第199話 先鋒戦
武士道精神からか、ヤツハは堂々と一礼する。
前方からは慌てた素振りで同じように礼を返されるも、微動だにはしない。眼前を、ただただ見据えるだけ。
女騎士とスク水少女。
身長差は歴然と決闘には見えにくい。お子様相手に大人が遊びに付き合っている、そんな風景にも見える。
だがそれは一般の能力持たない者同士のやり取り。
この決闘は違う。
ヤツハもある程度は理解しており、手を抜く気配は全くと無い。精神を集中するかの如く、対戦者を凝視している。
その対戦者はというと、自身の体を捻らせたり、手を伸ばしたり、屈伸運動をしている真っ最中。
「何を………している?」
「じゅんびうんどう!」
水泳授業開始前に皆がするアレ。柔軟体操は何事にも必要不可欠とは言うが、この場に水辺なんてあるはずもない。
結果、ヤツハにとっては行動そのものがチンプンカンプン。隙を見せているとしか思わないのは、ごく普通に当たり前な感情。
(どういう意図………まぁいい。能力発動前に一撃入れて終わりだ。初速は、こちらの方が早い。子供だからといって手は抜かん!)
お子様とて容赦不要。
そんな面構えな上、覇気に満ち、次第に斧握るその手に力が入っていく。
「はあぁ……」
静かに、ゆっくりと、息を吐きそして、構える。
強く地蹴る跳躍音が、掛け声と刃の風切音をかき消す。
大振りながらも的確に胴体を狙った一撃。
「んな……!?」
だったにも拘らず、ドンッ!! と何かに阻まれ、肉を切れずに弾き返される。
着地には無事成功し、反撃もない。
但し、見上げる先、そこに小さな子供なんて居やしない。
「どんなもんだい!!」
巨大化した子供。Vサインする手が人間の等身大を優に超える大きさ。
「それが、能力か?」
「そうだよ、“巨大化”の夢有です!よろしく!!」
高低差があるのに声が真下まで綺麗に届くのはどういう了見か、といった疑問にヤツハが触れることはない。
加えて、後方で観覧しているであろう者らから『まぁまぁの大きさだこと、あなたのとはどっちが───』などと野次馬みたくな呟き声を聴いたとしても、気にはしない。
ヤツハはシルフの部下として、気品さよりも武人としての姿勢や誉れを意識しては貫いている。本人もそれを自覚しているほどに。
外野は気にしない。
気にすることがあるとすれば内側。
眼前の敵。
スク水少女に対して。
やや怒り混じりな感情が芽生えるのは────
「簡単に能力をバラすとはな、ナメられたものだ」
浅慮な言動一択。
言い換えれば、ヤツハであれば露呈は避ける。
勝負なのだから。
勝ち負けが何にも影響しないと言われてもだ。
シルフの部下として、決して負けるわけにはいかない。
(弾かれたのは骨というよりは肉。巨大化と硬質化は必ずしも比例しないようだ。ならば、質量差があるといっても斬れぬことはないはずだ………はぁ、峰打ちを選択していなければ初撃で終わらせたろうに、私もまだまだ甘いな)
剛剣は、また静かに息を吐き、狙いを澄ます。
◇◆◇◆◇◆
夢有がヤツハの一撃を弾き返せたのは単なる運だ。相手の攻撃動作をいち早く察知して能力発動を選択した、という攻防もありはしない。丁度タイミングが合致しただけの豪運なのである。相手が峰打ちを選択していたことも幸いだったと言えよう。
日々古城でプロレスごっこはしていても、身体や筋力を鍛えるなど、お子ちゃまがするはずもなく、全てが噛み合って無ければ一撃のもとに敗北していたに違いない。
この真実を知れば危機感を覚えるのは明白。次からは、敵の動きは先読みするくらいの気概で継戦に臨むだろう。
だが夢有は何も理解していない。
危機感すら持ち合わせない。
それが夢有、スク水少女。
純粋無垢に元気溌剌。
決闘も普通に楽しみ、いつも通りに殴打を繰り返す。
「フン、フンッ、フンッ!」
モグラ叩きの要領で、真上から真下へと拳を振り抜く。
時には蹴りも織り交ぜて。
「とりゃぁッ!」
ドスンドスンッ、と。
振動が足場の障壁に伝わる。
掴みに行かなかったのは本能からかもしれない。
故に斬り刻まれることもなく、ただ純粋に拳と斧とがぶつかり合う。
敵も愚直に、側面や背を狙うなどしないために、一定の同じような攻めと攻めとが続いてく。
「ふんっ………ぬ!」
「そぉりゃっ!!」
泥試合とまではいかないが、観戦側としては面白みに欠けるものがある。そう思うのは、【聖なる九将】序列第二位のユキくらいだが、他は興味なしか、別のことを考えている始末。真に応援しているのは当事者の身内、三武人とジュンら組織【S】の者達だ。
しかし、そうは言ってもである。
制限時間が無いにしても、ずっとは続けられないし、続けれない。
夢有の体力が尽きるが早いか、ヤツハの矜持が折れ能力発動により戦局が動くか先か、二つに一つ。
「ふぅ、ふぅっ」
「体力配分を間違えたな、所詮は子供………そういうことだ。日々修行している我らとは程度が始めから違っていたのだ」
そう言い放ったヤツハの大斧には濃い緑色のオーラが纏わりついていた。
「はあああァァ!!」
咄嗟に反応した夢有。
しかし────
「いッ!たぁ!!」
ドシンッ!! っと、今日一番の振動は巨大子供が倒れ池に伏したから。弾いたはずの拳も今日始めて損傷。赤い血が吹き出す。
それでも剛剣は手を緩めず、倒れた夢有の正面へと跳躍、更には大きく振りかぶる。
「少し痛いが覚悟しろ、“天空より飛来し神兵の閃撃”!!」
中二病みたいな技名も、勢い良く垂直降下。脅威が堕ち行く。
が、次の瞬間────
ガシィッ!! っと斧による剣撃でも拳による打撃でもない奇妙な音が生じる。
同時にまたもや、ヤツハの『んなッ……!?』が響いた。
「はなっッ!!」
「離さないもん!!」
相手の武器に能力効果が付与していると、子供ながらに見抜いた夢有は怪我をしていない方の手で、ヤツハの体ごと掴んだのだった。
当然、暴れられた。
体の大きさが天と地ほどもあれど、ヤツハの筋力は素晴らしい。胆力も、冷静さもある。
だが、抜け出せない。
逆手だったのが功を奏したのである。
血がべったりと付着した方だったなら、スルリと抜け出ていたに違いなかった。
「ウオオォォォ!!」
「いっくよー!!」
こうなった以上は独壇場。
無邪気なスク水少女の反撃開始。
ぐるぐるパンチばりの回転を絶えず繰り返す。DS園に設置してある〔コーヒーカップ〕よりタチが悪い。目眩どころではない。三半規管鍛えてたとしてもだ。常人なら気を失うだろう。
常人と判断しなかったからか、夢有も躊躇しなかった、追撃した。
目を回させた次の一手は、そのまま遠くへと投げ飛ばすこと────
正真正銘の、
デッドボール不可避の、
どストライクキャノンが、
見事に放たれたのだった。
ナイスピッチングと褒め称えんほどの投げっぷり。
障害物もなく、彼方まで飛ばされるはずだったヤツハの身体を受け止めたのは、もう一人の三武人。
だがこれで勝敗も決した。
1対1の決闘に、2人目の介入はありはしない。それこそルール違反。
「んん~〜ブイ!!」
勝利を手にした夢有は声高らかに、二度目のVサインを仲間に向けたのだった。
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