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2ー5 あくま。かみ。もやす。みんな

ジーク視点の話になります。

 カクタシーたちに聴取を試みるのであれば、まずは群れの一匹を懐かせるのがいい。

 こういう場合もっとも簡単なのは、餌を与えてやることだ。

 ノアのアドバイスに従って、彼らの好物である魚のすり身をこねて作った肉団子を口に運んでやる。

 愛すべきサボテン君は瞳をキラキラとさせて、はむはむと食べはじめた。


 警戒心が薄いとは聞いていたが、初対面の人間にこうも隙だらけだとむしろ心配になる。

 しかもこのカクタシーは闇ギルドの施設で長い間、ひどい虐待を受けたあとなのだ。

 こちらの考えていることが伝わったのか、ノアがため息まじりに言った。


「最初は本当に大変だったんだよ。腕がない、足がない、目ん玉がない、中身がぐちゃぐちゃになっていた子だっていた。でも……カクタシーは知能がそこまで高くないから、嫌な記憶はすぐに忘れる。ただそれはいいことでも悪いことでもあるかもしれないね。君が悪意を持って近づいてきた密猟者だったら、懲りずにまたあっさり捕まってしまう」


「おかげで今は絶滅危惧種か」

「植物系の魔物らしく再生能力が高いし、水がない環境下でも数ヶ月は生きていけるからね。存外にたくましい存在なんだよ。僕が知る中でもっとも無害かつ温厚な種族のひとつだけど、そのせいで犯罪者たちに骨の髄まで搾取されてしまうのだから皮肉なものさ」


 直に触れてみて実感できた。

 こんな愛らしい生き物を虐待するような連中は、天誅をくだされて当然だ。

 たとえ過去にどんな事情があったとしても。


 やがて床に倒れていた研究員たちが次々と目を覚まし、自然とカクタシーを抱くジークの周りに人の輪ができた。昏倒させられたわりにノアにぶちぶちと文句を言うだけで許しているようなのは、彼らもカクタシー並に善良なのか、あるいは単に慣れてしまっているかだろう。

 

 群れに戻す準備ができたというので、名残惜しさを感じながらサボテン君を手放す。

 そのままノアたちとともに区画の端っこにある檻へ向かう。

 現在ラボに収容されている個体は十二匹。

 保護されたときはさらに五匹いたが、残念ながら治療中に枯れてしまったという。


 カクタシーに言語と呼べるものはない。

 ポポ。ニュニュ。ペホ。

 この三種類の鳴き声を使い分けて、群れの中でコミュニケーションを図っている。

 ではどうやって聴取を取ればいいのか。

 ジークがたずねると、


「僕が発明した翻訳機がある。なんでもいいから話しかけてごらん。ちょうどさっきの子が近くにいるから、反応があれば興味を引かれて群れごと寄ってくると思うよ」

 

 檻といってもそれなりの広さがある。

 ノアの言うとおり懐いたカクタシーだけ柵の手前にいて、ジークのほうを見つめている。


「こんにちは。君たちと話がしたい」

「ポポ」

「捕まっていたときなにがあったか、聞いても大丈夫かな」

 

 ノアが構えている管楽器のような装置から、ポポポと音が響く。

 今しがたジークが話した言葉を、カクタシーの鳴き声に変換しているのだ。

 しばらくすると群れが寄ってきた。


 統率感はなく、それぞれが好き勝手にわめく。

 その様子はなんとなくリコッタ嬢を彷彿させた。

 リビングのソファで眠りこけているときに、時折こんな鳴き声をあげるのだ。


「ポポポニュニュポペホペホポポポ」

「いたい。くるしい。でもひかりがあった」

「ペペペホホホホニュニュポペペペぺポホホホ」

「もえたもえた。みんなもえた。にんげん。みんな。もえてしんだ」

「ペペペペホニュニュポポニュニュポ」

「しってる。なつかしい。こえ。かたち。ちがくても。おなじ」


「それは……君たちを助けてくれた人のことを言っているのか?」


「ポポペペぺ。ニュポポ、ポ」

「そう。みんなしってる。あなたも。わたしも」

「ポポポ。ポポポポ。ポポ」

「あくま。かみ。もやす。みんな」

「ポポポ。ニュニュ。ポホホ」

「もやす。つぎも。たのしみ」

「ポホホ」

「たのしみ」


 ◇


「結局どういうことなんだ?」

「僕に聞かれても困るっつうの。それを調べるのが騎士団の仕事だろ」


 しかしそのあとで、ノアは楽しそうに言った。


「まるで終末の予言だったね。彼らを助けてあげたのは正義の味方じゃなくて、太古の眠りから目覚めた邪神とかだったりして」

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