3ー2 最強の竜である我の、華麗な討伐テク
前半ジーク視点、後半リコッタ嬢視点になります。
一方、黒騎士団本部。
筆頭騎士ジークフリード・ジフレッドは、監視対象について上司にこう報告していた。
「リコッタ・パンケーキ嬢の素性についてはなおも不明です。現在のところ判明しているのは、彼女が筆頭騎士である私と同程度かそれ以上の戦闘能力を有していること。人間として社会に馴染もうとしていること。その知性が七歳児相当ではなく、大人と対等に会話できる程度には成熟しているということでしょうか。そして同時に、ある種の嗜虐性は抱えています」
「魔物ではない?」
「身体や魔力の検査結果を踏まえてみるに、我々にかぎりなく近い『なにか』と考えるべきかと。古代種の末裔か魔族との混血、あるいは未知の種族。少なくとも現段階でもって我々に害意を持つ存在だと断定はできませんし、実際にどれほどの『脅威』であるかも判断することは難しいので、引き続き監視を続ける方向で話を進めるのが無難だと思います。申しわけありません」
「謝らなくていいわ。騎士団での調査だってまったく進展していないもの」
アリシア団長は困ったように息を吐いた。
気持ちはわかる。
正体も目的もまったくの謎。
判明しているのは脅威となりうる力を秘めているということだけ。
そのうえ見た目は、愛らしい子どもなのだ。
「……不気味ね。彼女が王都に現れてから、おかしな事件が増えているし」
「正直に言って、そのすべてがリコッタ嬢の仕業だとしても驚きません」
「そんだけ疑っているのに、あんなふうに世話を焼けるのはすごいわ」
「やれと言った人が言いますかそれ。とはいえ任務ですから、粛々とこなすだけです」
「ふふ。嘘ばっかり。楽しんでいるくせに」
そのあとでアリシア団長は言った。
「彼女がもし、王都に害をなす存在だと判明したらどうする」
「討伐しますよ。この俺が、責任を持って」
「羨ましい」
「なぜです」
「あなたにそんなに想われている子は、彼女だけでしょう?」
ジークはうんざりした。
どうして俺の周りにいるのは、こういうやつばっかりなんだ。
◇
翌日。リコッタ嬢は朝食の席でこう言った。
「迷宮に行きたいのです」
「いつにも増して急だな。理由を聞いても?」
「芸術活動」
「意外すぎる。そんな趣味があったとは」
「砂漠の西、無限回廊と呼ばれる高難易度の迷宮にでけえ鍾乳洞があるらしいのです」
「そこで風景画でもスケッチしたいと」
「掘りたい。我の像を」
「却下」
「ええ……。楽しそうじゃない?」
ジークはため息を吐く。
環境保護法違反で、多額の罰金だぞクソガキ。
そうでなくとも、あんな綺麗で神々しい風景に傷をつけられるのは許せない。
冒険者として何度か足を運んだことはあるが、本当にいいところなのだ。
「そもそも迷宮探索には許可証が必要だ。取得試験は十五歳から」
「あと八年待てと?」
「そのころには分別がついているといいな、お嬢さん」
◇
しかしやるなと言われると絶対にやりたくなるのがリコッタ嬢である。
それに、抜け道があるのは間違いない。
なにせジーク自身が十三歳から冒険者をやっているのだ。
年齢制限を飛び越えられる方法があるのを知った上で、あえて黙っていたらしい。
手順としてはこうだ。
冒険者として三回、Bランク以上の依頼を達成する。
そのあとに実績として申請すれば、試験をパスして迷宮探索許可証を発行できる。
ややこしいのは、冒険者ギルドの登録に迷宮探索許可証が必須ということ。
つまりギルドを経由して依頼を受けるのは無理。
さらには、許可証がないので迷宮に入ることもできない。
なので許可証がない人間が達成できる依頼というのはかぎられている。
具体的な条件を挙げよう。
ひとつ、ギルドに申請されたものの、未達成のまま三年以上が経過している。
掲示板からも登録帳からも除外されるため、正規冒険者が持つ優先権が解除される。
ふたつ、迷宮以外で達成可能。
ちなみに廃棄された迷宮は許可証なしでも立ち入れるので、候補に入れてオッケー。
多いのは魔物退治だ。
十人がかりで挑んでようやく倒せるような標的のわりに、報酬がしょぼいはざらにある。
出没するのが僻地である場合、依頼を申請する側も出せる金額に限度がある。
ボランティアか腕試し感覚でやってくれる冒険者が現れるのを待つしかないのが、現状なのだ。
我にちょうどいいじゃん。
あんまし目立ちすぎないようにする必要はあるが。
しかしそこでもうひとつ問題が浮上した。
「遊びに出かけるときは、夕方の五時までに帰ってくること」
「えっ……。門限あるのですか」
「当たり前だろ。七歳児」
だったらひとりで町の外ぶらつかせるのもだめじゃない?
と思わなくもなかったが、それを言っちゃうと困るのは自分のほうなので我慢する。
ジークめ。我を試しているな。
魔物退治というのはそう簡単ではない。
相手もバカではないので勝ち目がないと判断すれば逃げるし、そもそも最初から姿を見せないようにする。
なのでか弱い人間を演じつつ、標的がいそうな場所をしらみつぶしに探す。
そして油断して出てきたところをワンパン! しなくてはならない。
狩りは頭を使うのだ。
ふはは。見せてやろう。
最強の竜である我の、華麗なる討伐テクを。
◇
毎日、砂だらけになって屋敷に帰る。
風呂を浴び、着替えてリビングのソファで髪をとかす。
やがて騎士団の仕事を終えたジークも戻ってきて、むすっとした顔をしている我に問いかけてくる。
「調子はどうだ」
「なにがです?」
まったく、これっぽっちも、うまくいってないが?
この男、絶対にわかっていて聞いていやがる。
魔物退治、すっごい難しいんですけど。
そもそも見つからないのだ。
理由はいくつかある。
王都近辺に出没する魔物は、冒険者がやらなくても騎士団が討伐してくれる。
労力のわりに報酬がしょぼくても、彼らの活動は税金で賄われているため問題ない。
危険度が高い順に回っているのでしばらく放置されることもあるが、大抵はギルド側の優先権が切れたタイミングで駆除してくれる。なので依頼としてはほとんど残っていない。
王都から離れたところに出没する魔物は、門限までに帰ってくるのが難しい。
行って、探して、討伐してだと、時間的にけっこう忙しい。
空を飛んでギリ間に合うかも、というところ。
ただ日中は砂漠も人が多くて目撃されやすいし、我の髪色は明るい空の上だと遠目からでもよくわかる。
夜に屋敷を抜けだすのは最近ジークが警戒していてバレそうだし、それ以前に暗くて標的を見つけられない可能性がある。近くにいれば魔物が潜んでいても判別できるかもしれないが、さすがに上空からだと竜の眼があったとしても難しいだろう。
いかつい翼を生やした姿は見るからに強そうなので、魔物のほうが警戒して出てこないというのもある。
あの状態はいわば戦闘モード。我としても『力』を隠しづらいのだ。
そうなると残る候補は『日帰りで帰還できる距離に出没する魔物』で、しかも『騎士団ですら達成できていない依頼』となる。こういった場合、標的となっているのは探すのが難しい魔物――いわゆる『希少種』だ。
彼らは大抵が絶滅危惧種。なので生捕りが前提。
討伐ではなく捕縛。レア素材を採取してこいというのに近い。
カクタシーなんてまさにそうなのだが、残念ながら依頼としては出ていなかった。
物探しというのは我が苦手なジャンルだ。
同様の理由で素材集め系はスルーしていたのだが、魔物退治でも放置されていた依頼は内容的にさして変わらなかった。広大な砂漠で、どこにいるのかわからん標的を探すのはめちゃくちゃ不毛な作業である。
「ぬあああああっ!」
「情緒が不安定だな。ちなみに俺は十三歳のときにゴールデンスライムを捕縛して表彰されたことがある。王都の歴史でも過去に二度しか見つかっていない希少種中の希少種だ」
「うっせえボケナス! さっさと飯を作れっ!」
めちゃくちゃ嬉しそうにしやがって。
さては剣の稽古で我にボコられたの、根に持っているな?
ふんと鼻を鳴らしていると、筆頭騎士様はこう続けた。
「そういえばあのときは連れがいたな。ノア・コーエンという男だ」
「ひとりではなかった、ということですね」
「仲間がいたほうが効率的なのは間違いない。とくに希少種を探す場合には」
「なるほど。我にはまったく関係ない話ですが、お勉強になりました」
この男がなにを試しているのか、ようやくわかった。
コミュニケーション能力だ。仲間と協力できるかどうかの。
ふははは。見せてやろう。
我は数千年以上の歳月を生きてきた竜なのだ。お友だちなんていっぱいいる。




