第191話 ルクツレムハ征服国②
征服王ジュンの居城、古城レムハに門番なんて居やしない。執事すらもだ。
城内で雑務こなす専門は基本的に守護者の零、もしくは手の空いている者。
そもそもの話、古城を訪ねてくる他人が日頃から少ない。僻地だからか、旧王国の城のが目立つからか、能力的な防壁を張っているからなのか、原因は定かでないものの、これまで人員を募集するほどの環境でなかったために、能力を駆使し単独で空間移動を可能とする零に頼りっぱなし。
これが呼び鈴対応となる理由でもある。
出迎えは勿論、零が担当。
執務室から城門までの行き来、そう時間のかかるものでもない。
待つこと、数分。
ジュンにとっては急な話を持ち掛けられたと同義で面倒な気分も、一般人と会話する頭へと瞬時に切り替え、征服王なりに一生懸命話し口上を考えた、のだが─────
「は?今、なんて………?」
使者として話をしに来た者は、予想外にも予想外。
「征服王にも驚きの感情があるだなんて……傍若無人・冷酷非道な輩と想像してたけど、これは色々と改めないと───っと失礼、お子ちゃまには聞こえなかったようなので、もう一度伝えてあげる。私の名はクリス。【聖なる九将】序列第三位であり、小国ベリウスを裏から牛耳ってる智者……まっ、大した国じゃないけれど、ね………そゆことで、よろしくー」
ゼロの一派との連続遭遇。
わざわざ気分を切り替えた労力も水の泡。
見下したような態度も、これまた頭にくる。
「そんなご身分な方が何しに来たのよ?まさか宣戦布告??」
属国希望と称して乗り込んだが本当は奇襲────という様子でもなかった。
であれば、単独特攻の意図が掴めない。
つまりは別の意図がある。そうでなければ、クリスという女は単なる能無し認定。
「小国ベリウスが属国希望なのは本当。だから勿論、OKしてくれるわよね?」
「全く持って意味が分かりかねます」
零の返答はジュンの意を解している。
相手に別の意図があると分かっていても、それが何なのか、現状は不明。小出しでも優先されるのは、相手方の情報取得。
「頭の固い人しか居ないのは不便ねぇ。本当に、よくこれまで王として君臨できたわね」
「嫌味?」
「さぁ?でも、予想が外れるなんて良くあることよ。気にしないでいいわ。落ち度くらい大したことないでしょ??」
暴言を言い放った途端、クリスの前面、その僅かな空間に衝撃が伝わる。
バチンッ、と。
床が裂け、隙間からは下層が視えるも、クリスは動じず。損傷を負ってないためだ。
礼儀を欠いた者へ制裁。要するに、零の鋼糸が牙を剥いたわけだが、その一撃は眼には視えにくい透明な障壁に阻まれた。
「能力?」
「そう、障壁の使い手。仲間からは[匣庭]なんて呼ばれることがあるわ」
「確か、二つ名ね。でも、ペラペラといいの?」
「どうせ、もうじき始まるし、別にいいわよ」
「何が始まるって言うのよ」
「その前に、属国の件は承諾ってことでOK?」
是が非でも承諾させたい雰囲気のクリスだが、ジュンは未だに意図が理解できていない。
(この女、何の魂胆があるのかしら?)
魂を視ても、全く動じていない。強度は第一位レイヴンに劣るのは確かも、それ以外の情報は得られない。
「罠があるかもしれない爆弾をどうして受け入れなきゃいけないのよ。全く持って要らないわ、あなたの国」
「でも、世界征服は目指している」
「一応ね」
(真の目的はハーレム道なんだから、趣旨は絶対履き違えないわ)
「本当に必要ない?」
「クドいわよ!」
「そう……それは残念。だけど、幸運でもある」
「ど、ういう………?」
問いに連動したかのように、クリスの首に下げている宝石が光った。凹凸無いスラリとした身体付きであり、余計に目に入った。
「〈異世界の宝具〉発動、1回きりのゴミ道具だけど、上手くいったみたい。ふぅ、ちゃんと感覚もある」
「何をしたのよ」
「何もしてない、あなた達には」
「は?」
クリスは振り向いた。窓も無い、扉の先を眺めているかのよう。
「遠くにいる者へ攻撃を可とするって効果だったけど、ちゃんと死んでくれたみたいだわ」
「あんた、誰に何をしたのよ」
「牛耳っている小国ベリウスの民を全部殺しただけだけど、何か?」
表情は、さも『普通に仕事しただけですよ』感だ。
嘘には見えないし、間違いないのだろうがしかし、この場に【聖なる九将】信者がいたでもしたら、嘆き悲しみ怒る程度では済まない。おそらく、発狂する。無慈悲な言葉だ。
「自国………の民を殺した意味は?」
「これは驚かないのね」
「興味ないし、要らないっていったばかりでしょが」
「ふーん、確かにそう。でも意味は大いにある」
「場の形成」
「知ってるじゃない。二つ名含め、誰が漏らしたかなんて簡単に見当つくけど、今はいいわ。あいつウザいし、粘着質だし───」
「それは同感」
あいつとは、第四位ギルテ。
ゼロの復活に関して、その一部情報についてジュンは知っている。
世界を内戦や戦争という負の感情で満たし、死人を増やし、復活の場を形成させる。一旦の依代はまだ意味不明だが、概ねこれまでの戦い、奇襲含めた無謀な戦域は敵側、ゼロの一派には意味があったということ。
「ここに来る前に、ベリウスの民には選別するよう伝えていたのよ。大した国じゃないから、征服王の国に属するとしても無価値だから、剣を取り仲間内で殺し合いなさいとね。生き残った者は、世界征服目論む者の民に相応しいって言ってあげたのよ」
「それなのに自らの手で殺した、ということですね」
「御名答。頭固いと言ったけど柔らかいのね、撤回してあげる」
「必要ありませんね。気持ち悪いことこの上なしです」
ニヤリと笑うクリスに対して、笑顔でも全く笑っていない零。静かに火花が散っている。
しかしながら、クリスの言が正しければ、〈異世界の宝具〉の効果もあって小国ベリウスは事実上機能しない状態になったと言って間違いない。
と同時に、クリスの能力が防御のみならず攻撃も可能で且つ複数人攻撃できることも示唆している。
「さて、これでまた1つ前に進んだから、次はこれね」
クリスは無造作に手紙を投げつけた。
投げつけられた零がしっかりとキャッチしていることで、これ以上何かが勃発はしなかった。
「それは何って聞いた方がいい?」
「ええ、まぁ、これは私達からの御達しよ。これも………聞いてるでしょ?」
「あーーなるほどね」
ジュンは、小国レジデントで会った第一位レイヴンの言葉を思い出した上で、これがつまりは意図なのだと理解したのだった。
作品を読んでいただきありがとうございます。
作者と癖が一緒でしたら、是非とも評価やブクマお願いします。




