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6ー3 世界で一番の美少女を目指そう

リコッタ視点になります。

 リコッタ嬢の朝は遅い。


 ジークが【第二局面】以降ずっと忙しく、日が明ける前に出勤するからだ。

 おかげで思う存分惰眠を貪ったあと、砂漠の太陽が真上に昇った頃になってようやく起きあがる。

 そして彼が夜中のうちに用意しておいてくれた朝食を取って、ふうと紅茶を飲むのだった。


 しかし名前のとおり超絶ブラック職場だな。黒騎士団。

 大人になっても絶対、その道には進みたくない。

 そもそも働きたくない。


 迷宮探索に駆りだされるせいで、通常業務すら手が回らない。

 そんな中で若手の有望株であるタクヤが負傷したため、さらに人手が足りなくなるという負の連鎖が発生しているらしい。

 しかも探索中でも任務中でもなく、十一連勤明けの休日に通り魔に襲われたのだとか。相変わらず不遇な男である。


 犯人はまだ捕まっていない。

 若い女で、ナイフ使いだったという。

 以前のタクヤならともかく、リコッタ嬢のおかげで覚醒した以後のスーパータクヤが不覚を取るレベルとなると、さすがに騎士団としても野放しにしておくわけにはいかない。


 それでまた仕事が増える。

 最近のジークは比喩ではなく顔が死んでいる。


 いっちょまたお掃除してやろうか。タクヤだから怪我で済んだものの、サリナあたりが襲われるとけっこう危ないし。


 しかし通り魔が出没するのが夕方以降、王都の中というのが問題だ。

 仕事帰りのジークと鉢合わせするかもしれない。そうでなくとも、七歳児が夜の町をうろついていたらパトロール中の騎士団に補導される。

 我はお持ち帰りしたくなるくらい可愛いので、通り魔ではなく変態さんを引っかけてしまう可能性だってある。


 むむむ。ガキんちょというのは、思いのほか不自由だ。

 これが大人だったら平気で町中をぶらつき、通り魔をしばくついでに酒を飲みギャンブルに手を出し、地下の非合法闘技場に出場したりして、夜のお遊びを満喫できるというのに。


 どうしたものかと頭を悩ませていたら、外から歌声が聞こえてくる。

 エヴァちゃんも朝食――ではない。自宅でランチ休憩中なのだろう。

 次の公演も近いというのに、けっこう余裕があるっぽい雰囲気だ。


 庭に出て手を振ると、わざわざ玄関に降りてきてくれた。

 相談に乗ってもらって以降、お隣さんとの関係は良好だ。ことあるごとにファンサしてくれるし、サインだって貰えた。

 おかげでますます好きになる。エヴァちゃん! こっち見て!


「調子はどう? 吹っ切れた?」

「全然なのです。やっぱりこの角は自分でもキモいと思うし、今でも思いだしたときは枕に顔突っこんで叫んだりしているのです」

「さすがにすぐは難しいかあ」


 エヴァちゃんは困ったように笑う。

 頭にでっけえ角は生えていないし、我みたいにただ可愛いだけじゃなくて気品と美しさを兼ね備えているし、スタイルだっていい。

 少女のあどけなさを残したまま、成熟した色気を醸しだすお姫様。


 男子なら誰でもメロメロになるやつ。

 我がジークだったら絶対に放っておかないのに、まったくあの鈍感野郎は。ため息を吐きながら、思ったことをそのまま口にする。


「最近は早く大人になりたいと思うのです。不自由なので」

「子どものほうが自由じゃない? 働かなくていいし」

「働かない大人になりたいのです」

「先行きが不安になる発言……」


 しかしそのあと、エヴァちゃんはこう続けた。


「でもわかる。わたしもちっちゃいころはそうだったもん」

「大人になったら、エヴァちゃんみたいになりたいのです」

「この前のアドバイス、忘れてない?」

「じゃあ我の可愛さにエヴァちゃんの魅力を合体させて、世界で一番の美少女になる」

「あはは。それは確かに無敵かもね」

「ジークに話したら、よく食べてよく遊んでよく寝ろと言われました」

「お父さんだ」


 冗談めかしたコメント。でもすっげえ嬉しそう。

 筆頭騎士様が醸しだす父性がたまらん的な?

 父親なる概念に馴染みがないのでよくわからんな。

 我、クソ女神の股からにょきにょき生えてきた化け物なので。


「世界で一番の美少女を目指すなら、好き嫌いはなしね。ピーマンとかミルクとかデュープワームの燻製とか、なんでも食べなくちゃ」

「うげげげ」


 そういえばうちの庭に生えていた雑草を、エヴァちゃんが煎じて飲んでいるところを見たことがあるな。

 あれはなんらかの美容健康法なのだろうか。我もあとで試してみよう。


 ◇


 夜。

 ジークがよろよろと帰ってきたところで、リコッタ嬢は言った。


「迷宮に行ってくるので許可をください。ちなみに保護者の引率あり」

「保護者?」

「ノア・コーエン。研究所のお手伝いなのです」

「それなら……構わないが。ろくでもないこと、考えていないよな?」 

「しくしく。ジークが信用してくれないのです」

「目が半笑いだぞ」


 ともあれ、お出かけの許可はもらえた。仕事で疲れ果てているのか、ジークは眠そうな顔のまま、最後にこう付けくわえた。


「王都の外は危ない。くれぐれも気をつけるように」


 ふはは。誰にものを言っていやがる。

 お前よりずっとずっと、長く生きていて。

 お前よりずっとずっと、強いのだぞ。


 しかし悪くない気分だ。

 弱者として扱われて、心配されるのは。

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