2ー3 人間は数が多すぎるので、我のほうで選別してやらなければ
前半リコッタ嬢視点、後半ジーク視点になります。
深夜。
リコッタ嬢は屋敷の高いところに登り、月明かりに照らされた王都の町並みを眺める。
筆頭騎士と同居していると、内緒で夜遊びに行くのは骨が折れる。
しかし今日のジークは仕事で疲れていたのか早いうちから寝てしまい、部屋を抜けだすのは容易だった。
このまま家々の屋根を伝って、気ままに散歩するのも悪くない。ただ騎士団が違法薬物の密売人に捜査の手を伸ばそうとしているのなら、予定を早めて『狩り』に出たほうがよさそうだ。
社会のクズは、おもちゃにして遊んでいい貴重な資源だ。
騎士団に横取りされてしまうのは、もったないない。
罪なき魔物を虐待することで原料を抽出し、冒険者を廃人にする薬物を作りだす。
なんと愚かで醜い所業。
オッケー殴ろう遊ぼう滅ぼそう。
毎日楽しく暮らしていくためには、世の中のほうも綺麗になってもらう必要がある。
人間は数が多すぎるので、我のほうで選別してやらなければ。
楽しい楽しい暴力の時間だ。
今宵の外出着は白のワンピースで、背中まわりが大きく開いたデザインが特徴だ。
見ためが可愛いというのもあるが、それ以上に実用的。
たとえば翼を生やして、空を飛びたくなったときに。
中腰になって気合を入れると、肩甲骨のあたりから自分の背丈程度はある翼が生えてくる。
竜と人間の魂が融合したことでこの身体は本来の在り方から大きく歪んでいるため、やろうと思えばこういった芸当も可能なのである。
あとは怪力とか炎のブレスとか。
実は尻尾も生やせる。スカートがぺろんとめくれて恥ずかしいのでやらないが。
この翼もなあ。天使みたいにふわふわだったらなあ。
めっちゃ竜って感じのいかついのが生えるせいで、正直あんまり使いたくない。
ただ今回は砂漠のほうまで遠出するため、移動時間を考えるとやむをえないところ。
お宝も資源も魔物も枯渇して誰も行かなくなった、廃迷宮。
密売人たちはそこを違法ポーションの製造拠点にしているのだ。
久々に飛ぶので肩の付け根や足首をぐねらないように軽くストレッチしたあと、屋根伝いに疾駆して大きく跳ねあがる。その勢いのまま前傾姿勢を取り、夜風に乗ったら成功だ。
ばさばさと音を立てながら王都の上空を旋回し、慣れてきたところで砂漠に向かう。
やってみると案外、怪盗っぽくて悪くないかも?
次からは黒の衣装を用意しよう。
お嬢様らしく優雅に、上品に。
夜遊びは騎士様に、バレないように。
◇
三日後。黒騎士団本部。
密売人たちの製造拠点が壊滅した件を知り、ジークたちは困惑を深めていた。
経緯としてはこうである。
冒険者たちがたまたま廃迷宮の近くを通りがかったところ、傷ついたカクタシーの群れを発見。
保護したあとで内部を調査すると、めちゃくちゃに破壊されたアジトが見つかった。
闇ギルド同士の抗争とは思えない。
かといって魔物に襲われたというのも不自然だ。
冒険者くずれの犯罪者たちは跡形もなく消し炭にされ、床や壁に残された痕跡のみで『現場にいた』ことを判断するしかない。一方の囚われていたカクタシーたちは丁寧な応急処置がされたうえで寝かされており、傍には数日分の食料と水まで置かれていた。
人間には容赦なく、魔物相手にはずいぶんとお優しい『襲撃者』である。
ジークの脳裏によぎったのは、我が家の得体が知れないお嬢さん。
あの日の夜、カクタシーとお友だちになりたいと言っていたのは偶然だろうか?
しかし製造拠点があった廃迷宮は、最低でも歩いて二日の距離にある。
仮に部屋から抜けだしていたとしても、朝までに戻ってこられるとは思えない。
おまけに現場には武装した冒険者くずれが数十名はいたのだから――いや、そもそも考えすぎだ。
例の『お友だち発言』だけでは、疑う根拠として弱すぎる。
調書を片手に考えこんでいると、
「ジーク君、カクタシーから聴取を取ってこれる?」
「サボテンって喋れるんですか。そもそもなんで俺が」
「保護されたカクタシーが収容されている病棟が、王都の魔法生物研究所だからかな。あそこに学生時代からの『お友だち』がいるって聞いているし、他の若い連中じゃ顔が利かないの」
「まあ……俺だってかれこれ数年は会っていないですけどね」
「有名な変人らしいわね。彼」
返事の代わりに肩をすくめる。
俺の周りはそういうやつばっかりだ。もちろん、目の前の上司も含まれる。
そんで今度はサボテンと交友関係を深めなければならないわけか。
とはいえ目撃者から聴取が取れるのはありがたい。
密売人を捕まえる手間こそ省けたとはいえ、騎士団としてもメンツがある。
自分たちを差し置いて犯罪者組織のアジトを襲撃するような人物を、野放しにしておくわけにはいかない。
まあ案外どっかの凄腕冒険者が、ボランティア感覚で助けただけかもしれないけどな。




