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4ー3 わくわくどきどき迷宮探索その1

しばらくリコッタ嬢視点になります。

「うえーん! こわいのですー!」

「そのわりにウキウキした声出すんじゃねえって。こっちはマジで必死なんだから」

「サリナちゃん手汗すごくてウケる」

「殴るよ? つうか泣くよ?」


 暗闇の中、握られた手からかすかな震えが伝わってくる。

 全身の毛を逆立ててビビり散らしている様は大変可愛らしい。

 とはいえ、本人はいっぱいいっぱいなようなので茶化すのはやめにした。


 自分は絶対に大丈夫だとわかっているから余裕をかましていられるものの、ワンミスであっさり死ぬようなサリナはそうもいかないはずだ。最強であるというのは『可愛げ』を失うことでもある。

 ふうと息を吐き、周囲を見まわす。

 ――暗い。

 それに、本来ならありえない量の魔力の流れを感じる。


「さきほどの揺れで地表に繋がる出口が崩れた……というわけではなさそうなのです。直後に感じたあのふわっとした浮遊感、あれは空間転移の魔法を受けたときに近いです」

「つまりワープしたってこと? なんで?」

「わかりません。いずれにせよ異常事態なのは間違いないでしょう。我が門限を過ぎても帰ってこなればジークが探しにきてくれるかもしれませんが、今どこにいるのか見当すらついていない状況で救助を待つのは得策ではないのです。半べそかいているところで申し訳ないですけど、これからもっと怖いお話をしますが大丈夫ですか」


「待って待って。ちょっと心の準備させて」

「サリナちゃんて、悪党を九十九人始末しているわりに怖がりですよね」

「うっせえな。誰が安全圏から雑魚ぶっ殺してイキってたヘタレ女だって?」


 別にそこまでは言っていないけども。

 リコッタ嬢は空中を指差しながら説明を続ける。


「周囲に漂う魔力の量から推測するに、ここは高難易度の『深層』である可能性が高いです。つまり廃迷宮に入った直後になんらかのアクシデントが発生し、地下に埋没していた隠しエリアに飛ばされたか、あるいはまったく別の迷宮まで転移してしまったと」

「救助を待っていても、いつになるかわからない……?」

「あと上位種相当の魔物がうようよいます。サリナちゃんは今ジャイアントビートルを狩れるほどの腕前ではありますが、深層に潜んでいる連中をあのカブトムシと同列に考えるべきではありません。単純な戦闘能力だけでなく、色々と厄介な魔法や攻撃を使ってくるらしいですから」


 話している最中に前を行くサリナがすっ転んだ。こりゃ相当にビビっているな。

 しかし周囲が暗すぎるのも事実だ。

 獣人との混血児だから夜目が利くものの、竜の魂を持つ我ほどではない。

 彼女に背負わせておいた背嚢を漁り、たいまつを取りだして息で火をつける。

 

「いつも思うけど口から火が出るってどういう身体してんの。つか照明魔法でよくね?」

「それやったらたぶん囲まれます。深層は魔力感知型の種族が多いらしいので、エリア内に生息する魔物の分布が判明するまでは、うかつにそういった魔法を使うべきではありません」

「じゃあどうやって戦うわけ? あーしは獣人の混血でもリコと違って、普通の大人よりちょっと運動神経あるかなってくらいだけど。魔力の補正なしじゃ岩を砕いたりとかは無理」


「身体強化とかなら使っても感知される恐れはないはずです。そういった魔法は同じ階層にいる他の魔物も使っていますから。要するに暗いところで暮らしているやつしかいない場所で光に頼ろうとすると、変に浮いてしまうというだけの話なので。そういう意味ではたいまつもあんまりよくないのですが、サリナちゃんがすっ転んでパンツまる見せしたり落とし穴などのトラップに引っかかったりするよりはマシでしょう」


「次からは注意するよ。ちなみに同じ効果のある魔道具でもだめなのか?」

「単純な魔力の『流れ』のみを捉えるか、それによって発生する『周囲への影響』まで判別できるかは、相手がどれくらいの精度を有しているかによりますね。とはいえ最悪の場合、この階層にいる『魔力感知型の魔物すべて』が襲ってくる可能性だってあるわけですから、やはり使わないほうが無難です。ジャイアントビートルが群れをなして迫ってくるところを想像してみてくださいよ。こんな狭くて暗いところで」


 サリナはものすごく険しい顔をする。

 我はそれでも蹴散らせるが、彼女のほうまで手が回るかというとかなり厳しい。

 生来の大雑把さゆえに、誰かを守りながら戦うのはめっぽう苦手だ。

 むしろ、うっかりすると攻撃の巻き添えで殺しかねない。


「安心してください。我がしっかり守ります……とは保証できません」

「わかってるつうの。自分の身は自分で守れる……とは言えねえけど、最低限リコの足を引っ張らねえように努力する。こんなふうになんもわかんねえまま死にたくはねえし、どうにかしてふたりとも無事に地上へ戻ろう。ただ怪我したりとかであーしが邪魔になったら、見捨ててくれ」

「安心してください。我はお友だちごときのためにそこまでしませんから」

「ははっ。まあそうだよな。リコはそういうやつだよ」


 相方の覚悟が決まったようなので、道なりに進むことにする。

 今いる場所がどこなのか把握することが先決。

 手がかりを探す中で上層へ続く階段でも見つかれば儲け物。


 魔物との戦闘は避けるべき。

 ばったり遭遇しても、やり過ごすか逃げるかの二択。

 どうしても回避できないときは――我がなるべく迅速に、処理するほかない。

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