3ー6 ジャイアントビートル退治その1
翌日。家主のジークらとともに緊張まじりの朝食をすませたあと。
さっそく魔物退治に行くのですと荷物がパンパンに詰まった背嚢を渡された。
お友だちというより家来のような扱いだ。
リコッタ嬢は麦わら帽子に白のワンピースという清楚なリゾートスタイルで、片手にランチ用のバスケットを下げている。中身はハムサンドと紅茶が入った水筒。筆頭騎士様が早起きして用意してくれたらしい。
相当に甘やかされているな、この角ガキ。ほとんどピクニック感覚じゃねえか。
向かう先は当然のように砂漠だ。
見渡すかぎりの砂。容赦なく照りつける太陽。
人間だけでなくあらゆる生物にとって、もっとも過酷な環境のひとつ。
実のところサリナは王都からほとんど出たことがない。
生まれも育ちもスラムの、ある意味では『箱入りお嬢様』なのである。
仰々しい外門をくぐった時点ですでに感じ取っていたが、十分ほど歩いたあたりで足元にまとわりつく砂と身を焦がすような暑さにへばり、前を進むリコッタ嬢と距離が開いてくる。
条件は同じはずなのに、あちらは汗ひとつかいていない。
「ごめんなさいなのです。砂漠に慣れていないとは知りませんでした」
心配そうに近づいてきて、熱を遮断する魔法をかけられる。
屈辱的だ。
それにこのちびで弱そうなお嬢さんが、中級の強化魔法を詠唱なしで扱える腕前なのだとわかった。
たかだか七歳で、魔法使いとしてはシルバー級の冒険者並ということだ。
「お前は強化なしでもまったく苦戦してないな。長いのか」
「しばらく暮らしていましたからね。あの頃はまだ二足歩行できませんでしたが」
「冗談だろ?」
「砂漠は第二の故郷みたいなものなのです。髪は汚れるし肌は日に焼けるしで億劫ではありますが、それでも夜に地平線の向こうを眺めてぼんやりしていると、この地が愛おしく感じます」
そう言っているわりに紫色の髪は濡れた絹のようにさらさらで、肌は雪のように真っ白でシミひとつない。
灼熱の砂漠にあって目の前にいる少女だけが、まるで実体のない蜃気楼のごとく超然と佇んでいる。
このころになってようやく、サリナも認識をあらためつつあった。
リコッタ・パンケーキ嬢は、只者ではないと。
◇
オアシス近くの岩場にキャンプを張り、まずはリコッタ嬢が用意してきた装備を広げる。
武器。マジックポーション――もちろん合法のやつだ。雑多な消耗品。
筆頭騎士様の甘やかしっぷりを見るに意外でもなんでもないが、すべてが最新式かつ高級品だ。
特筆すべきは銀色に輝く筒状の魔道具で、いわく『銃』と呼ばれる武器らしい。
「昔はクロスボウを使っていたと聞きましたので。射撃のほうがお得意かと」
「お前はやっぱり魔法か。さっきのを見た感じ、けっこうな使い手なんだろ」
「いえ。基本的に前で殴るほうが好きです。だってほら、遠隔だと感触が味わえないので」
「どっちが暗殺者だかわかんねえな……。この銃ってやつ、矢は使わねえのか」
「本来は弾を込めて発射する武器なのですが、魔道具の場合それすら必要ありません」
リコッタ嬢は銃を構えると、はるか先にある岩を指差した。
直後、彼女の指先から魔力の流れを感じとる。
なるほど。つまりは魔力をそのまま『発射』するわけか。
轟音。
凄まじい勢いで土煙が上がるものの、標的に定めた岩からはだいぶ離れている。
「下手くそ。こうやるんだってば」
小さな手から得物を奪いとり、発砲。
光の弾がひゅんとうなり、岩の一部を砕くように弾き飛ばした。
角ガキの悔しそうな顔。ニヤニヤ笑いながら、サリナはたずねる。
「で、お前がやったみたいに爆発させるのはどうやるの?」
「魔力の量で調整してください」
「今のが全力だったんだけど……」
今度は相手がニヤニヤと笑う番だった。
まあいい。少なくとも射撃の腕は、あーしのほうがずっと上なのだから。




