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目に光をともす 13

ヒカリに連れてこられたのは一軒の少し広めの漁師料理屋だった。土地柄か、地元の人よりは観光客相手の商売が多いのだろうか、壁に掲げられた黒板には地元産の表記が目立つように書かれていた。


少し夕ご飯には早かったのか、まだ店内には人が少ない。僕らは一番奥のボックス席に通された。

席に着いたヒカリはもうメニューに手をかけていた。ヒカリは僕ほどは食べないが、女性にしてはよく食べる方だった。

ハヤトたちに雇われる前、以前の職場で体調を崩していたときには、よく食べるはずのヒカリの食が細くなりみるみるうちに痩せていった。それが僕に大きな危機感を抱かせたことをふと思い出した。


「ハル、これとあれ、頼んでいい?」

気がつくとヒカリが僕の顔を覗き込んでいる。ヒカリは全く意識していないが、なにげにヒカリの上目遣いはかわいいと言ってよかった。ヒカリは懸命におしゃれをするタイプではないが、元のつくりは悪くないと僕はずっと思っている。


ヒカリは、本日のオススメという紙に書かれたものと、それから後ろを振り返って、壁に掲げられた黒板を指差した。


「いいよ。他は?」

「ハルは、何食べたい?私、2つ選んだんだから、あと1つか2つ、ハルが選んでよ」


僕は唐揚げとポテトサラダを指差した。さっきヒカリが指したメニューは僕の知らないものだった。漁師料理屋なのに、鶏とポテトかとも思わないわけではないが、ヒカリが冒険した分、僕が安全対策を打っておくことはチームワークと言えるはずだ。


そんな僕の気持ちも知らず、

「ハルはほんと、ポテサラが好きだよね」などとヒカリは言う。

そして、店員さんを呼ぶと選んだ4つのメニューをオーダーした。


そのとき、ヒカリのスマホが小さくポンっと鳴った。ハヤトたちに定時連絡をする時間だった。

次の瞬間、耳につけたままのコミュニケーターからかすかなノイズとともにハヤトの声が聞こえた。


「そっちの状況はどうだ?」

こういうとき、テキパキと答えるのはヒカリだ。こいつはやっぱり真面目で、しっかりしてる。


「中は見てきた。今は夕飯を食べにお店に入ってる。このあとハルと最終確認をするつもり。」


「ヒカリ、わかってると思うが店ではするなよ。」


ハヤトの言葉にヒカリはちょっとムスッとして、すぐさま、

「しないわよ。そんなのわかってるよ」

と言い返し、少しばかり口を尖らせた。

本当かな。さっき、ここに連れてこられる前にヒカリが言った言葉は「食べながら打ち合わせしようよ」だ。僕はニヤけそうになるのを、ヒカリに気づかれまいと必死になって隠した。


おそらくハヤトもまた口元を緩めている気が僕はする。ヒカリはきっと、びっくりして否定するだろうけれど。


「じゃあ、夕飯を食べて、最終確認をする場所を確保したら、また繋げよ」


ぶっきらぼうに通信は切れた。

必要なことしか話さなない。とても、ハヤトらしい。


しばらくすると、お店のおばちゃんがホカホカと湯気をあげるお椀をトレーに乗せて持ってきた。


ヒカリが待ってましたとばかりに目を輝かせる。


一見、エビの入った普通のお味噌汁かと思ったが、件のエビを引き上げてみれば、異様に全身が平かった。エビをお腹で割いて、展開して、叩いてのめして、平らにしたみたいだ。


「…何これ?」


美味しそうに汁をすするヒカリは、お椀から顔をあげて、

「ゾウリエビ」

とだけ言って、すぐにゾウリエビ汁に戻ってしまった。



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