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5.女からの電話

 翌々日、僕は会社で忙しい時間を過ごしていた。

 カウンターにきている店頭客の相談にのり、手配状況を問い合わせてくる電話にファイルを引っ張り出しては進捗状況を確認して答え、向こうの旅行会社にテレックスを打ち、また店頭客に資料を見せ、見積書を作り、電話をかけ、端末機をたたき………、そして、ちょうど鳴った電話を取った。

「はい、××旅行です。」

「………。」

「もしもし、××旅行ですが。」

「………。」

「もしもーし。」

 おかしいな、間違い電話かな、この忙しいときに、と思って切ろうとしたときに、ふと、もしかしたらユウコではないかと思った。彼女には、僕の勤めている会社の名前は言ってあったはずだ。


 僕は、まわりの同僚に気付かれないように姿勢を直し、受話器に手を当てて、もう一度、

「もしもし。」

といって耳を澄ませた。受話器の向こうは、雑踏のような気もするし、単なる電話の雑音のようでもあった。僕は、受話器にしっかり耳を当てて、その向こうに広がっている深い闇から聞こえてくる声を、待った。

 しばらくして、ユウコの声が聞こえた。

「……私、………ユウコです。………お仕事中、………すみません。」

「やっぱり……。どうしたんですか?」

「………。」

 困ったな。お客も待っているし、まわりがいぶかりそうだ。

「今、どこから掛けてるんですか?」

「………お昼、………会えませんか?」

 なんだって。まあ、ともかく、早く電話を終わらなくてはいけない。

「わかりました。じゃあ、大盛堂の一階にいてください。」


 咄嗟にしては、ユウコのような女を待たせるには一番いい場所が思い浮かんだものだと思った。しかし、いったい何の用だろう。そんなことが一瞬気になったものの、正直なところ、僕は嬉しかった。

 実は、一昨日に会った時も、彼女の連絡先やら、住んでいる場所やら、そういった具体的なことは何一つ聞いてはいなかった。というか、ユウコが自分から語り出すことを聞くのが精一杯で、それ以上別のほうに話を持っていくのは、ほとんど不可能であった。

 その電話の後の時間は、なんだか足がふわついている感じで、まわりに感づかれないか心許ない思いで過ごしていた。

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