ。

 ともに、王都を代表するミスリル級の冒険者である。


「今の見た? すごくない?」

「等級Aの魔物を瞬殺か。昔のお前を彷彿とさせるな」

「サリナはまだまだだけど、角の子のほうは本当にそんな感じかも。さすが筆頭騎士様に見初められただけはある。やっぱり直々に稽古をつけてもらっているのかなあ」

「しかしルーンよ。今回の件をお父上にどう報告する」


 フィガロの問いに、ルーンはしばし考えこむ。ありのままに伝えるほかないのだが、それで納得してもらえるかどうか。


 父ロン・ククルカンから頼まれたのは、砂漠の民の宝殿から持ちだされた『ゲスジゴクの卵』と呼ばれる生物兵器の回収だ。

 オアシスを統べる部族のほとんどは、今はまだエルカザードと争うべきではないという意見で一致していた。

 ゆえに今回のテロ計画は、ごく少数の過激派による暴走なのだった。


 しかしルーンたちが手を打つまでもなく、行商人のキャラバンを装った一派は何者かによって全滅させられていた。

 現場に残されていた痕跡から推測するかぎり、犯人は王都の騎士団でもなければ雇われた冒険者でもない。

 まるで、魔物の襲撃にでもあったかのような有様であった。


 結果として、ゲスジゴクの卵は回収できなかった。

 それらしき亡骸は確認できた。

 襲撃を退けるために使用されたわけだ。しかし邪竜の名が示すように兵器の力は絶大で、周辺に生息する魔物では太刀打ちできるはずがない。


 不可解な点はほかにもある。

 証拠隠滅を図ったような形跡が残されているのだ。現場周辺の地形を操って亡骸を埋めるような小細工を、魔物がするとは思えない。


「前になんか、似たような事件がなかったっけ」

「違法ポーションの製造拠点が、潰されたときとよく似ている」 

「同一犯?」

「どうだろう。いずれにせよ、目的がわからない」


 困ったことになった。

 犯人は誰であれ、ゲスジゴクの卵を失った事実が痛い。

 宝殿にはあと三個ほどあるらしいが、来たるべき王都奪還のためにはできるかぎり数を揃えておきたいところなのだ。


「いっそ迷宮を潜ってみるってのもありかしら」

「変動によって未知の階層が増えたから、探せばまだ見つかるかもしれないってか。それにもしかしたら〝本物〟が手に入る可能性だってある」

「そういう風に言うってことは、フィガロも信じていなかったわけね」

「当たり前だ。あれが本当にゲスジゴクの卵なら、数を揃えるまでもなく王都を滅ぼせる」


 今回の件はルーンたちにまったく落ち度はない。

 だとしても父は損失を埋めるべく新たな命令を出してくるだろう。

 その内容は間違いなく『失った兵器の代わりになる物を探せ』だ。

 冒険者として活動しながら王家の内情を探るのだって、楽な任務ではないというのに。


「嫌になっちゃう。優秀すぎると、無茶振りばかりされるんだもん」

「同感だ。おかげでオレも、生意気なお嬢様の子守をさせられている」

「それって誰のこと?」


 ◇


 迷宮の変動によって、王都の市場はかつてないほど盛りあがっていた。

 今では【第二局面フェーズツー】と呼ばれるその現象は、深層内部に設置されたオブジェクトによって引き起こされたものである。

 現在のところ黄騎士団の人員が配置され厳重に管理されているが、装置のシャフトを起動させれば、再び新たな変動を発生させることも可能だろうという報告がなされていた。

 

 しかし祭りのような熱狂が常態化すると、様々な問題が浮上してきた。

 冒険者や騎士団の人員がこぞって迷宮探索に駆りだされた結果、王都周辺に出没する魔物の駆除が追いつかなくなったこともひとつ。

 しかしもっと厄介なのは、連日のごとく未知の素材や遺物が発見されるようになった影響で、発掘品の管理がままならなくなってきたことだ。

 

 ギルドの登録や審査をすり抜けた資源の多くが、闇市場に流れている。

 素材はともかく、無許可の遺物が蔓延するのはかなりマズかった。専門施設の調査なくして使用すると、どんな効果が引き起こされるかまったく予想がつかないからである。


 有名なのは『呪物』と呼ばれる代物だ。

 大抵の場合、強大な効果を生むかわりに代償を要求される。


 使用者がなにを対価として支払っているのか見えづらい物も多く、とくに寿命を捧げるタイプは厄介だ。知らず知らずのうちに乱用したあげく、ある日突然に血を吐いて死ぬのである。


 もっとタチが悪いと、対価を支払う対象が使用者のみにとどまらない。

 エルカザードの建国期において、敵対獣人族の軍勢を追い払うべく当時の国王が呪物を使用したことにより、始祖の血統が途絶えた話はあまりにも有名だ。


 使用者の精神に作用するタイプもある。

 それらは魔剣、妖刀、禁呪古文書とも呼ばれている。


 呪物それ自体に『意思』があり、所有者に力の行使を誘発させると同時に依存性を持たせる。たとえば魔剣は心が弱った人間に取り憑き、血に飢えた殺人鬼に変えてしまうのだ。


 その特徴から魔物の一種ではないかと言われており、魔剣の所有者に対してギルドから討伐依頼が出されることもある。

 呪物に支配された者は、もはや人間とみなされないわけだ。


 想像してみてほしい。

 闇市場に流れた遺物の中に、無差別な対象に代償を支払わせる呪物や、所有者を殺人鬼に変えてしまう魔剣が混ざっていたとしたら。


 王都の中に、凶暴な魔物が潜んでいるのと大差ない状況だ。

 いや、それよりずっと危険かもしれない。

 専門家でもなければ、ただの道具と見分けがつかないのだから。

これにて第五話完結です。

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