6ー4 ミノタウロスの迷宮その1
「この迷宮に来た目的をそろそろ教えてくれないかな。今は僕たちしかいないし、秘密にしておく理由もないだろう。【第二局面】の馬鹿騒ぎで研究所だって忙しいのに、そこのトップが仕事を放りだして君のお誘いを受けてあげたんだから、相応の成果が得られなくちゃ帰れないよ」
砂漠の地下深く。
ノア・コーエンが恩着せがましく訴えてくる。
いわくここは王都から距離があるうえに、研究所の人間しか知らない隠された階層があるという。
変動が発生してたった半年しか経っていないにもかかわらず、そういう穴場を押さえているのはさすがといえよう。
彼を連れてきた理由はもうひとつある。
探索許可証を手に入れようと躍起になっていたころは気づかなかったが、七歳児が一丁前に迷宮を攻略しようとすればとんでもなく目立つ。
なので単独で出向くのは控え、腕利きの冒険者を同伴し、なるべく低難易度の迷宮を探索するようにしているのだ。
おかげで門衛のところで許可証を提示する際も、名目上は『新米冒険者の実戦訓練および現地調査』でいけた。
これなら我が目立つことはなく、成果は研究所名義で持ち帰ればいい。
「人類の進化を促進したくはないですか。ノア・コーエン」
「いきなり不穏すぎる」
「弱っちすぎるのですよ。迷宮で拾った過去の技術を解析して楽しているくせに、いまだに魔物ごときの脅威に怯えている。エルカザードの冒険者はとくにひどいですね。根性がない」
「僕たちの文明が神話時代と比べて〝ちぐはぐ〟であることは自覚しているよ。魔法技術は発達しているのに、それ以外の分野は原始的。遺物の解析にせよ、原理を理解せずに模倣していることも多い。だからこそポーション中毒みたいな事例が発生するわけだけど」
「我は楽したいのです。お前たちに働かせて、毎日ぬくぬく暮らしたい」
「ジークにいつも文句を言っているけど、君だって過保護だよね」
リコッタ嬢は鼻で笑う。
ノアにはあえて教えないが、人間どもを強くしなければならない理由はまだある。
ゲスジゴクだったころの自分を、忘却の彼方に追いやることだ。
人間をかぎりなく強くすれば、魔物は恐ろしい存在ではなくなる。
それに神話時代に匹敵するレベルまで技術を発展させれば、旧文明を滅ぼした存在を凌駕する兵器すら生みだせるかもしれない。
自らの力で討伐できるなら、邪悪な竜とてただの『獲物』に成り下がるはずだ。
併せて、ゲスジゴクと名づけられた存在を見つけ次第駆逐していく。
我にあやかったり騙ったりするような馬鹿がいるせいで、やったこともねえ罪状が壁画や古文書に記載されてしまうのだ。
ただでさえ前科が多いのに、これ以上増やされてたまるものか。
秘密裏に処理するか。
いっそ表立って、けちょんけちょんにしてもいい。
七歳児にすら負ける雑魚。
なんだたいしたことねえじゃんと、思わせれば勝ちである。
要するに、ゲスジゴクなる概念をかぎりなく矮小化させるのだ。
破壊や災厄の代名詞ではなく、その辺にいる害獣程度まで。
「迷宮に来たってことは、素材や遺物が目当てなんだよね?」
「うむ。我の中にある知識とノアの技術があれば、狙いどおりの効果を引きだす魔道具やポーションを生みだすことだって不可能ではないはず」
「分析ではなく改造、あるいは合成」
「現地文明にダメ出しをしたからには、お手本を見せてやらねば」
「さすがは古代種族の生き残り」
「はっはっは! あれ……もしかして今、ネタバレしちゃいました?」
ノア・コーエンは無言で両手を広げる。我の正体までは察していないようだが、だいたいどういう存在なのかは知られてしまったようだ。
まあいい。この男は共犯者だ。今日の探索にジークでもサリナでもなく彼を選んだのは、我が知る中でもっとも話が通じそうだからである。
すなわち、目的のためなら手段を選ばないクズ。
面倒な感じになったら、始末すればいい。




