第200話 次鋒戦
初戦終えたばかりの夢有が飛びつく相手は勿論ジュン、彼女らの創造主。『やったぁ!』と、嬉し混じりのハイタッチがパンパン鳴る中、次鋒として歩み進めるは半守護者のヤン。
「次は、あたしの番だね」
その正面、向かいから進む対戦者はヤツハと同じ三武人の一人。
「さっきの………受け止めた方じゃないんだ。そちらさん、名前を聞いても?」
「あたいは、神速のモネ」
「剛剣の次は神速かい。えらく派手な二つ名じゃないか。三人目は鉄壁とでも言うのかい?」
「………さぁ、そんな事あんたに言う必要ない。それに、次はあたいたちじゃない」
「ほぉ!?へぇ、そうかい。なら、三武人とやらの肩書き保つ最後の砦ってわけだ」
「そう、だからあたいが出た。この神速のモネが一瞬で勝負終わらすから心配ない」
「へぇーそりゃあ楽しみだ────そんで、能力の使用はどうするのさ?」
モネは眼で意思表示していた。
「アリってことだね、そうこなくっちゃ!」
この決定はヤンにとって有り難かった。能力不使用の体術・剣術のみだったなら、不利はヤンの方だったろう。
シルフと日々修行しては研鑽を積む三武人と、自警団として砂漠地帯ジルタフの国民を守る程度を比較すれば、私生活においても違いがあり過ぎる。戦闘の歴は格段に三武人の方が上。
確かに、ヤンも強い。Sランク水準であり強者の位置に属すし、修羅場はそれなりに経験している。
だが、決闘という場に於いては日々の鍛錬が物を言う。
短剣と細剣ではリーチも違う。
半守護者だから問題無いという話でもない。少ない魂魄では“半自動治癒”しか使用できない、“限界突破”は以ての外。逆に言えば、魂魄がそう枯渇する魔改造でもないのだが、そもそもの話“半自動治癒”は使用できない。事前の打ち合わせで、そう決まっている。半守護者とは言いつつも忠誠を誓った以上は、創造主に意見することも反抗することもできない。従うのみ。何があっても。最悪でも多少の怪我で終わらせる必要がある。
(とはいうものの、どうしようかねぇ?攻めか守りか、どちらを主軸にするか………)
もう一つの難点があるとすれば、それは後方観客席。視線が自分に向くのは当然も、ただの応援で済まされない場合がある。それは、直属の上司にあたる紅蓮のこと。
『一撃でもダメージ受けたら小言を言われる』と脳裏にチラついては、『観覧でなく、観察だ』と思えてならない。
(失態は控えないとだねぇ………)
こういった思考に落ち着くのだが、相手の出方や能力が早急に判明しなければ、予定もまた大幅に狂うというもの。
すなわち、今打てる一手は無いに等しく、出たとこ勝負になるは明白。
(まぁいいさ、こっちだって能力が使えるなら何とかなるさ)
ひどく楽観的だが、これが砂漠の真なる王女なのである。
◇◆◇◆◇◆
神速は精神を研ぎ澄ましていた。
集中は普段の域を超えはしないものの、敵を狩るには十分過ぎるほどの明鏡止水。場合によっては、探知できないと思われるくらいの静けさ。
細剣握る手に力は入れない。
剛剣とはまた違う戦法。
彼女独自の剣術。
やや屈み、
目を閉じ、
「せいッ!!」
瞬時に懐へ、
残像ができるほどの疾さ、
モネの細剣は敵を捉えそして────
斬った。
一瞬。
閃光の如く。
「他愛もない。やはり、あたいの敵じゃなか………!?」
モネが気付くよりも早く、斬ったはずの胴体が元通りに繋がっていた。形跡すらない。
「砂…………」
「そうだよ。これが、あたしの能力さ。残像作れるのはこっちも一緒ってことさね」
だが能力開示されたなら、それなりに対応策は練れるというもの。それに、砂といってもここは地面ではない、空中。障壁で作られた決闘場。自然の砂を多用には発生できない。腰に掛けている砂袋数個が限界であるのは見て取れる。
更に、本物と偽物の見分けは回数経てば可能。
直接攻撃より錯乱や中距離に適した技が多いとも推測。
加えて短剣持ちならば、詰めは武器しかないと判断。
奥の手を警戒する必要はあるが、敗北する可能性は限りなく低い。いや、万に1つとして有り得ない。
唯一褒め称えるとするなら、初撃で倒せなかったことくらい。
(こいつも簡単に開示するなんて…………組織『S』って案外頭悪いんじゃ───!)
二方向からなる砂の刃を叩き伏せる。
空中に舞う砂ぼこりが肌を掠めていった。
「いやー、これも意味ないか」
「当然。どういう能力か、だいたい見切った」
「ええぇぇえ!?まだ数撃だよ、凄くない??」
「フンッ」
神速のモネは、三武人の中で一番に剣の扱いが上手い。それぞれ専用武器は違うものの剣術という点に於いては、モネが一番に秀でていると言って良い。
だがこれは元々の才能ではない。
才能があったのは剛剣と鉄壁のみ。
神速は単なる努力家。最も若い身でありながら、リーダー役を任せられるほどに成長した普通の女性。
「あたいは………決して負けない」
これは自分に言い聞かせるのと同時に、尊敬し敬愛し崇高して止まない主に向けた言葉でもあった。
◇◆◇◆◇◆
ヤンはずっと能力を使用している。始めからいままで。能力による攻撃に比重を置き、短剣での攻撃は一度だけにした。相手がどう対処するか観察するためでもあった。
結果は惨敗。
砂による攻撃は全て直撃せず、剣圧によって薙ぎ払われた。見事な剣筋、剣捌きというほかない。
死角からの攻撃も難無く対処された。砂嵐がただの剣圧によって無効化されたのは初めてだった。紅蓮でさえ、熱風を利用した剣撃で相殺していたのにだ。それだけ、モネの剣術が素晴らしいことを物語る。
それとは別に一点、ヤンは疑問に思っていた。
二つ名の神速が意味する所は何なのか、という点だ。
(確かに剣術はヤバい、短剣だけで真っ向から行ってたら一瞬だったさ。でも────)
短剣で詰め寄った時の感覚は、他とは違って違和感があった。
(もっかい仕掛けた方が何か掴めそうなんだけど、なんか向こうさん躍起になってるんだよねぇ。これ、決闘だったよねぇ?殺し合いとは聞いてないんだけど…………)
相手の初撃は確実に命刈り取る一撃だった。砂の残像で回避していなければ致命傷だった。“半自動治癒”の使用を考えさせられるほどに。
(“半自動治癒”を使用させるのが目的だった……?反則技みたいな形での勝利??いやいいや、そんな知的な感じに見えないから違うねぇ。たぶんだけど、向こうも最初ッから能力使用してるってのがあたしの見解なんだけど、はてさてどうかなっっとぉ!)
これまでの総結集とは言わんばかりに多方向から砂の斬撃と真下から砂嵐を発生、その隙に短剣で詰め寄る。
ザシュッッ!
短剣は弾かれるもなく回避されたと同時に細剣の刃が通る。斬られたのは首下、鎖骨辺りであり致命傷には至らなかった。
「浅かったか」
手数の多さが無事だった理由だろう。
「ははっ、なるほどね」
「?」
だが、これで漸くと理解したヤンだった。
「ずっと変な違和感があったんだ。物理で攻める時だけ、先読みされたか心読まれたかの感覚があったんだ。2回目でハッキリしたよ。あんたが速いんじゃない、あたしが遅くされてるんだ。肉を切らせて骨を断つ作戦だよ、どうだい?」
「…………」
「だんまりってことは正解だね。神速とやら見破ったりだ。まぁ、極めつけは紅蓮たちが驚いてるように見えなかったら気付けたんだけどね。本当に神速なら視えるはずがないのさ」
「だから?お遊びは終わり。あたいの能力に気付いても対処法の無いそっちが負け、何も変わらない。『肉を切らせて骨を断つ作戦』?馬鹿馬鹿しい、そんなんであたいの勝利は揺るがない」
モネの発言を聞いて尚、ヤンはニヤニヤ顔を崩さない。
「な……に……?」
続けて、砂袋を全部放り投げる。
中身は────
「空さ」
「それ、が………!?」
モネの剣に、服に、肌に砂と塵が付着していく。
「紅蓮の時は汗一つかかないし、炎で吹き飛ぶしで相性最悪だったけど、あんたは違う。そんな特殊能力無いから固まりやすい。粉塵爆発だって必要ない」
「あっ………」
「あたしってさ、実は頭いい方なんだよ。ここだけの話だけどさっ────からほら、さっき斬られた所から滴れる血と汗と空気中の水分が合わさって、あたしの腕もさっきの決闘みたく巨腕になるのさ」
「まって………」
移動阻害も完了すれば、あとは殴るだけ。
思いっきりの一発。
重厚な腹パン。
「オガッッ……ッ!!」
悶絶必至気絶直行の断末魔。
これにて、決する。
勝利者は、そのまま天へと拳突き上げるのだった。
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