第204話 副将戦②
予見したとおりに次戦相手は【聖なる九将】序列第三位障壁使いのクリス、この決闘を提案した主催者。
警戒心など互いになく、縮まっていく距離。
歩幅は、ほぼ一緒。
背丈も同じか、ややクリスの方が高いくらい。中央線の仕切りなくとも、共に向かい合い並び立つ。
「能力は?」
「使用しましょっ、能力ナシの体術オンリーだと負け確だから…………こちらのね」
逆に言えば、能力アリなら負けないと言っているようなもの。当然、その言葉は零に刺さる。
だからといって、笑みは崩さない。
これが零の基本姿勢。
メイドは泰然自若とするもの。
(ふぅ……)
零は少し息を吐いた。
ここは決闘場、天空の檻、ある種の密閉空間。
新鮮な空気を吸い────というのは場違いな表現ではあるものの、思考を切り替えたことに変わりない。
倒したいという野心を一旦捨て、一撃入れる方法を模索する。それだけを念頭に置く。
(私の能力は“次元殺法”。いわゆる瞬間移動や転移みたいな移動に長ける技が多いだけであって、それを戦術に組み込まなければ大した能力とは言えない────必殺技を除いて………ですが、その必殺技の使用許可はおりてません。“限界突破”しかり“半自動治癒”も。であれば、出来ることは1つ。やはり私には、コレですかね)
懐から取り出されたのは、一本の糸。
靭やかに垂れたと思ったら、刃のような鋭さを増し、一気に硬くなる。
鋼糸。
零の武器。
攻防両方の手段に成り得るモノ。
まるで、もう1つ能力があるかのようにも見えるが、これは能力ではない。
敢えて言うなら、家事スキル。スーパーメイドなら得ていて当たり前の(?)技能だ。
やがて鋼糸と鋼糸とが重なり合うにつれ形状変化、鋼製の武器が出来上がる。それを一本二本と作ってく。
「では───」
『参ります』の言葉は音速を超えた。
◇◆◇◆◇◆
ガッキイィィイン!!っと、何度も響く衝撃音は糸と障壁とがぶつかり合う音。
前方後方真上真下、頭額口首肩胸肘手膝脚踵背、近距離中距離遠きょ────りはないにしても、数多の攻撃、攻防が繰り広げられた。
そう、何度も何度も。
組織【S】の零という女は攻撃姿勢を止めなかったのだ。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もだ。
全て障壁の前に意味なく終わっているにも拘らず、姿勢を崩さない。体力が無限にあるというよりかは力配分が上手く、戦闘に長けているといった感じであり、当初の想定通りに能力ナシだった場合は負けていたと痛感させられるばかり。
ある種の異常さをも感じ取ったクリスではあったが、負ける想定は微塵もしていない。
(しつこい女は嫌われるってやつね、同じ女として恥ずかしいわ)
【聖なる九将】は強い。
これは歴史が物語っている。
中堅戦は【五連星】に軍配が上がったが、序列が上がることに脅威度が増す【聖なる九将】がそう負けることはない。
第三位と第六位では大幅に差もある。相性というのも勿論あるにはあるが、自分なら負けなかったと、クリスは思えてならない。
(勝てもしないのだけどね………はぁ、なんで第二位と第一位はダメージ与えられるのかしらね?私に足りないも───)
ガッキイィィインっと、また1つ衝撃が轟く。
溜め息ついたその眼前には障壁に阻まれた刃。
「あら、居たの?」
だがしかし、煽っても敵の笑みは崩れない。
それは無性に苛立たせるものだった。
更にはもう1つ、クリスには煮えくり返るものがあった。
それは、
揺れだ。
「何度やっても同じよ、この───」
能力持たない一般人なら決して分からない。
能力者でも気付けるかどうかは曖昧。一瞬の気の迷いが生死に繋がるからだ。
普段から気にしている者でしか気付けない、僅かな揺れ。されど、クリスにとっては大きな揺れだ。
「淫乱売女め!」
「んなにをいっ………??」
言われた方は理解できないだろう。
観客側も殆どがチンプンカンプン。理解した上で溜め息ついてるのは言われ慣れている第二位くらい。だがその第二位も大きい方ではない。
何が言いたいかって?
勿論、それは………胸だ!
「さっきからちょこまかと、それもワザとやってるんでしょ、ねぇ!」
「全く理解できません、さっきから何のことを仰ってるんです?」
クリスには胸がない。
Aカップ、AAカップかもしれない。
「その笑みも余計腹立つ!」
「…………」
身長は高いのに、膨らみは無い。
断崖絶壁、コンプレックス。
「決闘じゃなかったら殺してた」
「どうぞ、お構いなく、できるものならですけれど………」
(ムキャー!ホント苛つく女、チョー苦手!)
自分より胸のある女を敵視する女、クリスは罵詈雑言を浴びせ続ける。
◇◆◇◆◇◆
零は、あまりキレる女性ではない。
癇に障る出来事あっても怒りあらわにはせず、すぐさま暴力を振るうなど決してない。
根に持ったり冷たくあしらったりはするが、基本は淡々としているタイプだ。
だから『淫乱売女』と言われても直ぐに怒りはしないし、言い返したりもしない。
一度相手の言い分を噛み締め、どうしてその言動に至ったかを顧みる。精査をする。
しかし、今回の件に関しては全く持って思い当たる節がなかった。
暴言の理由について理解が出来ないでいた。
終いには、心を乱すなどの精神系攻撃ではと結論付けたのだが、自分には精神攻撃を無効化できるほどの完全耐性を有していたと思い出し、脅威でないと判断した。
今も尚、暴言は続いているものの、一旦無視を決め込む零は再度、鋼製の武器を握り締める。
(真面目にやってるこちらが馬鹿みたいです────が、それだけ向こうに余裕があるのは明白。屈強さだけは認めざるを得ませんね)
鋼製武器では1ミリも刃通らなかった。
ナイフから剣、鎌、槍等々形状変化させて試みても、結果は同じ。
鋼糸は1つも障壁を貫通せず、分厚い透明壁に阻まれた。
互いを隔てる壁はそう遠くもないため、単純な強度が計り知れないということなのだが、正攻法では術者に攻撃を当てれるものでないと判明。
だが、必殺技も秘技も使用できない。
つまりは、現状に打開策がないことも判明した。
「まだ、やるつもり?結果は変わらないわよ、淫乱売女」
「ええ、そうですね」
だからといって、諦める理由にはならない。
勝者なしの引き分けにはしたくない。いや、今ここで攻めを止めれば、それは負けを認めたことと同義であると見做され、引き分け以上の屈辱を味わう可能性も生まれてくる。
(それだけは阻止しなければ…………守護者の名折れ、ジュン様の顔に泥を塗ってしまいます)
何の捻りもない。
同じような風景。
同じような攻防。
同じような衝撃音。
それが、ざっと40分以上続いた。互いに表情変えるものでもないため、さもすれば1時間を超えるのではと思われた。
主催者本人が闘っていたのもあり、誰も止めれない。審判はいない。
案の定、1時間近くの泥試合みたいになってしまっていた。
この決闘に終わりの警鐘が鳴らされたのは、相互観客の意見合致によるもの。
ジュンとヒョウジン、二人の話し合いにより、副将戦は引き分けという形で幕を閉じたのだった。
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