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11ー5 ジーク様パワーアップ計画(1)

しばらくジーク視点になります。


 ――このままでは地面に激突する!


 ジークは背嚢からナイフを取りだし、垂直に切り立った岩肌に杭のごとく突き刺した。

 全身の体重が右腕に乗って肩が悲鳴をあげるも、なんとか耐える。

 崖に吊りさがったような姿勢のまま、安堵の息を吐く。


 長年にわたる騎士団の仕事で感覚が鈍っていても、アダマン級冒険者は伊達ではない。

 不測の事態であっても冷静に状況を判断し、的確な行動を選択する。

 たとえくしゃみで崖から突き落とされたとしても――いや、さすがに肝が冷えたっつうの。

 あのお嬢さんがここぞというタイミングでなにかやらかすのは、今にはじまったことではないとはいえ。

 

 視界が暗いせいか、リコッタ嬢はジークがそのまま落下したと誤認したらしい。

 クソでかい声で「じいいいいいくううううっ!」と叫びながら魔物の群れめがけて突っ込んでいくところが見えた。

 翼を生やして飛んでいたので、例の姿に変身しているのだろう。

 となれば等級SS以上の連中が相手だとしても、やられることはないはずだ。


 突き落とされた自分よりも相手のほうが焦りまくっているのを目の当たりしたせいか、怒りよりも呆れや脱力感のほうが先に来てしまう。

 とはいえ、迅速に合流したほうがいいことに変わりはない。


 リコッタ嬢が群れの大半を引きつけてくれたものの、洞窟の底にはやばそうな魔物がうようよ潜んでいる。

 今のジークの実力では、限界を越えるどころかそのまま地獄に一直線。

 認めるのは癪ではあるが、あのお嬢さんの手助けなしでは生きて帰ることすら難しい状況だ。


 崖の途中で止まったおかげで、さほど地面とは離れていない。

 岩肌からナイフを抜いて口に咥えたあと、蜘蛛のようにすいすいと降りていく。

 しかし洞窟の底に足をつけたところで、暗がりの奥から巨大なシルエットがぬっと現れた。


 ――クリスタルシザーズ。

 水晶のように透き通った甲殻を持つ、カマキリのような魔物。

 両腕についた鎌による斬撃は神速の域で、その身体はあらゆる魔法を無効化すると言われている。

 厄介な遠隔攻撃や特殊能力こそ持たないものの、等級SSとあって真っ向勝負はかなり分が悪い。


 できれば戦闘は避けたいが……これだけ距離が近いと、気づかれないように離れるのは無理がある。

 あらかじめ付与しておいた強化魔法を天賦でブーストし、いつ襲いかかってきても対処できるように身構えておく。


 得物は口に咥えたナイフだけ。

 他の武器を取りだすほどの、余裕すらない。


「ギギギ……ギギギ……」

(あれ……?)


 ばっちり目があったはずなのに、まさかの素通り。

 お腹が空いていなかったとか見逃してやったとかではなく、そもそも『認識してない』ような感じで、ジークの存在ごと無視している。


 ……いったいなにが、どうなっているのか。

 暗がりに消えていく魔物の背中を眺めながら、首を傾げる。


 クリスタルシザーズに襲われなかったのは、ナイフに宿っていたホン・パロロの天賦が発動していたからである。

 しかしジークはそんな効果があるとは知らなかったし、だから当然のように武器を持ち替えることにした。背嚢から一振りの剣を引っ張りだす。

 

(これを、上手く使いこなせるといいが)


 周りに自分たち以外誰もいないとわかっているからこそ、鞘から抜くことができるとっておきの武器。

 その名もエクスカリバー。

 無許可持ち出しがバレたら極刑の、非合法遺物だ。

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