表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

1ー2 我は竜ではなくにゃんこ

前半、ジーク視点の話になります

「ぎゃああ! 儂が落札したお宝がああ!」

「ていうかアレ、偽物じゃない? あんな簡単に壊れるなんて」

「おい、どうなっているんだ! 主催者を呼べ!」


 会場は騒乱の渦に包まれていた。

 客たちにとっては少女が檻から出たことより、三億の盾が壊された事実のほうが重要らしい。

 ジークも唖然としていたが、そこで別働隊から連絡が入った。


『出入り口の封鎖、完了。突入のタイミングは任せる』

「今すぐ頼む」


 はっと我に返り、仮面に仕込んだ魔力式の通信機に返事をする。

 オークションの運営スタッフは騒ぎ続ける客の対応、そして舞台袖に逃げこんた少女を追いかけるのに手一杯。先ほどはつい出しゃばってしまったが、結果として計画を実行しやすいタイミングを作りだしたことになる。


 人身売買組織の一斉摘発。

 中でもこの会場に潜んでいる黒幕の逮捕は、最重要任務だ。


 といってもジークは裏方担当。

 突入の合図を出した時点で、役目はほぼ終わったと言っていい。 

 オークションの運営を担っているのは裏社会のごろつきどもだ。

 恥をかかせた相手に容赦するとは思えないし、ひとまず少女の救出に向かうべきか。


 舞台袖の奥。

 案の定、進行役の男と用心棒たちが躍起になって探している。

 背後から近づき、隙を狙う。

 ところが不意打ちを仕掛けるよりも先に、男たちはバタバタと倒れだした。


 いったいなにが起こったのか。

 得体の知れない寒気を覚え、暗がりを見つめる。


「なんだ……?」

 

 巨大な、途方もなく巨大な、化け物の影。


 しかし再び目を凝らすと、影はあとかたもなく消えていた。

 代わりに小さな少女が、ちょこんと座りこんでいる。


「助けに来てくれたのですね。とてもとても、怖かったのです」

「お、おう」


 今のはなんだったんだ? 気のせいか?

 戸惑いながらも、抱えあげる。

 すると少女はにっこりと笑いながら、耳元でこう囁いた。


「どうです? 我、五億にしては軽いでしょう」


 ◇


「住んでいた場所はわかるか」

「洞窟ん中と砂漠を行ったり来たり」

「ご家族は」

「生まれたときに死んだ。その前は我が殺した」

「その前? 殺……なんだって?」

「あー今のなし。うえーん、怖かったのですー」

「やめましょうよジークさん。保護したばかりなのに質問攻めなんて」


 横で見ていた部下に止められてしまったので、いったん打ち切りにする。

 今いる場所はジークが所属する黒騎士団の本部。

 あのあと別働隊によって黒幕は捕えられ、極秘任務は無事に成功することとなった。

 会場にいた客たちもまとめて檻にぶちこめたし、ジークとしても溜飲が下がるばかりである。


 できれば家に帰って祝杯をあげたいところだが、会場で少女を保護した手前そうもいかなかった。困ったことにべったりと懐いて離れようとしないし、可憐な容姿の裏から見え隠れする『得体の知れなさ』が気になってしまい、ジークとしても素性を探らずにはいられなかった。

 

 お腹すいた甘いもん食べたいとわめくので部下たちに買い出しに行かせ、いったんご機嫌を取ったところであらためて問いかける。

 今度は刺激しないように優しく、順序立てて。


「俺はジークフリード・ジフレッド。ご覧のとおり騎士をやっている。君は?」

「リコッタ・パンケーキ」

「それは今食べているスイーツの名前だな」

「ご自由にお呼びください。我を落札したのはあなたなのですから」

「五億で……か。しかし実際のところ、この国で人身売買は禁止されている。君の素性がわかるまではいったん施設のほうで預かってもらい、親元に返せるのであればそうするのがあの場で君を保護した我々の役目となる。だから」

「むずかしい話をべらべらと。そんな早口で言われて理解できると思うのです?」

「す、すまん」


 横で見ていた部下のひとりがぷっと笑う。ガキの相手には慣れてねえんだって。

 頭をかいていると上司から呼びだしを食らったのでいったん席を外す。

 次から次へと、なんなんだよいったい。 


「ジーク君。会場で壊された盾のことだけど、本物だったみたいよ」

「冗談ですよね? アリシア団長」

「だったらどんなによかったことか……。おかげで遺物研究所の連中がカンカン」

「いや、問題はそこではなく」

「わかっているってば。つまりあの子は等級SSの盾を素手で砕いたことになる」


 ありえるか? そんな話が。

 自分以上に、アリシア団長のほうがそう感じているに違いない。

 しかし会場には大勢の目撃者がいたし、聴取でも裏が取れていくだろう。


「盾の件は今後、最重要機密として扱います。同様の理由で保護した少女を要監視対象とし、施設ではなく騎士団の管轄下におきます。そんなわけだからしばらくお世話をお願い」

「拒否権は」

「ありませーん。今度お酒奢るから、ね?」


 戻ってくると部下が苦笑いしながら言った。


「寝ちゃいましたよ。リコッタちゃん」

「その名前で決定なのかよ」


 犬や猫じゃあるまいし、まったく。


 ◇


 天蓋つきのベッドで目を覚ます。

 新たにリコッタ・パンケーキという名前を貰い受けた少女は、ぼんやりとした頭で昨日のことを思いだす。

 

 ここはジークの家か。部屋、めっちゃ広いな。

 調度品もかなり豪華だ。

 装飾は少ないが材質や作りはよく、白を基調とした内装にマッチしている。

 

 隅っこには箱があり、中には自分のために用意されたと思わしき衣服が詰まっていた。

 他にもぬいぐるみ、おもちゃ、絵本。

 やや子ども向けすぎる嫌いはあるが、当方どう見ても女児なので文句は言うまい。

 自分が寝ている間にジークがあくせく集めてきたと思うと、むしろ微笑ましく感じられる。


 理想的な環境!

 ふはは! 勝った!


「あででっ! 角ぶつけた……」


 さっそくベッドに傷をつけてしまった。調子に乗るからこうなる。

 この調子で愛玩動物のように飼われ毎日だらだら過ごしたいものの、拾われたばかりで礼を欠いたら失望され追いだされてしまうかもしれない。


 ジークは見目麗しい(我と融合した女児の魂的には重要らしい)長身の男ではあるが、昨日の様子からすると気難しい性質の持ち主でもあるようだ。そういう相手をずぶずぶに籠絡し、口を開けているだけで餌をあーんと貰えるような環境を手にするために必要なのは、やはり愛嬌。


 我は竜ではなくにゃんこ。

 コワモテの騎士様の庇護欲をくすぐる、圧倒的美少女なのだ。

 

「おはようございます、ジーク様。昨日はありがとうございました」

「今朝はずいぶんと慎ましいな。なんとお呼びすれば?」

「リコッタでいいのです。可愛らしい名前をいただきましたので」

「ではおはよう。リコッタ嬢。朝食を作っておいたから、遠慮なくどうぞ」


 見ればリビングの卓にはサラダとベーコン、パンらしきものが置かれていた。

 熱々のミルクまである。

 ……本当に理想的な『飼い主様』だな、この男。

 

「当面の間、君の面倒を見る。なるべく厄介ごとは避けたいから、今してるように振る舞ってくれると助かるな。間違っても昨日のオークション会場でしたような大暴れはやめてくれ」

「我もあとで反省したのです。やんちゃがすぎました」

「そういうレベルではなかった気もするが……。ともあれ君は見かけよりずっと大人びているし、身柄を預かる身としてもほっとしたところはある。子どもの扱いには慣れていない」 

「大抵のことは自分でできるのです。それとも、ジークがお風呂に入れてくれます?」


 ものすごく嫌そうな顔をされた。からかわれているのがわかったらしい。

 愉快だが、やりすぎは禁物だ。

 リコッタ嬢がクスクスと笑っていると、相手はふっと真剣な表情になって言った。


「君は何者だ」

「ただの小さくて無害な人間の女の子なのです。それではだめですか?」

「少なくとも俺は納得しない」


 困ったな。思いのほか警戒されている。

 いや、当たり前か。

 強さを誇示すれば、生きづらくなる。愛されなくなる。


 高揚感も多幸感も薄れ、後悔と自己嫌悪が押し寄せる。

 ミルクをすすりながらうつむいていると、ジークは言った。


「その表情は『嘘』じゃなさそうだな。ならば今は詮索しまい」

「よろしいので?」

「俺のほうこそすまなかった。せっかくの朝食がまずくなる」


 リコッタ嬢は笑った。

 ふはは! 案外ちょろいな、この男!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ