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ラスボス直前でセンター争いが勃発しました  作者: 水鳥 いつき


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10章 襲撃

大混乱の握手会が終わり、大臣たちは後片付けをしている。

 

4人たちの間には重く寒い空気が流れ誰も喋ろうとはしない。それぞれがこの日のために準備をしていたのだが、思ったようには行かないものだ。

ここにいても仕方がないので、そろそろ帰ろうとみんなが思っていたその時、一人の男の子が城門から走って来た。


「大変です! 魔物とモンスターがこちらに向かってきます」


大声で叫びながら走ってくる男の子はイケメン吟遊詩人だった。彼は4人の前まで来ると激しく咳き込んだ。やっと息を整えると哀願するように話だした。


「アイラちゃんがやられてしまいました、僕のパーティーは全滅です。しかも魔軍曹ビリーブートはゴーレムを連れてこの街を襲いにすぐ近くまで来ています。このままでは大変なことに……」


「アイラちゃんがやられただと!? 魔軍曹ビリーブートって以前私たちが倒した奴じゃん」

ブレアが驚く。


「この街に向かって来てるって、城門までいってみようよ」リンドーがみんなを促すと、みんなは一斉にうなずき城門へ走って行った。



城門を出ると、ズンズンと地鳴りのような音と共に遠くから土煙が上がっているのが見える、魔軍曹とゴーレムだ。約3000体ものゴブリンも槍のような武器をもって雄叫びを上げながら走ってくる。


「あれを見て!」


ラフロが指をさしたその先には、魔軍曹ビリーブートがいる。魔軍曹は口にアイラちゃんをくわえてこちらへ走ってくる。アイラちゃんは生きているのかわからない、目をつぶったまま、ピクリとも動かず意識があるようには見えない。


「おい、吟遊詩人! いったい何があった!」パークが叫ぶ。


「僕たちはビリーブートに戦いを挑みました。戦いが始まると魔法使いはいきなり転んで捻挫をして泣いてしまって戦闘不能になりました。僧侶はアイラちゃんを後方支援しようとして、やはり転んで後頭部を強く打ち付けて気絶してしまいました。商人は戦いが始まってすぐに石につまずいてお金を落としてしまい、拾っている間にゴーレムに踏まれました。幸い命は大丈夫だったのですが……」


「アイラちゃんがそう簡単にやられるとは思わない。HPマックスで戦ったんだろ」リンドーが吟遊詩人に問いただす。


「アイラちゃんは、回復疲労で疲れていて思うように動けなかったんです」


「回復疲労? なんだそれ?」


「回復魔法の受けすぎです、ビリーブートと戦う直前にも、全回復魔法を10回も受けてました」


吟遊詩人が涙目になる。


「何回目かの全回復魔法でアイラちゃん気を失っちゃったんです、顔は何故か何かをやりきったような満足した笑顔のままだったけど、なので僕たちはもうやめたらと言ったんですけど、やる気がでないからとその後も何度も何度も……」


「なんでそんなに……意味わかんない」ラフロが呆れる。


「戦いを始める時には意識が朦朧としていたのか、剣も盾も忘れて千鳥足でビリーブートに向かって行って……」


「それでもアイラちゃん凄かったんです、素手でビリーとゴーレム30体としばらくやりあっていたのですが、結局……」


「アイラちゃん、凄く疲れてたのかな? 握手会を欠席して戦ってたんだね」ブレアが呟く。


魔軍曹ビリーブートはアイラちゃんをくわえたままついに城門近くまでやってきた。ゴブリン3000体が先陣をきって城門に殺到してくる。さらに30体の巨大なゴーレムも地響きをたててやって来る。


「おのれ!」


ピクリとも動かないアイラちゃんを見つめたブレアは魔法の詠唱を始めた。

ブレアが魔法の杖を高くかかげると、大地が激しく振動し、空気が悲鳴を上げるように揺れた。あたり一面が暗くなり空一面が真っ黒の雲に覆われた。空を覆い尽くす巨大な雷が次々とブレアの杖に集まってゆく、さらに激しい突風が渦をまいてやはりブレアに集まる。

魔法界でいまだかつて使えた者がいなかった究極秘技魔法を神以上の天才と言われたブレアが唱える。

高く掲げた魔法の杖から30体もの巨大な炎の龍が黄金の稲妻をまとい放たれた。同時に無数の竜巻がブレアの杖から発生しさらに灼熱の炎が吹き出す。炎の竜巻が空を真っ赤に染めたと思ったとき、炎の龍が一斉に恐ろしい咆哮をあげゴブリンの群れに向かって落下していく、この世の終わりのような赤い光と稲妻が一面広がる。


「すぐ、ピーピー泣くから子供たちは嫌いなんだよ!」


ブレアがそう叫び魔法の杖を振り下げると大地を割るような炸裂音と共に3000体のゴブリンが消し飛んでいった、巨大ないくつもの真っ赤なキノコ雲に飲まれてゴーレムも半分の15体が姿を消していた、ビリーブートも両足が吹っ飛びその場で座り込んだ。


すると、残った15体のゴーレムが唸り声を上げる。すると体中にヒビが入り、中から溶岩のようなのもが吹き出したと思ったら、爆発し無数の燃える隕石と化して襲いかかってきた。数え切れないほどの隕石がパーティーと街を襲う。


後方からヒュンと風を切る音がするとパークがジャンプし高く舞い上がった。雲の切れ間から注ぐ太陽の光を背に空を舞うその姿は天使を思わすものだった。

かつて、一人で十万の空飛ぶ悪魔を撃ち落としたという伝説のアーチャーが人間の目では負えないほどのスピードで七色に輝く無数の矢を連射した。それら連射された矢は正確に隕石に向かってゆく。


「女は面倒くさいんだよ! 主張ばっかりしやがって!」


数え切れないほどの炎の隕石がパークの放たれた矢で全て撃ち落とされ粉砕された。


残された魔軍曹ビリーブートがアイラをくわえたまま怯む。すると座り込んだ魔族の体が不思議な光をはなち、ギシギシと嫌な音を立ててきしみ始める。世界が生まれて以来、初めてこの世の全ての神の祝福を受けた奇跡と呼ばれるラフロの石化魔法が始まった。10歳の時、復活したサタンと四大悪魔を一人で封印して最上位大司教の称号を与えられたラフロの束縛を逃れたものはいない。

人類最強といわれた王直属聖七騎士を一瞬で倒した、不老不死の怪物と呼ばれた魔軍曹ビリーブートが何も出来ずに断末魔の悲鳴を上げる、恐怖と苦痛で顔が歪んでいる、眼には涙が光る。


「聖職者のくせに煩悩ありすぎ! 一般の人が逃げちゃったじゃない!」


魔軍曹の体が足元からドンドン石化して行く、完全に石になると思われたとき、空に黒い煙と共に大鎌を持った腕が現れた。


「アレは魔王の腕!」


鎌は魔軍曹の首を体から切り離し、さらに魔王の腕が魔法をビリーブートの首にかける。すると石化するまえのビリーブートの頭がアイラをくわえたまま飛び上がる、頭は空を飛び魔王の城へ向かって飛び去っていった。


「アイラちゃ~ん」吟遊詩人が叫ぶ。


「安心しなよ」


声に驚いて横をみるとリンドーがアイラを抱えて立っていた。

難攻不落と言われたルブール美術館からあの名画モアリザを盗み、あのアルカットラス刑務所から部下10人を脱獄、救出した大盗賊リンドーのマジックだった。目に見えない素早さと誰にもわからないトリックをつかい、変装の天才で開けられない扉はないと称えられた彼女は知識の泉とも言われている。

空を飛ぶ頭はいつの間にかアイラの代わりに唯一生き残ったゴブリンをくわえていた。

リンドーはアイラを地面にそっと横たえる。


「だから貧乏人は嫌いなんだよ!」


そう叫ぶと空を飛んでいるビリーブートの頭が爆発した、白い煙をあげて粉々になった破片が落ちてゆく。

魔王の腕も猛烈な爆発を起こし、手にした鎌が粉砕された。叫び声を上げた魔王の腕は黒い煙の中に逃げて行きやがて消えた。

リンドーが仕掛けた炸裂の木の実の大爆発だった。ものすごい威力で魔族は敗北した。


こうして魔軍曹ビリーブートは倒され、4人はアイラの救出に成功した。街には一時の平和が訪れたのであった。

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