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ラスボス直前でセンター争いが勃発しました  作者: 水鳥 いつき


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16章 さとりの書

中間発表の結果を受けてリンドーは不機嫌の真っ盛りの中にいた。   


踊り子にジョブチェンジしてからは、短い準備期間であったがイケメン吟遊詩人を相棒にライブをこなし頑張ってきたが、ファンを増やすにはあまりにも時間が足らなかった。

「踊り子がどうやって魔王と戦えるのか?」とメディアで叩かれたのも痛かった。

極め付きは、転んで足をくじいたおばあちゃんを相棒の吟遊詩人がオンブをしていたのをパパラッチに撮られてしまって、「女とイチャイチャしやがって」とリア恋勢の女の子が激怒してしまった。

結果は最下位……


気分転換に吟遊詩人におんぶさせて酒場へやって来た。


「はい、食べさせて! あーん」


「は、はい」


イケメン吟遊詩人が慌てて料理をリンドーの口に運ぶ。

この先踊り子として頑張っても時間が足りない。二人のスキルが大幅にアップするのは難しくリンドーはやる気がなくなってきた。


(なんか、選挙とかどうでもよくなってきたな……)


「考えたんだけど、コンビ解消しようか。つまりクビ! このままやっても絶対センターなんか取れないし……これからは添い寝とかしなくていいからね、バイバイ!」


突然の解雇にイケメン吟遊詩人はうっすら涙を浮かべ、無言で酒場から出ていった。

残されたリンドーがスコッチウイスキーをグイッと飲み干す。吟遊詩人が去った席に一枚のチケットが残されていた。


”マイケル・ジャイ子 オンステージ 自由席” 世界的スーパースターのコンサートのチケットだった、今夜これから開催される。イケメン吟遊詩人がリンドーと一緒に行こうと思って買ったに違いない。


(マイケル・ジャイ子か……行ってみようかな……)



スタジアムは10万人のファンで埋め尽くされて満員だった。リンドーがいる自由席も沢山の人がマイケルの出番をまだかまだかと待ちわびていた。


コンサートが始まった。

マイケル・ジャイ子は凄かった。彼女の歌声とダンスが素晴らしくリンドーはすっかり魅了されてしまった。


(凄い……)


「次の曲はアルバム『さとりの書』から『鏡の中の女の子』」マイケルが優しく曲のタイトルを告げると荘厳な音楽と共に歌いはじめた。


「世界を変えたいなら鏡の中の自分を変えよう!」

「世界のために自分を変えよう!」


(マ……マイケル……凄いよ……YES!……)


 回転ダンスをキメながら愛のメッセージを歌うマイケルにリンドーは感動で号泣してしまった。


コンサートが終わり感動の涙でボロボロになってしまったリンドーは出口でイケメン吟遊詩人を見つけた。


「チケットありがとう、最高だった……私、ついに悟ったみたい」


「喜んでもらって良かった。でも一体何を悟ったの?」


「まず謝らせて。色々ごめんなさい。私、自分のことしか考えてなかった……もう、選挙とかどうでもいい、センターなんてどうでもいいの……」

「私、けんじゃにジョブチェンジ出来そう。けんじゃになって山にこもって世界のために祈り続けるんだ」


けんじゃは踊り子からしかなれないレアなジョブで、踊り子がまるで戦闘が出来ないので、踊り子を選ぶものは少なく、そのためけんじゃになれる者は稀だった。


「でも、魔王はどうするんですか? リンドーちゃんが戦わないと……」


「魔王は誰かが倒してくれるよ。私は、山で世界のために祈って愛のために命を捧げるの。芸能界の殺伐とした世界から離れてけんじゃは愛のために生きるわ。戦いは危ないしね、君子危うきに近寄らずよ」


「リ、リンドーちゃん!」


リンドーは吟遊詩人にもう一度お礼を言って別れた、そしてジョブチェンジのお寺へ向かって歩いていった。頭の中には先程のマイケル・ジャイ子の曲が流れる。



夜の山道を一人登るリンドー。ジョブチェンジのお寺が見えてきた、もう少しと思ったその時、どこかから声が聞こえる。


「リンドー様……」


それは解散したはずのリンドー盗賊団の幹部たち5人がひざまずいていた。


「お前達……勘違いしないで、私はもう親方じゃないんだから。私はこれからけんじゃになるの、世界のために生涯山にこもって世界のために祈るんだ」


「リンドー様、10万人の部下たちは目標を失ってさまよっております」


「盗賊なんて人に迷惑をかけるからダメ、私は自分勝手はいけないことだって悟ったの、もう全ての欲をすてて愛のために祈るの。みんなも欲を捨てなよ!」


「リンドー様、それは間違っています」


「えっ!?」


「リンドー様は世界平和のために戦うのです。リンドー様が先頭に立って部下に命じてください「世界を救え」と部下は喜んでリンドー様のために命を投げ出すでしょう」


(…………)


「リンドー様は我々の輝く星です。リンドー様、お願いです、我々を導いてください。リンドー様は我々の誇りです、世界一の親方です、いや、世界一じゃないとイヤです、ニ位じゃダメです」


「お、お前たち……」


リンドーの目に涙が……


「ありがとう! ついにわかったよ、私のやらなければならないことが! お前たち、こんな私だけどついてきてね、みんなの命は預かるよ!」


リンドーはそう叫ぶとジョブチェンジのお寺へ走って行った。


今週末は最後の握手会。さらにその一週間後はついに選挙の日がやってくる。

 



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