11ー1 砂漠の旅路
ジーク視点になります
多くの人々が行き交う王都を出て砂漠を歩いていると、ジークはいつも世界の広さを痛感してしまう。
しかし目の前にある雄大な光景ですら、地図上ではほんの一部に過ぎないのだ。
エルカザードと周囲に広がる砂漠は、アマルデアと呼ばれる大陸の東南部に位置している。
王都から北にちょっと進むと巨大なリーヌ川があり、それは真横に引いた一本の線のごとく砂漠を分断しながら、東の海まで続いている。
ちなみに今いる川沿いの道は、建国以前から交易に使われていたという。
「まずはこの先にあるオアシスに立ち寄って、そこで一夜明かしてから目的地に向かう。王都にない食材もあるから夕食は豪華にして、あとは近くの湖で沐浴するのも悪くないかもな」
「お昼はどうするのです? 砂漠で現地調達?」
「できるならそうしたほうが携行食を節約できるが、この辺の魔物は素早いぞ」
リコッタ嬢が不意に、顔をぐいっと真横に回転させる。
あぶねえ。頭の角が当たるところだった。
本当に邪魔だなこれ。言ったら泣かれるから黙っておくけども。
「あそこにサンドコカトリスがいます。アンドレが見つけてくれました」
「エアリアルバードも鶏さんが大好きだからな……。しかしだいぶ距離があるぞ」
「我に任せてください。アカデミーで習った魔法の使いどころです」
「いや無理だろ。さすがにこんな遠くから当てられるはずが――」
しかしやんちゃなお嬢さんは身を乗りだして狙いをつける。
地平線のはるか先、黒騎士団一の視力を誇るジークですらうっすらとしか姿を捉えることができないような、豆粒サイズの標的めがけて。
直後、目が眩むような稲光。
アンドレも驚いたのか暴れて、ジークは危うく鞍から振り落とされそうになってしまった。
リコッタ嬢だけが、楽しそうにケラケラと笑っている。
「なんだっけ。らいとにんぐぶらすと?」
「特進クラス上位の高学部生が習うような、中級魔法だな。ただ君が今ぶっ放したのは威力が桁違いすぎて、特級魔法に分類されてしまうかもしれない。鶏さんだってたぶん蒸発している」
「加減がむずいのですよね。コツとかあれば教えてください」
「他のやつに聞け。俺はそもそも雷系は得意じゃない」
もっとも王都の誰に聞いたところで、答えは返ってこないだろう。
そもそも人間〝ごとき〟の魔力では、この距離から標的を蒸発させるなんて不可能だ。
アカデミーのお勉強が身のためになっているのは喜ばしいことではあるが、頼むからこれ以上強くならないでほしい。
加減ができなくて困っているのは君自身だろうに、無自覚にどんどん知識を吸収してパワーアップしていたら、それこそ本末転倒じゃないか。
◇
オアシスに向かう途中で日陰になりそうな岩場を見つけたので、キャンプを張って小休憩。
アンドレに水をやったあと、昼食の準備に取りかかる。
携行食の乾パンに、二度目のチャレンジで見事に(原形を留めたまま)撃退したサンドコカトリスの肉を挟む。
リコッタ嬢が大はしゃぎでもぐもぐする姿を眺めつつ、たずねる。
「なんでまた魔道具を作ろうなんて考えた? 禁呪古文書で得た知識を試してみたくなったのか、それともサリナ君にもっと強くなってほしいからか。あるいはその両方か」
「最初は蘇生魔法を開発するつもりでした。ジークの天賦のような」
「君でもそれは難しかったと」
「残念ながら」
リコッタ嬢は羨ましそうな視線を向けつつ、こう続けた。
「我は壊しやすいので、せめて大事なものだけは直せるようになりたいのです」
「ならば精進あるのみだな。うっかり鶏さんみたいに蒸発させられたらたまらない」
「そうとわかっていてもそばにいてくれるから、ジークのことは好きですよ」
「だからこそのパワーアップ計画か」
「ですです。今のところ蘇生はむずいので、壊れにくくするほかないわけです」
それから彼女はぽつりと言った。
「もう二度と、ひとりぼっちになりたくありません」
ならばお互い、精進あるのみだ。
迷宮で、サリナ君を抱えて泣いている姿を見たときに。
君をひとりにしたくないと。
俺だって、そう感じたのだから。




