どうやら俺達は、異世界で幸せになったらしい
ブサのお仲間の残りの二人の転生後です。
死ぬ前の人生は、正直クソな人生だったと断言出来る。好き勝手に生きて、死んだが、その裏には俺達が金を騙し取った大勢の人間がいた。
それを考えると、俺達が殺されたのは当然の結果と言えるだろう。人の恨みは相当に買っていただろうしな。……もっとも、俺達を殺したのは俺達が騙した人間とは何の関係も無い奴だったらしいが。
何故、そんな事を知っているかと言うと、ソレを俺達に教えた奴がいたからだ。本人は『神』と名乗っていたが、今の状況を思い返すにソレは正しかったのだろう。
何しろ、今の俺達は異世界に転生しているのだから。しかも、駄目元で言ってみた俺達の要望通りに。
「ねぇ。ドニ、疲れた?」
「ん? いや、大丈夫だ。サラこそ、疲れていないか?」
「私も大丈夫よ。やっと、念願が叶うんだもの! これ位で疲れたなんて、言ってられないわよ!」
俺の隣には生涯の伴侶として決めた妻のサラがいる。
元の世界では俺達の関係を堂々と言うのは憚られるものだったが、こちらの世界に生まれ変わるに際して願った結果、人目を気にする事も無くなった。
幼馴染として転生した村でも評判の美少女だったサラは、他の同年代の少年達から思いを寄せられる事も多かった為、連中からの俺への当たりは結構厳しいものだったが。その程度で諦めるような軽い気持ちじゃ無いんだよ、こっちは。それこそ前世からの関係だったんだからな。
それに、近くの村には女狂いの同年代の男もいると聞いてサラと二人で警戒していたから、次に行商人達が来たら一緒に村を出て行こうと決めていた。こちらの両親からは成人前だから凄く反対されたけど、俺達の決意が固い事を知って最終的には応援してくれた。行商人への交渉も、しばらくの間の生活費として現金も渡してくれて両親達には感謝の念しか無い。
村を出てからは、二人で行商人の下で雑用をしながら王都へとやって来て、開店資金を貯めてこうして店を持つまでに至った。
もちろん、その間が順風満帆だった訳では無い。
王都への道中では俺達のいた行商隊が盗賊に襲われて、危うくサラと命を失いかけた。偶々通りかかった商人とその護衛達がいなかったら、今頃俺は骸を晒し、サラは口にするのも憚られる行為をさせられていた事だろう。その後は奴らの奴隷か、あるいは死か。
どちらにせよ、サラを失わずに済んだ事は俺にとって……ま、まぁ、過去の事だ。今は妻が隣に居てくれる事を素直に喜ぼう。……思い出してたら恥ずかしくなった、とかじゃ無いからな。決して。
「どうかした?」
「いや、何でも無い」
どうやら顔が赤くなっていたらしい。気を付けよう。
何はともあれ、今日この日に俺達は自分の店を持つに至った。これも盗賊に襲われた事で縁を持てた商人のおかげだ。その代わりに借金を背負う事にはなったが、出資してくれたあの商人なら騙すような事はしないと確信している。お世話になってた行商隊の人達も、信用出来る人だと口を揃えて言っていたし。
ただし、借金を返さないような真似をしたら正当な手段で報復はしてくるだろうから油断は出来ない。恩を仇で返す筈も無いけど。
「……早速、中に入ってみるか?」
「もちろん!」
サラの肩を抱いて、俺達の店へ足を進める。
柄ではないが、緊張しているのか胸がうるさい。
店の内装とかはザックリとした構想だけ渡して、後は出資してくれた商人のテオドールさんにほぼ任せていたから、俺達も店に入るのは今日が初めてだ。
「……うん! 想像通り! あちらとも遜色無い出来映えだわ!!」
「サラ、その事は……」
歓声を上げたサラの口を軽く指で押さえる。元異世界人というのは、出来れば内緒にしておきたいからな。
どうやら、過去にはそういった人もいたらしいけど、その多くは国に仕えて一生を送ったらしいと聞く。だけど、学の無い俺達では国の利益になるような事は出来ない。元異世界人だと知られても、百害あって一利無しだろう。だから、俺達はソレを察されないように過ごす事を決めている。
俺の行動に舌をペロリと出した妻の姿は可愛い。思わず抱き締めたら腹をストレートで殴られた。
……前世をちょっと引きずっていませんかね、うちの奥さん……。
痛みに蹲る俺に、焦った様子を見せるサラは可愛い。ちくしょう、怒れない。
宥めるように頭を撫でれば、フニャリと顔が緩んだ。可愛いなぁ、えぇ? おい。
そのまま床に座り込み、隣にサラを抱き寄せる。今度は殴られずに済んだ。流石に、二度も連続で殴られたら凹む。
「今日から、此処が俺達の城だ。……頑張ろう」
「そうね! お客さんいっぱい呼んで、沢山お金落として貰わなきゃ! あたし達の為に!!」
……うん、うちの嫁さん可愛いです。例え目がお金マークになっていて、物凄くギラついていようとも……。お金は大事だからな、うん。前世で思い知ってますとも。
* * * * * * * * * *
王都に店を出してから早二年。
俺達二人の店も順調に軌道に乗っていた。もちろん、初期の頃は色々と面倒もあったけど、その度にテオドールさんが色々と手を回してくれたり、助けてくれたおかげでここまで来れた。
その事にお礼を言いに行ったら「私も出資もしている事だし、見込みのある人材は守るから安心して良いよ。ただし、私も商人だからね。これ以上は目を掛ける必要が無いと思えばバッサリ切り捨てるから、油断だけはしないようにね?」と返された。シビアな回答だが、商売なんてそんなものだ。切り捨てられないように俺達も気を付けないと。
既に最初の借金は返し終わっているけど受けた恩は返し切っていないし、後から受けた出資の分もあるからまだまだ彼との縁は切れないだろう。こちらから切るような真似をしなければ。
俺達が王都で始めたのは、所謂高級クラブのようなものだ。
こちらの世界の酒を出す店と言えば、ほぼ性的サービスもセットになっているような店になっている。酒を飲みながら気に入った女性を指名して、店の二階でサービスを受けるって形だ。ついでに、寝物語に情報を抜き出して、その情報を別の客に売ったりという事もしている。
だが、俺達が始めた店はそういった性的サービスは一切無しの健全な店だ。それ以外のサービス、酒や話術で客を楽しませる事を主目的としている。だからこそ、うちで働く女性には色々な事を勉強して貰って教養を深めている。はっきり言って勉強内容は多岐に渡るから厳しいものだけど、体を売らなくて良い事から従業員達からの反応は良い。
それに、店で得た情報は決して外には出さない事にしている。これもまた、客からは評判が良い。おかげで、商談の場としてうちを使ってくれる人も増えた。
もっとも、開店直後は色々とトラブルもあったけど。
性的サービスは無いと言ったにもかかわらず、強引に女性従業員に手を出そうとする客がいたり。同業者からの嫌がらせがあったり、客の情報を無理矢理聞き出そうとする奴がいたり、貴族からの横槍もあったりした。あとは、店長である俺とサラの年齢の若さに漬け込んで騙そうとする奴とかも。
一番の難題となった貴族の横槍は、サラを強引に妾にしようとしたものだったけど、これもテオドールさんのおかげで何とかなった。
あんな豚達磨にサラを渡すなんて冗談じゃない。当時は奴の言い分に怒りに震えていた。後日、テオドールさんのおかげで溜飲も下がったけど。商人怖い。
……本当、あの人って何者なんだろうな?
本人は商人って言ってるけど、見た目的にはこう……何と言うか『覇王』にしか見えない。前世の漫画であんなキャラを見た事ある。
時々は元異世界人なんじゃないだろうか? と思う時もある。考え方が柔軟で、アッサリと俺達が出したい店の価値を見抜いて出資してくれたし。
一番の謎は貴族への影響力だ。サラの事で相談をした後、数日してから当の貴族本人がやって来て、ガタガタ震えながら二度とサラを望む事は無いと言って来た。……本当、何をしたんだろうな。商人怖い。……商人のレベル超えてる気がする。
当時の出来事を思い出しながら思わず笑っていると、隣に来た妻が不思議そうに覗き込んで来た。そのまま顔を近付けてリップ音を響かせる。開店前だから、化粧が崩れないように軽くだけど。
顔を真っ赤にしてこぶしを握る妻をかわし、従業員達に開店の時間を告げる。
俺達の触れ合いを見て、全員俺達に生温かい目を向けているが、仕方無いじゃん。うちの奥さん最強に可愛いんです。それを言うと、最近は「はいはい」って軽くかわされてしまうんだがな。
「さて、今日もお客様方には一夜の夢を提供しましょう。お客様を楽しませて、快く過ごして頂く事を心掛けて、ただし、無体な事をされそうになったらすぐに私を呼んで下さい。あなた方は当店の大事な従業員です。店長である私が必ず守りますので、我慢だけはしないように。……それでは『Momotaro』開店しましょう!」
「「「「「はい!」」」」」
私の号令に従業員達が一斉に返事を返す。客を迎え入れる為にキビキビと動き出した彼女達を見送る私に、妻が一言。
「……ねぇ、店名だけど……もうちょっと良いのが無かったの?」
「不満?」
「……ちょっと、ね。あんまり、お酒飲むお店っぽく無いし」
「でも、俺達のルーツだからな。もしかして、店名に気付いて他の二人に会えるかもしれないし。それより、デルフィーヌも準備は良いかい?」
「えぇ、カミーユ。あなたもね」
「それじゃぁ……」「えぇ」
開店後の来客第一号に従業員達から来店の挨拶が響く中、私達も頭を下げる。
「「いらっしゃませ、お客様。今宵は『Momotaro』にお越し下さりありがとうございます。どうぞ、ごゆるりとお寛ぎ下さいませ」」
店名は読んだまま『桃太郎』です。うわ、名前酷すぎる。
けれど、詐欺師グループの名字の頭文字が『犬・猿・雉・桃』だったので、元仲間なら気付く筈だとこの名前にしてます。ちなみにこの二人の名字は『雉本』と『桃地』。池じゃなくて川だったら完璧だった! とは本人の談。
なお、本編で会った時のブサは当然気付いてません。二人も「猿渡と似てるなー」とは思ったけど、自分達の生きてきた時間を考えると猫に転生させられた猿渡はもう死んでいると考えていた為に一層しんみり。残念過ぎる。ブサ自身も当然気付いてません。
元・犬山とは今後も会う機会は無いので、何かの拍子に元・猿渡が暴露しない限りは気付く事はありません。
この二人は今後も幸せに暮らします。リア充爆発しろ。




