11ー6 ジーク様パワーアップ計画(2)
エクスカリバーを庭に埋めるしかないとなったとき、リコッタ嬢はこんなことを言っていた。
「リスクがあっても、なるべく手元に置いておいたほうがいいです」
「なんで?」
「ジークにとって、最強の武器となりえるからです」
それから洞窟に行くと言いだしたとき、彼女は剣を背嚢に突っ込みながら、さらに説明を付け加えた。
「ドーピングも秘孔もなし。その上で己の限界を引きあげるとなると、出来うる手段はかぎられています。タクヤやサリナであれば修練の積み重ねや稽古をつけてもらうだけで劇的に強くなれますが、ジークくらいになるとぶっちゃけ、そこまでの伸び代は期待できません」
「シグムンドの旦那にも言われたよ。お前にはオレ様ほどの才能はないってな」
「あくまで天才同士の比較であれば、そういう認識になってしまうでしょうね。我が見るかぎりでも剣技の資質はジーク姉やルーンのほうがありますし、射撃ならサリナ魔法ならノア、天賦を含めた応用の幅ならハナエに軍配が上がるはずです」
「タクヤも最近どんどん強くなっているし、現役最強の座も危ういって認識ではいるさ。なにより目の前にいるお嬢さんが、筆頭騎士として積みあげてきた自信とプライドをへし折ってくる」
リコッタ嬢はケラケラと笑った。
「しかし総合力なら間違いなくジークがトップなのです。蘇生の天賦もあるわけですし、戦闘面以外での貢献度は計り知れません。ただ個人的に言わせてもらうと、もうひとつの天賦のほうはまだまだですね。増幅した強化に、身体のほうがついていけていないでしょう?」
さすがだと、脱帽せざるを得ない。
彼女に見せたのはたった一度。
なのに弱点まで、見抜いているようだった。
冒険者にとっては基礎とも言える魔法、身体強化。
通常は三倍の効果だが、ジークは天賦によってさらに十倍ほど増幅できる。
その結果、合わせて三十倍もの速さで動けるようになる。
しかしそれほどの速度となると、脳の処理が追いつかない。
ゆえに細かい調整ができず、動きがどうしても直線的になってしまうのだ。
連続して使うと神経が焼き切れるような痛みを覚え、目や鼻から血を流したことだってある。
体力の消耗も尋常ではなく、数秒ほどで『限界』が来てしまう。
「ここぞという局面でしか使えない、必殺技」
「君には通用しなかったけどな」
「なら、通用するようになるまで鍛えるべきですね。そのために必要なのが――」
言われたことを思いだしながら、エクスカリバーを鞘から引き抜く。
見たところごく普通の剣。
衝撃波が飛ばせるとか雷撃を放てるとか、刀身が炎や氷に包まれているとか、聖なるエネルギーで物理攻撃が効きにくい魔物を一刀両断できるとか、そういった遺物らしい派手な力は宿っていない。
だがリコッタ嬢から説明を受けたとき、ジークはその秘められた『価値』に戦慄した。
――体力の常時回復。
言葉にするとシンプルだが、その効果は凄まじい。
とくにジークの場合、ふたつの天賦を最大限に活かすことができる。
蘇生の力を使った際にごっそりと体力を削られることもなければ、身体強化の増幅効果が数秒で切れることもない。ここぞというときの切り札が、無制限に使えるようになるわけだ。
蘇生の天賦にかぎっては、魔力や寿命も消費するので乱用は厳禁だ。しかし他人に生命力を分け与えるのではなく自分を〝対象〟とする場合、魂が削られる代償は発生しないことがわかっている。
これまでは使用後に行動不能になるため使えなかったが、エクスカリバーの効果によって体力の消耗が相殺されるのであれば、自身の肉体を蘇生させながら戦い続けることが可能になる。
それも三十倍の速度を維持したまま、だ。
地脈の乱れによって周囲には尋常ではない魔力が満ちているし、蘇生の天賦を使い続けていても感知される恐れはない。剣を構えて覚悟を決めた直後、暗がりの先から再びクリスタルシザーズが現れる。
しかしジークの瞳に映っていたのは目の前の敵ではなく、記憶の中にあるリコッタ嬢の笑顔だった。
『これなら限界を越えられるでしょう? だってそんなものは、存在しないのですから』
確かにこの剣の力があれば、今の自分でも等級SSの魔物とやりあえるかもしれない。
手足がちぎれて激痛に苛まれようとも。
脳の処理が追いつかず、目や鼻から血を垂れ流そうとも。
戦う意志があるかぎり、無尽蔵の体力に支えられて、立ちあがることができるのだから。




