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どうやら、ここから始まるらしい

 本編最終話となります。この後13時・14時・15時に閑話を入れて完結とさせて頂きます。

 最後までよろしくお願い致します。

「やぁ、エステル君。ギルドの外で会うのは久しぶりだね。あ、そうだ。これはお土産、みんなで食べてくれるとうれしいね」

「こんにちは、テオドールさん。商談の方は如何でしたか?」

「まぁ、それなりかな? 護衛に雇った彼らもまぁまぁ、かな。色々と足りないところは多いけどね」

「そこは大目に見て下さい。彼らも、新人の中ではそれなりに場数も踏んでいるんですよ?」

「……そうだったかな? いやぁ、彼ら(・・)がいないとちょっと不便でね」

「テオドールさんの基準が高いんですよ。それなりの方はいらっしゃいますよ?」

「それなりじゃつまらないんだよね。もっとこう……私が支援したくなるような子が入って来ないかなぁ……」

「……そんな人が居たら是非ともギルドからもお願いしたいですね。……ところで、このお土産って……」

「ん? ワイバーンの肉だよ」

「そんなものをサラッとお土産にしないで下さい!!」


 今日も王都に覇王様の笑い声が響く。


 その頃、王都に程近い街道のとある場所では、偶然現れた虫型の魔獣を相手にへっぴり腰で戦う男の姿があった。


「……いつまでびびってんだ。さっさとやれ」

「うるせぇ! んな事言ったってキモイんだから仕方無ぇだろうが!」

「あ、飛んダ」

「ひぎゃぁぁぁぁぁ!? キモイキモイキモイキモイッィィィ!?」

「相変わらず慣れねぇなぁ……」

「此処に来るまで、それなりの場数は踏ませてるんですけどね」


 自主的に、では無くわりと強制的に。だが、あくまでもギルド員としてやっていく! と言い張ったのは男の方なので仕方が無い。嫌がるのを無理矢理に戦わせるのは気が引けるが、本人がギルド員になると言い張ったのだから仕方が無い事なのだ。アー、心ガ痛イナー。


「ぎにゃ(頑張れ、ご主人)」

「ヴニャ(右にいるわよー)」


 ギャイギャイと騒ぎまくる男共を眺める猫夫婦は平和そのものだ。

 パッと見は毛の長さ位しか差異が無い程に良く似ているのだが、兄妹などでは無く立派な番である。良く見れば毛の短い方の猫の腹は大きく膨らんでおり、遠くない内に子猫が産まれるものと思われる。ただでさえ賑やかなメンバーが、さらに賑やかになる事は間違い無い。

 今も尻尾を絡めて何とも仲が良さそうだ。

 

「ちくしょぉぉぉぉ!」

「残念、外れだ」

「もうちょっとしっかり狙えヨ」


 へっぴり腰のせいで狙いが定まらないのか、ナイフをぶんぶんと振り回しても虫型の魔獣には掠りもしない。むしろ、魔獣の方が男を挑発するように羽先を掠めながら飛び回る始末。


「……完全に遊ばれてんなぁ」

「むしろここまで遊ばれるのも珍しいですね」


 普通ならすぐさま首狙いで襲い掛かって来る筈なのだが、と話し合う二人ののん気さとは裏腹に虫を前に戦う男はわりと本気だった。本気でびびってもいるけど。


「ひぁぁぁぁぁ!? 顔に、顔にぃぃぃぃ!!」


 ビチッと音を立てて止まられた。足の棘が地味に食い込む。しかし、虫はそのまま男の顔に食らい付くでも無く、羽を休めているかの如く触角を揺らしている。その余裕綽々な様が何とも憎々しい。

 こんにゃろぉぉ! と気合一発。強引に顔から引き剥がして地面に叩き落し、渾身の力で踏み付ける! 結果、哀れな虫は地面の染みと化すのであった……。


「いや、戦闘自体がグダグダだったから」

「次見つけたらもう一戦ナ」

「そんな!?」

「ナイフで倒せって言ったろうが」

「ノルマがクリア出来なかったんだから当然だナ」

「俺らを見返すんだろ? なら頑張れよ」


 ここから王都までは後二時間程である。それだけあれば、小型の魔獣なり獣なりは狩れるだろうか? と話し合う二人の内容を、靴裏にへばりついた虫の体液を地面に擦り付けるのに必死な男は聞いていない。後で後悔する事にならなければ良いのだが。


「ぎなぁ(ご主人のご主人)」

「ん? どうしました、ブサ?」


 ぎなぎなと少し変わった鳴き声のその猫は、以前の体の持ち主が使っていた名前をそのまま引き継ぐ事にしていた。それまでは適当に『ノラ』『部長』『親分』などと、人によって呼び名が変わっていたので、特定の名前で呼ばれ続ける事に憧れを持っていたのだ。それに、その名前自体にも愛着はあったので。それまでその名で呼ばれていたのは自分では無いが、それでも良いのだと名を引き継いだのだ。

 

 スリ、と男達の中でもっとも体が大きく顔の怖い男の足に擦り付けば、途端に自身に関心が寄せられる。そのまま抱き上げられる腕は優しく、体を撫でる腕も心地良いものであった。顔は怖いが。寝起きに見ると未だに毛が逆立つが、当人には内緒である。


「ぎな(また来た)」


 ブブブ……! と羽音を響かせながら近付く影は、つい今し方男が倒したばかりの虫と全く同じものだ。

 早速第二戦だ! と発破を掛ける男達に、ナイフを構えた男は涙目である。やけくそで振り回したナイフはやはり掠る事も無く、無駄に空中を切り裂くのみ。

 仕方無しに、と指導していた男が軽く羽を切り付けて虫の機動力を奪う。地に落ちるとまではいかないまでも、宙を飛び交う速度が落ちた虫はやっと男にも捉えられるものとなった。何とか狙い定めた刃先が虫の体を抉り、そのまま勢いに乗って切り捨てる。


「……及第点ってとこか?」

「支援無しであっさり殺せるようにならないときついよナ」

「うるせぇ! 必死に頑張ってんだろうが!!」

「なぁ、『ご主人様権限』でちっと叱ってやっちゃぁどうだぁ?」

「一応は頑張ったんですから、その点は褒めても良いと思いますよ」


 その点はというか、そこしか褒める点が無いとも言う。

 そしてセリフの中にあった『ご主人様権限』のところで物凄く嫌そうな顔をした男に苦笑い。彼とて好きで男の『ご主人様』になった訳では無いのだが。


 男がホムンクルスの体を得る際に、主人として誰かを登録しなければならないという必須条件があったのだ。そして、それに該当するのがその場に彼しか居なかったという訳で。

 男は可能なら、エステルやレアを自らの主人として設定したかったのだが、その場にいないと不可能だという事、そして相手の認可を得ないと主人として設定出来ない事を説明されて半ギレしながらも諦めるしか無かった。その説明を素体に入って目覚めた後に言われた上に、主人を設定しない限りはポッドから出られないという事を知った時の絶望感は半端無かった。

 そう考えると、今こうしてギャイギャイ騒いでいるのは無理の無い事なのかもしれない。


 その後の道中では男にとっては幸いな事に、彼らにとっては残念な事に、追加の魔獣が出て来る事は無かった。スパルタ鍛錬を免れたと喜ぶ男だが、そんな事は無い。ギルドの修練場と言う便利な施設をお忘れでは無いだろうか?

 単にスパルタ鍛錬が、少し後に延びただけである。


「王都も久しぶりだなー」

「やっと人の姿でエステルちゃん達に会える……!」

「俺ぁ腹一杯、美味い飯が食いてぇ……」

「泊まるとこはいつものとこだロ?」

「そうですね。ジョゼの事もありますし、しばらくは王都に長期滞在する必要がありますね」


 遠くから見えていた町に入る為の門が段々と近付いて来る。以前通った時は物凄く大きく感じていたが、改めて通る事になってもやはり大きいと思う。

 

「んで、お約束のヒソヒソ攻撃、と」

「ま、久しぶりだからしゃーねーナ」


 相変わらずの人が近付かない謎の空白地帯である。そして彼らを盗賊では無いかと囁く人の声。溜め息しか出ない。

 そして、門番に連絡が行ったのか、足早に近付いて来る衛兵達の表情は固い……と思いきや、一人の衛兵の言葉で周囲の緊張感は消え失せた。


「あ、ぁあ——! あなた方は、あの時の顔の怖いひとたちゅっ……!」


(((((噛んだ)))))

(埋まりたい……っ!!)


 涙目で悶える衛兵を気遣う男達の様子と、どうやら知り合いらしい衛兵のセリフにすわ盗賊が紛れているか、という疑念は解けていった。

 そのまま手振りで門番達の所で処理を受けるように促される。噛んだ舌が痛くて口が開けられないので仕方ない。

 気持ち気の毒そうに見やる男だが、衛兵の指に光る指輪に表情が変わった。リア充爆発しろ。舌噛みざまぁ!! と。だからもてないんだ。


「えーと、それでは王都に入る前に身分証明書の提示をお願いします」


 門番の言葉に迷い無くギルド証を提示する四人。二匹の猫には身分証は必要無い。

 残る一人はというと、身分証を提示する事も無く不安そうに佇んでいた。チラチラと視線が四人に流れる。


「……どうしました? 身分証の提示をお願いします」


 そう告げながらも片手を剣に伸ばす門番。そのただならぬ様子に、近くに居た門番達の気配も尖る。

 本気で焦り始めた男の前にギルド証を提示した一人が立ち塞がり、懐から『ホムンクルス所有証明書』を提示する。


「失礼、彼は私が所有するホムンクルスで、名をヴァンサン(・・・・・)と言います」

「……証明書の確認、完了しました。どうぞお通り下さい。王都へようこそ」

「ありがとうございます」


 何とか無事に王都へ入れたヴァンサンだが、物申したい事がある。


「て……っんめぇ、クソアンリ!! もっと早く証明書出せってんだよ! 無駄に焦ったじゃねぇか!!」

「まだ持ち慣れてないものですから、つい。ワザとじゃありませんよ?」

「嘘くせぇ……!!」


 無駄に焦らされた事に噛み付くが、サラリと流された。強い。


「ほら、とりあえずギルドに行くぞ。登録するんだろ?」

「そうだった!」


 アッサリと態度を豹変させてギルドへと向かい始めた男の姿に、アンリの顔に苦笑が浮かぶ。


「ロラン、助かりました」

「いや……相変わらず単純だな、あいつ」

「中身はブサのままだしなぁ」

「それナ。つか、あいつ道間違ってんゾ」


 クリ、と振り向けばあらぬ方向へズンズンと突き進む元ブサ、現ヴァンサンの姿。その行く先が歓楽街、それも娼館が多く立ち並ぶ方というのは知っているのか、本能なのか。

 慌てて駆け寄り方向を修正する。もちろん、今まで進もうとしていた先に何があるかは告げずに。

 

「たのも――う!!」

「うるせぇ」


 扉を開きながら大声でのたまうヴァンサンの頭にサミュエルのこぶしが落ちる。うるせぇ。


「ロランさん、お久しぶりです。……えーと、この方は?」

「エステル、悪いがこいつのギルド員登録を頼む。保護者はアンリで」

「はい……保護者、ですか?」

「アンリの保有ホムンクルスなんでな」


 ロランの言葉に驚愕の声を上げるエステルと、ギルドホールで屯っていた野郎共。それもその筈。ホムンクルスはこの大陸ではあまり見ないものなのだから。

 そんな存在が目の前に居て、なおかつギルド員として登録するとなれば驚くのも無理は無いだろう。


「……承知致しました。それでは、登録に移らせて頂きますのでお名前を教えて頂けますか?」

「俺の名前はブ……ヴァンサン、あなたの愛を求める者です!」

「……すみません、私先日結婚したばかりなので」


 ドヤ顔で告げた自己紹介が虚しく響いた。

 お久しぶりの噛み噛み衛兵さん。あの後無事に結婚しました。満を持して再登場、リア充爆発しろ。


 そして、ブサ改め『ヴァンサン』と改名しました。

 しばらくは双方が呼び慣れない為に、似た名前的な感じで。正確には『ブ』と『ヴ』で違うけど、音だけなら似てるのでセーフかな、と。


 ジョゼは念願の番ゲット! 後日モフヮッサァ……! な、ちび猫らが産まれます。一匹欲しい。

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